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序夜 陰陽師

どうも、ルナサーです。

一話完結型である、この現代妖奇異聞録、楽しんでいただければ幸いです。

 日常に日常ではない―即ち、非日常―が干渉する町、上弦(じょうげん)(ちょう)。夜は人ならざる者、怪異や物の怪達の時間。その夜に、巫女姿の二人の娘が、何かを追いかけ走っていた。一人は、月明かりだけでもよくわかる茶色の髪をポニーテールにし、真っ黒な目をしている。もう一人は、光を拒むセミロングの黒髪に、夜闇に赤く光る目。だが、明かりの前では黒い目をし、そして首には、幅の広いチョーカーを付けている。

その二人が追いかけている相手は、白い長髪の若い女。その額には、角が生えている。

「このっ、待ちなさい! 鬼女(きじょ)!」

「今夜こそは逃がさない」

 待て、と言われて待つ者はいない。それが、人ならざる者であっても同じこと。案の定、

『待て、と言われて待つ愚か者がいると思うのか?!』

と、返された。当然、速度は落ちない。狭い路地を上手に曲がる。茶髪の娘が舌打ちした。

「らちがあかない……。未希、はさみ撃ちにしよう!」

「了解、結美。……後で」

 未希―佐伯(さえき)未希(みき)は、鬼女が真っ直ぐ通った十字路を右に曲がって行った。結美―神城(しんじょう)結美(ゆみ)は、鬼女を追って真っ直ぐ進む。上弦町は彼女達の庭のようなもので、どこを通ればどこにつながるかをよく理解していた。だから、行き止まりに誘導するのも簡単。誘い込んだ行き止まりの壁はどれも高い。幾ら鬼女でも飛び越えられない。

『な……。行き止まりだと……』

「さぁ、観念して貰おうか……」

 結美が札を取って鬼女に言う。未希は到着が少し遅れて結美の隣に立つ。鬼女は観念したようにゆっくりと振り返った。が、

『こんな所で捕まってやるものか!!』「!!」

と、腕を刃物に変形させて結美の首を斬ろうと襲いかかった。咄嗟のことで反応が遅れた結美を、未希が突き飛ばす。鬼女の腕はコンクリートに突き刺さった。そのがら空きの横腹を、未希は容赦なく蹴り飛ばす。手加減無しで出された蹴りを、守ることもせず受ければ、人であろうとなかろうと気絶する。もちろんこの時もそうで、鬼女は吹っ飛ばされて気絶した。

「ありがと、未希。じゃ、封印するね」

「あぁ、頼む」

 結美は、札に印を施し鬼女に張り付けた。鬼女は、その札の中に吸い込まれて消えた。

「お疲れ様。陰陽師さん達」

 背後から、男の声が聞こえた。振り返った二人はあからさまに、面倒だ、という顔をした。

「「……こんばんわ、新堂所長……」」

 新堂所長―新堂(しんどう)修司(しゅうじ)は、優しげな微笑を浮かべた。

「まだ、鬼女以外の目撃証言はない。今夜の仕事はこれで終わりだ。……それはそうと、君達は鬼女を式神として使うかい?」

「……私は使わないけど、結美は使う?」

「いや……、私も使わない」

「そうか……。じゃあ貰うよ?」「「どうぞ」」

 修司は、嬉しそうに鬼女が封じられた札を受け取った。帰ろうとする修司を結美が慌てて呼び止める。

「ちょっと所長! バイト代! すっぽかす気ですか?!」

「おおっと、忘れてた。今回は契約人がよかったからね。はい、十万ずつ。じゃ、本当にお疲れ様。陰陽師さん達」

 未希と結美に十万ずつ渡すと、今度こそ帰って行った。彼が暗闇に消えると、二人も互いに挨拶を交わして家に帰って行った。



 “陰陽師”と修司は二人を指してそう呼んだ。この二人が上弦町の夜の非日常を彩る、怪異とは違う“色”だ。彼女達は怪異を封じる者。日常を維持していく切り札なのだ。


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