第42話 俺たちの明日
津佐高校との試合前、いつも通り山中とブルペンで試合前の投球練習をしていた。
向こうの先発は、春斗ではないみたいだ。
背番号1の3年生。
「おい、サインはいつも通りでええな?」
「もちろん」
舞は……まだ、来てないか……
「さっきから、応援席ばっか気にしとるけど、どうかしたんか?」
「なんでもない、大丈夫だ」
あんな酷いこと言って、突き放しといて、行き成り試合見に来て欲しいなんて言っても来るわけないか。
北川に怒られるなぁ。
「なぁ、山中」
「なんや?」
「怪我で退場とかだけは、やめてくれよ」
「行き成りなんやねん、気持ち悪いぞ」
「お前が終われば、俺も終わりってことさ」
言葉では、言い表せないくらいお前には感謝してる。
「潰れるときは、一緒だぜ」
昨日、北川に言われた言葉は、俺を突き動かした。
北川には、もう俺の気持ちをその時に伝えた。
まぁ……ほとんど、流れに言わされただけなんだが。
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「自分の気持ちに正直になりなよ……」
「どうゆう意味だ?」
北川は、拗ねたように背を向けた。
「正直に……正直に答えてくれる?」
「……答える」
彼女は、一度大きく息を吸って、空に向かってゆっくりと吐いた。
そして、
「舞ちゃんのこと好きでしょ」
「だから、あいつとはただの幼馴染で「いつも、舞ちゃんのこと考えてるくせに」っ!」
その笑顔は、妖しくそして、どこか悲しい。
「神谷君と舞ちゃんに距離が出来るようになって、チャンスだと思ったのになぁ」
北川は、俺が舞を突き放したことを知っていたみたいだ。
「でもね、神谷君のことを知れば知るほどその目は、私に向いていないと知っちゃうの。
だから……」
俺は、この子を泣かしたのか……
「優しく……しないでよ……」
下を向き、震えた声でそう言った。
北川に言われる前から、答えは出てかもしれない。
でも、きっと自分の身が愛しくて、罪悪感から北川に優しくしてたんだ。
最低だな、俺は……
一ノ瀬と再会してから昔のことを振り返る時間が増えた。
そのたびに思う、いつも舞が居て、俺に小言を色々言ってくる。
当たり前のように思っていたけど、無くなった今では少し寂しい。
自分の気持ちと向き合えば、答えは簡単に出た。
俺が今、北川になんて言うべきかも。
「ごめん……俺は……北川の気持ちに答えることは出来ない」
「そうだよね、知ってたよ。
だから私は「でも!」え?」
正直な気持ちを言うんだ。
「北川と話してると本当に楽しかった。
隣に居てくれるのが、嬉しくって。
でも、俺は、北川の気持ちに応えることは、出来ない」
自分からの返事は、君の名前ではない別の人の名前を言っていたから。
それでも
「北川が俺にとって、特別な存在であることに変わりはない。
それに、夏の大会でここまで勝ち上がれたのも北川のお陰だ」
「じゃあ……もう、好きなんて言わないからぁ……神谷君のこと忘れるようにぃ……努力するからぁ……今までみたいに、接してくれますか……?」
情けない、泣いてる北川を見てると逃げ出したくなる。
ホント、俺は情けない奴だ。
言葉が詰まる、言うしかないんだ、進むことしか道が残されていないのに心は、まだ後退を求めてる。
「うん、こちらこそよろしく」
ありがと、そう言って彼女は、瞳を拭った。
「だから、舞ちゃんと仲直りしなよ」
「どうやって?
今さらだろ、村上と付き合ってるぽいし」
「うだうだ言ってないで、とりあえず明日の試合見に来てもらえなよ」
「俺から言ったこと「ええい! 携帯貸しなさい!」はい?」
俺から携帯を取り上げ、何やら色々といじっているそして、
「送信完了♪」
まさか……
「舞ちゃんにメール送ったから。
後は、頑張りなよ。
じゃあ、また明日!」
先ほどまでとは打って変わって、晴れやかな笑顔で去っていった。
「神谷君、ロージン持った?」
試合開始前直前、ベンチで座る俺に北川が聞いて来た。
「持ってない、どこにある?」
「はい、新しいのだから紛失させないように」
相変わらず、準備がよろしいことで。
「へいへい、分かりました。
じゃあ、そろそろ整列だから」
「うん、頼みまっせ」
「任しとけ」
ベスト4進出をかけた試合だけど、今までにないくらい興奮してる。
久しぶりだなこの感覚。
何か色々吹っ切れた感がある。
中学の時の試合開始前は、早く始まって欲しくてウズウズしたもんだ。
久しぶりに思い切って投げてみたいけど、試合をぶち壊しにしたらなんにもならない。
とりあえず、落ち着いていこう。
Side 斉藤 舞
昨日、功から送られてきたメールを見ながら、自室のベッドで寝転がっていた。
恐らく、試合はもう始まっている。
試合会場は、一番近いところだからすぐに行けるけど……
あたしが見に行かなかったら功はどう思うかな?
今更、見に行くのも気まずい。
それに
「最後の文みたいなの書かれたら余計にだよ……」
――試合後に話したいことがある――
メールの最後の一文にそう書かれていた。
何を話す気だろう?
今になって、あたしと話すことなんて何も無いはずなのに……
不安が胸を押しつぶそうとする、この話は、きっとあたしにとって嫌なことだとなんとなくそんな気がしていた。
それ以前に、試合への招待も……
「直接言ってこいよなぁ、バカ……」
携帯を閉じて、頭の中を空にする為に再び瞳を閉じた。
二度寝するなんて、久しぶり、なんてことを思いながら。
Side out




