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拾夜 想

未だ体調不良なルナサーです。ショージキ、今週中に上げ……てないですが、上げれたことに(自分に)拍手の状態です。こんなときに頑張るなって? 良いんです、趣味ですから。では、今週もよろしくお願いします!!

 常々おもう事がある。伝えたく無い思いと伝えたい思い、どちらがより“重い”のだろうか、と。……特にどうでもいい、と切り捨ててもいい考えではある。

 だが、それでも思い続ける、考え続けることが、人を人で在らせるはずだ。


 勾陣との一戦の後、意識が戻らない未希は三日間昏々と眠っていた。目を覚ました時彼女は、失せた時間の感覚と暗闇の部屋に戸惑った。どこからも光が入らない。窓が無い部屋だと思った未希は、身体を動かし起き上がろうとした。しかし、腕を少し動かしただけで激痛に襲われ、奥歯を食いしばる羽目になった。呻く傍らで、光が差し込んだ。それが、引き戸が開いた事だ、と気付くまで少し時間が掛かった。

「目が覚めたのか、未希」

「……っく、兄さん……」

 少しでも身体を起こそうとして、未希はまた激痛に耐えるように奥歯をかみ締めた。ギリっと小さな音がしたが、貴仁がそれを気にする気配が無い。

「そりゃ、依魂を二個も使えばそうなるさ」

「……ぅ……」

 気付かれていたようだ。分からないように使ったのに、と心の中で呟く。暗いせいで兄の顔が見えないが、恐らく無表情もいいところだろう。

「まぁ、自業自得だ。当分辛いだろうが……」

 そこで不意に兄は言葉を切った。苦しそうに呻き続ける未希は、早くこの痛みを鎮めたくてしょうがない。兄に懇願するように言おうとした。が、その前に貴仁が口を開く。

「結美ちゃんが感じた心配よりは重くないだろうよ。あと二日くらいは、そのまま苦しむだろうが」

「ぇ……? ぇえ……! ぐぁ!」

 未希の口から思わず大声が出て、それと同時に起こった激痛に悲鳴がこぼれる。悲鳴を無視して貴仁は、頑張れ、と言って引き戸を閉めた。その後あがった悲鳴は、部屋の外には聞こえなかった。


 息を吐いて未希の部屋から居間に戻った貴仁は、居間でくつろぐ拓人を見て湧き上がる殺意を必死に押し殺していた。そんな貴仁にお構いなく、拓人は急須からお茶を湯のみについで啜っている。我慢の限界に達した貴仁は、静かな怒りを込めて拓人に言う。

「いい度胸だな……。滅ぼしてやろうか?」

「まぁまぁ気にすんなよ」

「誰の家だと思ってやがる?!」

 殴りかかろうとしたが思いとどまり、盛大にため息を付いた後、貴仁は拓人の向かいに座り、渡された湯のみに口をつけた。何度も無断侵入を許したせいか、拓人は何処に何があるのかを把握している。まさに、勝手知ったる他人の家。

「なぁ貴仁、聞いていい?」

「何をだ?」

「未希ちゃん、気が付いた?」

 その話か、と呟き、貴仁は茶を啜った後に言った。

「戻ったよ。今は激痛に耐えてもらってる」

 事も無げに言ってやると、拓人はかなり引き攣った顔で、痛み止め無しでか、と聞いてきた。無言で貴仁が頷くと、思いっきり身を引いて、恐ろしいモノを見るような顔をされた。

「当然の報いだと思うが?」

「……それを差っ引いても、お前酷いわ……」

 妹さん哀れ、と続けて言い、拓人もまた茶を啜る。それから両者とも喋らず、沈黙が続く。二人の湯のみの茶が減ってきた頃、唐突に拓人が口を開いた。

「依魂は、お前んとこの先祖が作った、人を強化する“為だけ” のモノだったよな?」

「そうだ。だが、強化する代わりに、酷い副作用もある。それが……」

「それが、今の未希ちゃんの症状……、で良いんだよな?」「ああ」

 意図の読めぬ会話だ。だが、それは玄関に繋がる引き戸の向こう側にいる人間に向けられたものだった。貴仁が顔を拓人から引き戸に向けると、戸が遠慮がちに開いた。立っているのは結美だ。制服であることから、学校帰りだ、と容易に想像できる。

「……勝手にごめんなさい。……未希の意識は……、戻ったんですか……?」

 部屋には入らず震えながら聞く結美に、貴仁は微笑を浮かべて返す。

「ああ、無事……にな」

「あれが、無事って……痛っぇえ!」

 貴仁に付け加えようとした拓人は、向かいにいる貴仁に思いっきり足を踏まれた。痛みに呻く拓人を無視して、貴仁は結美に続けて言う。

「あと二日したら学校に行けると……「っ……明日には……行ける……」

 貴仁の言葉を遮って、掠れた声が反対側から聞こえた。三人が揃って声の聞こえた方を向く。そこには、戸にもたれ掛って息を荒げる未希の姿があった。寝巻きの手首足首に、恐らくロープと思われる千切られた紐を付けている。一体何があったのだろうか、と勘繰りたくなる姿だ。

「……お前……。せっかく四肢拘束してたのに……、引き千切ったのか?」

「たっ、貴仁さん?! 妹さんに何してらっしゃる?!」

 勾陣との一戦の後に聞いたような事を拓人が叫ぶが、貴仁は知ったことか、と言わんばかりに無視した。未希はちらっと兄を見て、自分と反対側に立つ結美に目を向ける。その目が痛みにすっと揺れた後、結美に向かって呟くように言った。

「昨日は……、ごめん……って言えばいいのか……?」

「……未希が、謝ることないよ……。昨日は……ありがとう……」

 感情表現が下手な未希と、どう言い表せればいいか分からない結美。お互い、どうすればすれ違わなくて済むか分かっていない。そんな二人の間で、事の成り行きを沈黙と共に見守る兄二人。四人全員が沈黙のまま、時間が流れる。

 不意に、小さな鈴の音が聞こえた。それは徐々に大きくなっていく。それに、四人がはっと息を飲んだ。真っ先に動いたのは、激痛が身体に残っているはずの未希。寝巻きではあったが、結美の立つ戸口に走り出す。結美の傍を通り抜ける瞬間、彼女は友の肩を叩いた。

「おい、未希!」

 貴仁の制止の声が、結美の耳朶を打つ。しかし未希は聞かず、玄関を開けていってしまった。その未希を追うように、結美もまた玄関をくぐって外に駆けていった。呆然とする貴仁の傍で、拓人は頬杖をついて、友達同士っていいな、と貴仁に聞こえるように呟いた。

 外は相変わらずしとしとと雨が降っている。その雨の中、神社の境内には鬼たちがうろついていた。鈴は、この鬼たちに反応していたのだ、と気付くまでさほど時間は掛からない。傘もささず、未希は無表情の中に嬉しそうな光を湛えた。彼女の隣に遅れて並んだ結美は、そんな未希に目を一瞬向けてふっと嬉しそうに息を吐いて聞いた。

「そんな状態で大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない。……言わせたかったの?」

「乗ってくれるとは思わなかったなぁ!」

 満面の笑みで結美は答えると、未希はほんの少し、無表情の中で目元を緩ませて太刀を取り出した。結美は太刀を出した友を見て、札を取り出した。雨に濡れるのも気にせず、二人は鬼の群れに突っ込んで行った。

「来い、ヌエ!」

 呼び出したヌエは一声上げると、鬼の群れの半分を幻覚の中に包み込んで消した。未希はそれだけ確認して太刀を翻し、残りを群れに斬りかかった。子鬼ばかりだが、容赦などしない。長い太刀回転させ、慌てふためく鬼を斬る。まるで踊っているみたいだ、と結美は思った。音楽は雨音と鬼の悲鳴。優雅とは言えない、阿鼻叫喚の地獄絵図のような剣舞。舞い散る赤すらも、花を添えるように見えてくるから怖いものだ。

「未希、聞いていい?!」

 周囲が悲鳴の渦であるため、必然的に大声を出す羽目になった。その結美に、未希は頷くことで返答する。それを確認して、結美は再度大声を出した。

「その刀って、式神の一種なの?!」

「違う」

 静かな声だが、結美の耳にはちゃんと届いた。最近、何だか耳と目が良くなった気がする、と結美は感じていたが、それは胸の内に仕舞っている。

「これは私の力を表現しただけ。誰もが出来るわけじゃない」

「成る程わからん」

 無理やり納得した直後、ヌエが咆哮を上げた。何事かと思えば、空間が割れて鬼の死体がヌエの前に落ちてきた。幻覚の中で倒したようだ。未希も身体に付いた血はそのままに、太刀を消した。こっちも片付いていた。肩から力が抜けた途端、未希がぬかるんだ地面に片膝を付き、呻き声を漏らした。慌てて結美が未希の肩を支えて起こす。

「だ……大丈夫……。ちょっと痛んだだけ……」

「本当に、こんな状態で学校に来れるの?」

「……平気……。今は少し痛い程度だから……」

 こうなったら梃子でも動かない未希に呆れながらも、結美は気付かれないように微笑んだ。肩を叩かれた時、何と無く仲直りが出来た、そんな気がしたのだ。そのまま肩を支えて、二人は神社の住居区に歩いていった。しとしとと降り続いていた雨はいつの間にか止み、雲の切れ目から日がさした。


 その後二人は、飛び出して行った事を散々貴仁に怒られた。

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