第43話 眠れる獣が目覚めるとき
Side 神鳥 哲也
「神鳥君! これで3季連続の甲子園だけど意気込みは?」
「春は、準優勝でくやしい思いをしたので今度こそ優勝を狙います」
「今や全国屈指の打者になったわけだけど、対戦したい投手とかはいる?」
「いますよ。
今は、無名の公立校のエースで僕が唯一全く歯が立たなかった投手です」
神谷、君と対戦出来る日を楽しみにしているよ。
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「今日もナイスバッティングだったな」
「久木監督! まだ、待ってたんですか?」
取材陣から解放された僕を待っていたのは、我が聖王高校監督、久木 忠俊。
現役の頃は、館鳳高校のキャッチャーでキャプテン。
彼が居るから、今の僕は居る。
「俺の旧友が監督してる、高校が今試合、やってんだよ。
それの経過をちょっとな」
監督の旧友であり、僕が対戦を熱望する神谷を有する開成高校の監督、加持 幸一。
現役の頃は、当時高校生№1と言われるほどの投手だったとか。
「どっちが勝ってるんですか?」
「それが電波が悪くて初回の攻防で更新が止まってるんだ」
携帯を空にかざし色々しているが、反応がないらしい。
このままでは、ラチがあかないので監督の車にとりあえず乗った。
「加持監督って、指導者としてどうなんですか?」
さっき、そこのコンビニで買ったイチゴオレを飲みながら聞いてみた。
「高校を卒業してからは、一度も会っていないからな。
監督としては、どうなのかは知らん」
「加持監督が行方をくらました……でしたっけ?」
「そうだ」
春の近畿大会で神谷の名前を見つけたときだった。
その記事を読んでいる僕に加持監督のことを色々教えてくれた。
高校を卒業してから加持監督とは、誰とも連絡はとれなくなったらしい。
かつてのチームメート、藤井と言う名の人から生きていると連絡を受けるまで監督は、加持監督の生存を疑っていたほどだ。
「お、データが更新されたぞ」
「経過は、どうですか?」
神谷が先取点を取られるとは、考えにくい。
同点か、リードしてるか……
「3-0で開成が負けてる」
Side out
Side 斉藤 舞
結局、気になって来ちゃったけど功が3点も取られてるなんて……一体何が?
「まいねぇ! こっち、こっち」
応援席に居る愛に見つかった、隣には飛鳥も居た。
「神谷の奴、調子悪いみたいやね」
「どうやって3点も取られたの?」
「四球で、出たランナーをヒットで返された」
「それに、こうにぃの様子がなんかおかしいの」
愛に言われて、マウンドで投げる功を見た。
高校に入って功の投げる姿は、何度か見たけど今の姿は何処か懐かしい。
「そーかな?
中学の時は、あんな感じのめちゃくちゃなフォームだったじゃない」
「フォームは、キレイな方がいいに「そうかなぁ?」飛鳥先輩?」
「ウチには、今の神谷の方が違和感無いように感じられるけど?
ただ、本人がどう思ってるかは、知らんけどな」
「どうゆうこと?」
「公立校で主力投手が自分しか居ないって状況、加えて神谷元来の精神的甘さ……多分それが邪魔して、あいつ本来の力は、出し切れてへんと思う」
じゃあ、高校に入ってフォームがキレイになったと言うより、大人しくなったってこと?
それなら、今の功は、昔の自分を取り戻そうとしてるってこと?
……分からない、功が何を考えているか。
いつの間にか、功の心の中は見えなくなってしまった。
彼があたしに見せないように、していただけと思っていたけど、ホントは違う。
あたし自身が功から目をそむけていた……だから、今は彼の一挙一動見逃さず見つめよう。
「ツーアウト、満塁やな」
横の飛鳥が呟いた。
Side out
Side 山中 淳
「スイマセン、タイムお願いします」
今日、6個目の四球にたまらず、タイムをとってマウンドの神谷の元へと向かった。
「どこか痛めとんか?」
ボールに威力はあるのに、今日の神谷はどうもボールが荒れ過ぎてる。
試合前から集中力に欠けてる感があるしな。
「どこも痛くない」
「なら、いい加減ワイのミットに集中せぇ。
次は、先制タイムリー打っとる一ノ瀬や。
中途半端なボールは、打たれるで」
「了解」
笑顔で言われてもなぁ……
Side out
ミットを見ろか……確かにいつもに比べると集中できていない自分が居る。
ロージンを拾い手で遊ぶ、目線を応援席に目を向けた時だった。
「来てたのか……」
眼に入ったのは、見慣れた幼馴染の顔。
不安そうに見つめる顔は、見たことが無かった。
まぁ、こんな不安定のピッチングじゃそうもなるか……
「3点ビハインド……ツーアウト満塁……よっしゃ!」
ロージンを地面に捨て、山中を見る。
今、追加点を取られたら試合が決まるかもしれない。
追い込まれた状況でも、焦りは無い、どうやら俺は高校に入ってから寝ていたようだ。
窮地に追いつめられて、背筋にゾクゾクした感覚が走る、俺の中で何かが眼を覚ました……




