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夏空  作者:
第3章
64/94

第64話 親として恥ずかしいかぎりよ

 

 ――身体がだるい……

 そんな感情が寝起きと同時にわいた。

 枕元の時計を見ると、7時を指していた。


 寝たのが4時だから3時間か……


 身体は疲れているのに目がさえている、隣の舞は肩を小さく上下させながら無防備な寝顔で寝ていた。

 試合の日によくあんな体力が余ってたもんだと、自分でも思う。

 あれではまるで獣だ。


 何か重要な事を忘れている気がしたが、汗ばんだ身体をスッキリさせるため舞を起こさない様にベッドを出た。

 風呂場で頭から熱いシャワーを浴びながら、下を向き流れ落ちる水を眺めた。

 何も考えれなかった、ただ昨夜の余韻だけが身体に残っていた。


「ダメだ、頭が働いてねーや」


 シャワーで顔を洗い頭をたたき起す、何か重要な事を忘れている。

 思い出せ、夕食を食べる前だ。

 風呂場から出て上下黒のジャージにそでを通す、頭をタオルで拭きながらテレビをつけた。

 なんてことは無い、朝のニュースがやっていた。


「戸締りもしないで危ないじゃないの」


 後ろから女性の声がした、聞き覚えのある声だ。

 そして、思い出される夕食前の記憶。


「久しぶりね、功」


 そうだ、今日は母が帰ってくるのだ。



 Side 斎藤 舞


「ん……?」


 目を覚ますとそこに功の姿は無かった。

 どこに行ったんだろ?

 起き上がろうにも昨夜のコトのせいで上手く身体が動かない。

 

「もうちょっと、加減出来ないのかしら……」


 でも、あんな乱暴な扱いも嫌じゃないかも……あたしってMなのかな?

 そんなわけないか、心でそう呟き功のいるはずの所に目をやった。

 なんか、寂しいな……


 目を覚ました時に好きな人が隣に居ない事にそんな感情が湧きあがった。

 功を独占したい、そんな気持ちは日に日に強くなって行く……もう、自分じゃ止められないかも。


「部屋を見せるのがそんなに嫌なの?」


 部屋の外からから声がする、女性の声だ。

 聞き覚えはあるけど、誰か思い出せない。


「今はとにかくダメだ。

後で見せる」


 続いて功の声がした。


「フフフ♪ そんなこと言われたら余計に見たくなるじゃない♪」


「ダメなもんはダメだ!」


 女性に必死に抵抗する功、もしかしてあたしが居ることがマズイのか?

 隠れるべきかどうか迷っている時だった。


「隠し事はしないって言ったじゃない♪」


 どうゆうこと? この女性が功とそんなに親しいの?


「昔の話だ」


 昔? あたしの他に功の昔を知る人がいる?

 誰だ……


「私たちは特別な関係なのよ? だから見せなさい」


 特別!?

 その女性の余裕があり功を挑発する態度に少しだけ嫉妬心が出来つつあることに気付いた。

 顔を見てやる。


 意を決して部屋のドアを開ける、これでもしあたしに知らない女性が居たら功のことぶっ飛ばす。


「功~? 一体誰と口論して……」


 ドアを開けるとその女性と目があった。

 その女性はあたしがよく知る人物だった。


side out


 部屋から出て来た舞と母が目を合わせてコンマ数秒、時間が止まった。


「あら? 舞ちゃん久しぶりね♪」


 笑顔を見せる母さん。


「お久しぶりです……」


 微妙に顔が引きつる幼馴染。


「功、あとでゆっくり話しましょ」


 母はそう言って鼻歌を歌いながら去って行った。

 迂闊だった……舞の方が部屋から出てくるとは。

 母さんに対する言い訳でも考えとくか。


「ねぇ、なんで結衣(ゆい)さんがいるの?」


 下に居る母さんに聞こえないように舞が小声で言った。


「昨日、メールがあった。

理由は知らない」


「メールって、なんで言わなかったの!?」


「わりぃ、忘れてた」


「バカっ」


「まぁ、適当にごまかすさ」



 久しぶりに母さんの料理を食べた。

 舞の料理も上手いと思うがやはり人妻の料理は格が違う、これがお袋の味か。


「舞ちゃん、帰っちゃたわね」


「そーだな」


「あんたが襲ったの?」


「ブッ!」


 飲んでた味噌汁が飛び出た。

 この母親はなんて質問しやがる!


「私は舞ちゃんみたいないい子が息子の彼女なら満足よ♪」


「別に彼女じゃない」


 目の前の母の顔が凍る。

 あれ? 俺何かおかしいこと言ったかな?


「あんた……彼女じゃないのに舞ちゃんに手出したの?

浮気じゃない!」


「ち、違う! 俺は断じて浮気なんてしてない!!」


「親として恥ずかしいかぎりよ」


「話を聞けぇぇぇえ!」


 話を聞かない母さんの提案により、今日は舞をウチに呼んで飯を食うことになった。









  


side 神鳥 哲也


 試合の次の日に学校とはなんとも憂鬱な話だ。

 大会中の都合で夏休みの補講が受けれなかった、野球部には特別な日程が設けられていた。

 下がり気味のテンションで寮に戻った。


「こんなに課題を出して僕を殺す気か?」


 渡されたプリントを見てため息が出た。

 今日の部活はオフだから、時間は有り余るほどある。

 始めるのは夜からしよう。


 寮の自室のテレビをつけた、深夜にやっていた高校野球の特番の録画が映った。

 朝は時間が時間が無く最後まで見ることが出来なかった。

 番組の内容は地方大会の総括だった。


 僕と神谷を筆頭した三年生の注目選手が紹介された。

 『神童―神鳥哲也』『世代最強エース―神谷功』『開成の重鎮―山中淳』

 他にも数人が紹介された後、ある高校の特集となった。


 九州地区福岡にある新設校、オール一年生のチームで甲子園出場を決めたらしい。

 インタビュアーの女の人の『甲子園での目標は?』との質問にそのチームのエースが答えた。


「聖王と開成の両方を倒し全国制覇することです」


 全国ネットで挑戦状を叩きつけてくるとは肝が据わってるな。

 売られたケンカは買う方だが、今の僕の頭の中は神谷で予約が埋まってる。

 テレビを消し、部屋の窓を開けた。


「今日も夏空だな」


 雲一つも無い晴天が甲子園まで続いている。

 息を吸えばむせ返るような暑さが喉を通過する、セミの鳴く声も遠くで聞こえている。


「散歩でも行くかな」


 夏の誘惑に負けた僕は、寮の自室を後にした。

 この行いを後悔し、貰ったプリントが白紙で放置されたのはまた別の話。


Side out



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