第9話 お腹空いてないか?
「こうにぃ、ご馳走様でした」
「どういたしまして」
はぁ、俺の残り少ない今月の小遣いがファミレスの料理となって消えたよ。
来月からは使い方を改めよう。
「さて、帰るか」
「えぇー、少し遠回りしてかえろ」
「却下だな。
一応俺はお前を預かってる立場なんでな、何かあったら責任は取れないしな」
「こうにぃのけち!
その代わり夜は知らないからね!」
これは危険な予感……
ここは1つ……
「愛、小腹空いてないか?
あの店のクレープ買ってやるよ」
「ホント!?
やったー!」
フッ、ちょろいな所詮は子供か。
舞も甘いもの好きだからな、この姉妹は似ていて助かる。
「でも、愛の機嫌はなおらないからね」
……俺の心が読める所までそっくりだな。
ブーブー
愛が風呂に入っている間、漫画を読んで寝転んでいた俺の耳に響く携帯の振動音。
こんな時間に誰だ?
―メール1件―
『北川です。明日空いてる?
もし、空いてるなら10時に駅前に来てくれない?
少し用事があって』
そういえば北川にアドを教えたな、俺はオリ合宿に携帯忘れたから登録はまだだけど。
……しかし、これはもしや、あれな展開ですか?
「大丈夫、じゃあ、10時に駅前ね。了解っと」
送信完了。
用事ねぇ……ややこしい用事じゃなきゃいいんだけど。
「こうにぃ、今だれとメールしてたの?」
愛か、お前の寝室は両親が使っていた隣の部屋だと言ったはずなんだが……
「クラスの女子だよ。
あ、俺明日、10時前に出かけるからそれまでに家に帰れよ」
「まっまさか!?
その人とデート!?」
「ちげぇよ、ただ、呼び出されただけだ」
Side 斉藤 愛
「ちげぇよ、ただ、呼び出されただけだ」
こうにぃは恐らく嘘は言ってない。
でも、休日に女の子と会うなんてデート以外考えられない。
それにこうにぃが休日にまいねぇ以外の女の子と会うなんて初めてのはず。
中学時代は野球で忙しくて休みの日もずっと野球してたし。
じゃじゃあ、こうにぃの初デートが愛の見知らぬ女!?
わーん、何気にショック……
「その人、なんて名前?」
「は? お前が知ったところで仕方ないだろ」
「教えて!」
「そんな、身を乗り出すなよ……
知ってどうする気だ?」
だって、気になるもん!
でも、こうにぃはきっとちゃんとした理由がないと教えてくれないし。
かといって愛の理由はこうにぃには言えない理由だし。
「お願い教えて!」
「何わけの分からないこと言ってんだ?
それにもう寝ろ、もうすぐ日付が変わるぞ」
む~、どうしても教えてくれないなら。
「愛、今日はこうにぃと一緒に寝る!」
「は? お前何言って……って、俺のベッドに入ってくるな!」
これでこうにぃは逃げれない。
普段甘えれないしついでに今甘えておこっと!
「電気消すよ~♪」
Side out
「電気消すよ~♪」
はや!
人のベッドに潜りこんでからの一連の動作。
その無駄の無い動きはもはや芸術の域と言っていいだろう。
「愛、頼むから、隣の部屋で寝てくれ」
「なんでぇ?」
そんな物をねだる様な目で俺を見るな!
何より俺の理性が危ないし、こんなこと舞に知られたら俺の命が!
「なんででもだ、それに愛が出ないなら俺が隣で寝る」
「それはダメ!」
脱出間際に愛に抱きつかれそのままベッドへ再ダーイブ。
愛と向き合うような形になってしまった。
この状況はいろいろまずくありませんか?
「……こうにぃ」
不覚にも名前を呼ばれて一瞬ドキっとしてしまった。
だって、息が少しかかる距離だよ?
これもう俺の理性と本能の戦いじゃん。
「愛のこと嫌い?」
「嫌いなわけないだろ。
愛は俺にとって妹みたいなもんだ」
「こうにぃのバカ!」
うぐ!
いざ言われると結構ショックだな。
そんな怒ることか?
「愛、なんで怒ってるか知らないけど機嫌直せって」
「スー……スー……」
「おい、無視してないでって寝てるのか」
そりゃもう、可愛い寝顔で寝てるよこの爆弾娘さんは。
はぁ、いきなり怒るし気づいたら寝てるし一体俺が何したってんだ。
誰か教えてくれ……




