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夏空  作者:
第2章
41/94

第41話 決戦前夜

功視点に戻ります。


Side 斉藤 舞


「あたしが知ってるのはここまで。

功がチームに入った後に一ノ瀬君と何があったかは、知らない」


 洗いざらい話して気持ちが楽になった。

 別にやましいことを隠してわけじゃないんだけど。


「繊細だけど何処か猛々しい、そして、傷つきやすくて脆い……それが、功なの」


「けど、あいつはそんな態度は一度も見せへんかったぞ?」


「決して、周りに自分の心の内を見せようとはしないもん。

いつもバカみたいにため込んで、いつか壊れる……」


 神鳥君の事故の時も何も口には出さず、再び自分の殻に閉じこもってしまった。

 出会った時の功のように暗く、無反応になった。

 立ち直らせるのには、苦労したなぁ。


「斉藤は、そこまで神谷のことを……」


「いいの、あたしの気持ちは功には届かなかったみたいだし。

陰ながら、甲子園に行けるよう、応援さして頂きます」


 それが今のあたしに出来る精一杯だと思うから。


Side out


Side 山中 淳


 陰ながら応援するやと?

 なら、なんでそんな悲しそうに笑うんや?


「神谷をホンマに諦めれるんか?」


「……出来るよ」


「嘘やな、知ってること全部話したのも神谷を諦められないからやろ?」


「じゃあ……どうしろって言うの!」


 彼女は、泣いていた。


「今の功の居場所に、あたしの場所は無いの!

ひとりよがりの気持ちを押しつけて、どうしろっての!?」


「打席にも立ってないのに、そんなこと言うなや。

しっかり勝負に出てから、諦めろや」


 ワイの近くには、無理と分かっていても頑張ってる奴もいるんやで。


「じゃあ、ワイは練習あるから。

神谷と一回ゆっくり話しろよ、ほな」


Side out















「ねぇ……ねぇってば!」


「ん? なに?」


「何じゃなくて、さっきから呼んでるんですけど?」


 北川は、ご立腹のようだ。

 昔の感傷に浸っていた俺は、現実に引き戻された。


「わりぃ、聞いてなかった」


 一度、俺の目を睨むように見つめ彼女は口を開いた。


「今日、山中君なんか様子おかしくなかった?」


「少し静かだったけど、大丈夫だろ。

明日はちゃんとやってくれるだろ」


 部活が終わったらすぐに帰るし、今日は機嫌が悪いかどうかは知らんがな。

 関本たちもすぐに帰っちまうから、北川と二人きりなんだよなぁ。


「そうだね。

でもさぁ、明日勝ったらベスト4だもんね。

とうとう、甲子園も射程圏内だね!」


「そーだな」


「どうした、少年?

嬉しくないのか、ん?」


 挑発的な視線かつ、嬉しそうな顔で彼女は聞いて来た。


「逆に聞くけど、北川は嬉しいか?」


「当たり前じゃん。

でもね、それ以上に神谷君がマウンドで投げる姿が好きなの」


 これは、思わぬカミングアウトになったな。


「だから、先輩たちのためにも少しでも長い夏にしようね」


「そーだな」


「反応鈍いなぁ。

勝つ気あるの!?」


「あるよ、満々だ」


Side 北川 沙希


 その声は、ハッキリとした意思を示していた。

 瞳は、目の前に居る私じゃなくて、別の何かを捉えている。

 君の瞳にいつも私が映らないことは、知ってるんだけどね。


 暇な時ですら私のことは頭の片隅に無いことは知ってるんだよ。

 君がホントは、誰のことを想っているのかも分かってる。

 きっと、私がどれだけ頑張っても君の想う人には追い付かない。


 私なんかに優しくしないで、その人に気持ちを打ち明ければいいのに……でも、ごめんね。

 君の隣は、居心地がいいから……その優しさに甘えてしまう。

 ずるいよね、だから……私は……


「じゃあ、明日も快勝だね」


「まーな」


 彼は、そう言って笑った。


Side out


「じゃあ、私こっちだから」


「おう、じゃあまた明日」


「うん、あ、そうだ」


 何かを思いだした彼女は、俺の首をつかみ身長差をなくすと、耳元でそっと呟いた。


「自分の気持ちに正直になりなよ……」














Side 一ノ瀬 春斗


「こうやって、見れば見るほど悲しいな」


 家で明日の対戦相手、開成のエース神谷 功のピッチングを見ながら呟いた。

 まるで、別人だ、僕の知ってる功とは……

 勝つためには、手段を選ぶなと教えたのにまだ、神鳥に当てたことを引きずっているのか?

 

 確かにあれは、僕が誘導したことを差し引いても、想像以上の事故だった。

 しかし、神鳥は復活したんだ、気にすることなど何一つないと言うのに……


「退場してもらうよりも早く試合が終わるな」


 今の功は、僕の敵じゃない。

 彼の中に眠る、獣を起こす前に試合を終わらせよう。

 本来の功が目覚めると厄介だからね。


 ただ……なんだろう? 

 功の今のピッチングを見るたびに感じる、このイラつきは……何も関係ないか。

 邪魔するなら、全てを潰すまでだ。


Side out 


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