第47話 終末へのプロローグ
「功! そろそろ起きないと時間遅れるわよ!」
「う~ん……もうちょっと……」
「早く、起きろぉ!」
「バカ! 布団をめくるな今、何月だと思ってんだ!!」
夏が終わって、秋も終り寒さが増した12月、俺は幼馴染と掛け布団の取りあいをしていた。
今年の夏は、予選決勝で報明に負けて甲子園出場は、叶わなかった。
しかし、新チームで臨んだ秋の県大会で優勝しその後の近畿大会も制覇した、開成は、春の甲子園出場がほぼ内定していた。
一方で神鳥のいる、聖王高校は、夏の甲子園を全国制覇を達成し、全国から狙われる立場になった。
そのせいか、秋の大会は、関東大会一回戦で負けて、春の甲子園の出場は、絶望的。
神宮にも出てこれないから、俺が神鳥と再開するには、最後の夏しかチャンスが無くなった。
「うだうだ、言わないで起きなさい。
それとも身ぐるみの無いその身体に、もみじでも残して欲しいのかしら?」
「いえ……起きます」
なんて、殺気だ……マジで、殺される。
「早く起きてよね。
遅刻したらなんて、言い訳するつもりなのだか……」
「そりゃ、お前のせいだろ?
お前がもっと、もっと、うるさいから昨日の夜は、大変なことになったんだろ。
まったく、ベットの中じゃ受身でかわいいの「っ! 死になさい!」に?」
この後、数分間の記憶が俺の中から抹消された。
起きたら頭に痛みが走ったことしか覚えていなかった……
「神谷ぁ! 10分遅刻や」
我らのキャプテン、山中が怒っている。
「えー、セーフだろ?」
「いんや、アウトや。
まったく、夕方の6時から祝勝会やのに遅刻するってどうゆうことや?」
「いや~、舞の奴がさ昨日の夜、色々とうるさ「黙りなさい」ぐ!」
「夜?」
「な、なんでもないの!
功の奴なに言ってんだろうねぇ?」
とりあえず、殴り続けるのをやめてくれないだろうか?
結構、痛んだが。
「まぁ、なんでもええわ。
加地先生とみんな先入ってるで」
「へいへい」
確か、しゃぶしゃぶだったよな?
しかも、加地先生のおごりで、こりゃ暴食するしかないな。
「ねぇ、山中君、あたし部外者なのに来てよかったの?」
確かに、何故舞も連れてくる必要があったんだろうか?
俺としては、嬉しいけど。
「大丈夫やで、練習試合帰りの飛鳥と斎藤の妹も来てるから」
それって、大丈夫な理由にならねぇだろ……
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「丸川! 貴様、人の肉に手を出したな!」
「うるせぇ、この分析眼鏡!」
「2人とも落ち着いて下さい!」
丸川と関本は、相変わらず些細なことでケンカをしている。
止めに入った、桜井が一番びびっている。
「北川、お茶いる?」
「うん、ありがと」
そーいや、新チームになってから、山中と北川がよく一緒に居るのを見かけるんだが、もしや?
……俺には、関係ないことだな。
壁際の席に座り、みんなの様子を見てた。
みんなで居る時もたまに無性に1人になりたい時がある。
病気だな、ここまで来たら。
「ねぇ、功。
いつもこんな賑やかなの?」
「あぁ、そうだよ。
面白いだろ」
「面白いかどうかは、知らないけど、功が楽しそうに野球をする理由は、分かったかな」
「あっそう」
――つれないやつめ。そう言って、舞は、少し拗ねてしまった。
今、俺の隣には舞が居て、仲間に囲まれて日々が進んでいる。
いつまで、この温かい場所は、続くのだろう?
始めて出来た、強い繋がりの消失への恐怖。
でも、心の中には、再び1人になりたいと思う自分もいる。
真反対の自分が存在する心の中。
矛盾が俺の本質なら、いつか俺は自分で今の関係を壊すかもしれない。
………今は、心配する必要はないな。
俺は、少なくとも今は、他者とのつながりを求めているのだから。
フッ、と口元を緩めた少年は、近くの窓から外を見た。
冬の始まりを思わせる空は、雲がかかり光は差し込んでいない。
木からその命を終えて、地に落ちた葉が風に吹かれ道行く人の足を転がっていく。
「そろそろ、冬だな」
そう呟いた少年が世間を賑わす、『甲子園の怪物』と世間に認知され騒がすことになるのは、この時は、まだ誰も知らない。




