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夏空  作者:
第2章
43/94

第43話 眠れる獣が目覚めるとき


Side 神鳥 哲也


「神鳥君! これで3季連続の甲子園だけど意気込みは?」


「春は、準優勝でくやしい思いをしたので今度こそ優勝を狙います」


「今や全国屈指の打者になったわけだけど、対戦したい投手とかはいる?」


「いますよ。

今は、無名の公立校のエースで僕が唯一全く歯が立たなかった投手です」


 神谷、君と対戦出来る日を楽しみにしているよ。

「今日もナイスバッティングだったな」


「久木監督! まだ、待ってたんですか?」


 取材陣から解放された僕を待っていたのは、我が聖王高校監督、久木 忠俊(ひさぎ ただとし)

 現役の頃は、館鳳高校のキャッチャーでキャプテン。

 彼が居るから、今の僕は居る。


「俺の旧友が監督してる、高校が今試合、やってんだよ。

それの経過をちょっとな」


 監督の旧友であり、僕が対戦を熱望する神谷を有する開成高校の監督、加持 幸一。

 現役の頃は、当時高校生№1と言われるほどの投手だったとか。


「どっちが勝ってるんですか?」


「それが電波が悪くて初回の攻防で更新が止まってるんだ」


 携帯を空にかざし色々しているが、反応がないらしい。

 このままでは、ラチがあかないので監督の車にとりあえず乗った。


「加持監督って、指導者としてどうなんですか?」


 さっき、そこのコンビニで買ったイチゴオレを飲みながら聞いてみた。


「高校を卒業してからは、一度も会っていないからな。

監督としては、どうなのかは知らん」


「加持監督が行方をくらました……でしたっけ?」


「そうだ」


 春の近畿大会で神谷の名前を見つけたときだった。

 その記事を読んでいる僕に加持監督のことを色々教えてくれた。

 高校を卒業してから加持監督とは、誰とも連絡はとれなくなったらしい。


 かつてのチームメート、藤井と言う名の人から生きていると連絡を受けるまで監督は、加持監督の生存を疑っていたほどだ。


「お、データが更新されたぞ」


「経過は、どうですか?」


 神谷が先取点を取られるとは、考えにくい。

 同点か、リードしてるか……


「3-0で開成が負けてる」


Side out










Side 斉藤 舞


 結局、気になって来ちゃったけど功が3点も取られてるなんて……一体何が?


「まいねぇ! こっち、こっち」


 応援席に居る愛に見つかった、隣には飛鳥も居た。


「神谷の奴、調子悪いみたいやね」


「どうやって3点も取られたの?」


四球(フォアーボール)で、出たランナーをヒットで返された」


「それに、こうにぃの様子がなんかおかしいの」


 愛に言われて、マウンドで投げる功を見た。

 高校に入って功の投げる姿は、何度か見たけど今の姿は何処か懐かしい。


「そーかな?

中学の時は、あんな感じのめちゃくちゃなフォームだったじゃない」


「フォームは、キレイな方がいいに「そうかなぁ?」飛鳥先輩?」


「ウチには、今の神谷の方が違和感無いように感じられるけど?

ただ、本人がどう思ってるかは、知らんけどな」


「どうゆうこと?」


「公立校で主力投手が自分しか居ないって状況、加えて神谷元来の精神的甘さ……多分それが邪魔して、あいつ本来の力は、出し切れてへんと思う」


 じゃあ、高校に入ってフォームがキレイになったと言うより、大人しくなったってこと?

 それなら、今の功は、昔の自分を取り戻そうとしてるってこと?

 ……分からない、功が何を考えているか。


 いつの間にか、功の心の中は見えなくなってしまった。

 彼があたしに見せないように、していただけと思っていたけど、ホントは違う。

 あたし自身が功から目をそむけていた……だから、今は彼の一挙一動見逃さず見つめよう。


「ツーアウト、満塁やな」


 横の飛鳥が呟いた。


Side out


Side 山中 淳


「スイマセン、タイムお願いします」


 今日、6個目の四球(フォアボール)にたまらず、タイムをとってマウンドの神谷の元へと向かった。


「どこか痛めとんか?」


 ボールに威力はあるのに、今日の神谷はどうもボールが荒れ過ぎてる。

 試合前から集中力に欠けてる感があるしな。


「どこも痛くない」


「なら、いい加減ワイのミットに集中せぇ。

次は、先制タイムリー打っとる一ノ瀬や。

中途半端なボールは、打たれるで」


「了解」


 笑顔で言われてもなぁ……


Side out



 ミットを見ろか……確かにいつもに比べると集中できていない自分が居る。

 ロージンを拾い手で遊ぶ、目線を応援席に目を向けた時だった。


「来てたのか……」


 眼に入ったのは、見慣れた幼馴染の顔。

 不安そうに見つめる顔は、見たことが無かった。

 まぁ、こんな不安定のピッチングじゃそうもなるか……


「3点ビハインド……ツーアウト満塁……よっしゃ!」


 ロージンを地面に捨て、山中を見る。

 今、追加点を取られたら試合が決まるかもしれない。

 追い込まれた状況でも、焦りは無い、どうやら俺は高校に入ってから寝ていたようだ。


 窮地に追いつめられて、背筋にゾクゾクした感覚が走る、俺の中で何かが眼を覚ました…… 


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