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夏空  作者:
第2章
38/94

第38話 神谷 功です

Side 山中 淳


「山中君、話ってなぁに?」


 補習が終わり練習までの時間にワイは、斉藤を呼び出した。


「一ノ瀬 春斗って、知っとる?

そいつが次の相手なんや」


「一ノ瀬君か……知ってるよ。

あたしが、彼に功を野球始めるように頼んだし」


「あの二人の間には、何があったんや?」


「何も無いよ。

むしろ問題あったのは、功の方」


 どうゆうことや?

 さっぱり意味が分からん。

 神谷に問題があるやと?


Side out


Side 斉藤 舞


 山中君はさっぱりって感じの顔をしてる。

 仕方ないよね、誰も分からなくて。

 功が中学で野球を始めるまで、内向的だったことなんて。


「功の過去知りたい?」


 あたしは、何を言ってるんだろう……あたしだけが知ってる功で置いておくつもりだったのに。

 ……違うかな、誰かに聞いて欲しいんだ、あたしが功のことをどれだけ知ってるか。

 

 自慢したいだけなんだ……


「あぁ、教えてくれ」


 少しだけあたしの自慢に付き合ってね。


「あたしと功が出会ったのは……」















「まいー!

ちょっと、来なさい」


 小3の5月。

 部屋で宿題をしていたあたしは、母の声を聞いて玄関へと向かった。


「なぁーに?」


「新しく隣に引っ越してきた、神谷さんよ」


「どうも、神谷です」


 キレイな人だ、それが功の母に対する最初の印象だった。


「ほら、功。

あいさつしなさい、あなたと同い年だって」


「……どうも」


 そのキレイな女性の息子は、下を向いてそう言った。

 暗い奴だ、あたしとは絶対に合わないタイプ、それがその男の子の最初の印象だ。


「あたし、舞。

よろしくね!」


 同い年の男の子と言うことで、期待を込めて手をだした。

 もちろん、握手するつもりで。


「……」


 相手の男の子は、無言で去って行った。

 ……何なのあいつ!


「ごめんなさい、あの子、少し人付き合いが苦手で」


 神谷君の家は、親の転勤が多いせいで転校も多く友達が出来にくいらしい。

 仲良くしてやってと、おばさんに頼まれたけど正直あたしって暗い奴嫌いなんだよね。


 やっぱり、男の子って頼りがいがあって逞しくないと!









「神谷 功です……」


 次の日の学校。

 転校生の神谷君は、あたしと同じクラスになった。

 名前を名乗っただけの自己紹介に周りは少し騒がしい。


「じゃあ、神谷君は斉藤さんの隣の席使って」


 あたしの隣!?

 なんでまた、こんな暗い奴……


「……」


 また、無言……昨日会ったんだから何かしゃべりなさいよね!

 イライラする、教科書も出さずに窓際の席だからって、外ばっかり見て。


「神谷君、教科書は?」


 思い切って聞いてみた。


「……」


 一瞬こっちを向いたけど、すぐにまた外を眺め始めた。

 何こいつ? ケンカ売ってんの?

 イライラを押さえて一時間目の授業を受けた。


 休み時間、転校生恒例の質問攻めが始まった。

 皆色々、質問しているけど神谷君は何も答えず教室を出て行った。


 皆驚いている、一部の女の子はかっこいいとか言ってるけど、何考えてんだが……








 

 次の日から神谷君は、ウォークマンで音楽を聞く毎日。

 校則違反だけどあまりに堂々としていて皆何も言わない。

 いつも1人で居る彼を周りは自然と避けて行った。


 学年が上がるにつれて、学校に来る回数が減少していった。

 6年にもなれば来てる方が少ないかもしれない。

 あたしの部屋から見える、彼の部屋にはいつもカーテンがしてあった。

 暗いところが嫌いだけど、何も知らないことも事実だった。


 だから、先生にたまっていたプリントを渡すように頼まれた時、いつもはポストに入れておくだけなのに興味本位でインターホンを押してみた。


「……無反応かい」


 ドアにも鍵がかかってんだろうな……開いてるし。


「おじゃましま~す……神谷君いるー?」


 誰も居ないリビングは、不気味な雰囲気を醸し出している。


「ちょっと……不気味すぎ「なに?」うわぁ!」


 行き成り出てこないでよ!

 2階に居るなら返事しなさいよ!


「そんなに驚く?」


「もっと、存在感を出しなさい!」


 あれ? 神谷君普通に話してるじゃん。


「これ、頼まれたプリント。

学校来いって先生怒ってたよ」


「どうも……」


 相変わらずの無表情で彼は、プリントを受け取る。


「ねぇ、いつも家で1人なの?」


「まぁね……昔から、だから慣れてる」


 妙な親近感がわいた。

 あたしの家もパパがすでに他界していて、ママが仕事で遅いから愛と2人きりってことが多い。

 神谷君も親が居ないこと多いんだ。


「今度、遊びに来てもいい?」


「勝手にしなよ」


 これって、OKってことだよね?

 今日ドッキリやられた仕返しに、今度隣接してる窓から入ってみようかな。












「さいとー、今度皆で野球するんだけど来ない?」


 クラスの男の子に誘われた。

 あたしは、割と運動神経が良い方だし身体を動かすのは、好きだからよく参加してる

 昔からやってる空手のお陰ってこともあるけど。


「いいよ、今回も参加で」


「これで8人だな……斉藤あと1人誰か連れて来てくれない?

妹でもいいからさ」


「……いいよ。

男の子連れてく」


「は? クラスの男子はほとんど当たったはずだぞ?」


「任しといて」

「神谷君~」


「っ!!」


 面白いなぁ、窓から入った時の驚くリアクションがたまらない。


「斉藤、毎度驚かさないでくれ」


 そう言いながら、窓の鍵はいつも開けてくれるね。


「明日暇でしょ?

ちょっと、付き合って」


「……却下だ」


 何言っても、断るのは織り込み済み。

 力づくで連れていくのが神谷君を連れだす唯一の方法。


「黙ってついて来て!」


「めちゃくちゃな……」


 君は、内向的で人と関わらないけどホントは優しくて、良い人。

 あたしと話してるときぐらいの感じで話せばいいのに。


 あたしはこの時、この誘いが彼の人生を大きく左右するなんて知るよしもなかった。


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