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夏空  作者:
第2章
39/94

第39話 甲子園

前回に続き、舞視点でスタートです。

「神谷君、端っこに居ないでこっち来なよ」


 ベンチの隅の方に1人座る、彼に話しかけた。


「なんで、俺がピッチャーしなきゃいけないんだ?」


「投げるだけだから、気楽でしょ?

キャッチャーは、あたしだから楽に投げなって」


 どんなボール投げるんだろ?

 スポーツしてるとこ見たことないし、楽しみだな。

「ねぇ、あいつ何者なの?」


 打席に入った、相手バッターがそう聞いて来た。

 名前は、確か一ノ瀬君。

 このあたりじゃ有名な野球少年。


「ただの同級生だよ」


「小学生の投げるボールじゃないっしょ」


 一ノ瀬君が驚くのも無理はない。

 神谷君の投げるボールが、ここまで速いなんてだれも予想してなかったはずだし。

 ヒットどころか、ボールが前に飛ばない。


 試合は、結局神谷君の活躍で、圧勝に終わった。


「ねぇ、中学行ったら野球しなよ」


 帰り道、2人乗りした自転車の後ろで、彼の身体につかまりながら言ってみた。


「めんどくさい。

あと、重心ずれるから動くな」


「こんな感じ?」


「っ!!」


 冗談半分に身体を揺らしたら、急ブレーキをかけられた。


「……歩いて帰るぞ」


 神谷君は、相変わらずの無表情でそう言った。














 途中で「疲れた」とわがままを言って、河川敷で休憩した。

 神谷君は、何も言わずに川を見ている。

 あたしは、座りながら彼の後姿を見ていた。


「野球やりなよ~」


「しつけぇな。

第一、お前は俺に野球をやらして何が目的だ?」


「甲子園」


 それは、今は亡き父が高校時代目指していた場所。

 女の子では、立つことに出来ない場所。

 そして、限られた一握りの球児だけがたどり着ける場所。


 神谷君ならもしかしたら……今日のピッチングを見てそう思った。


「甲子園で投げる神谷君、見てみたい」


「……どうして、俺にそこまで関わるんだ?」


 振り向いて、彼はそう問う。


「なんでだろうね?」


「物好きなやつだ……」


 その時、あたしは、初めて彼の笑みを見た。















 

 中学に進級してからは、彼とはクラスも違うし忙しさで話す機会も減っていった。

 学校には、一応来ていた。

 でも、たまに彼の姿を見かけてもいつも1人だった。


「斉藤さん! 僕と付き合って下さい」


「ごめんね、あたし誰とも付き合う気ないんだ」


 中学になって、告白されることが多くなった。

 何これ? モテ期ってやつ?

 付き合うなら、あたしが甘えることのできる男の子がいいなぁ。


 空手をしてるせいか、男子相手でもケンカは負けない。

 この前も学年で偉そうにしてる、男がしつこく絡んできたので実力を行使したばかり。

 パパが居なくなって、愛を守りたくて始めた空手……今では、強くなりすぎたと思う。

 

 実は、誰かに守ってもらう状況なんか憧れてたり……まぁ、あり得ないんだけどね。


「あれ? 神谷君今帰り?」


 生徒が誰も居なくなった、下駄箱で彼に会った。


「……ん?

なんだ、お前か」


 入学して、10か月振りの会話だった。


「なんだとは何よ。

せっかくだし一緒に帰ろ」


「勝手にしろ……」


 彼は、下靴に履き替えて出て行った。

 急いで上靴を履き替えて彼の後を追った。


「いつもこの時間に帰ってるの?」


「……まぁな」


「そう言えば、2組の上原さんに告白されたんだって?」


 同級生の中でも異彩を放つ、神谷君に惹かれる女子は多い。

 顔は、結構カッコいいしね。


「情報のお早いことで」


「なんで、断ったの?」


「別になんだって「お前が、斉藤 舞か?」ん?」


 変な男2人に絡まれた。

 こんな明らかに悪そうな男の子との知り合いは、居ないんだけどな。


「あたしがそうだけど何か?」


「うちの狩野を可愛がってくれたらしいじゃねぇか」


 狩野……?

 あぁ、あたしが実力行使を使ったあの男か。


「女の分際で生意気なんだよ!」


 女だからって、なめないでくれる?


「おい、斉藤。

どうする気だ?」


「神谷君は、見とくだけでいいよ」


 あたしが負けるわけないし。



「噂は、本当だったのか……」


 驚く神谷君の目の前には、あたしが倒した不良×2。


「ザコも片付いたしかえろ」


「お、おう」


 神谷君が少し引いてるのは、気のせいかな?


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