第38話 神谷 功です
Side 山中 淳
「山中君、話ってなぁに?」
補習が終わり練習までの時間にワイは、斉藤を呼び出した。
「一ノ瀬 春斗って、知っとる?
そいつが次の相手なんや」
「一ノ瀬君か……知ってるよ。
あたしが、彼に功を野球始めるように頼んだし」
「あの二人の間には、何があったんや?」
「何も無いよ。
むしろ問題あったのは、功の方」
どうゆうことや?
さっぱり意味が分からん。
神谷に問題があるやと?
Side out
Side 斉藤 舞
山中君はさっぱりって感じの顔をしてる。
仕方ないよね、誰も分からなくて。
功が中学で野球を始めるまで、内向的だったことなんて。
「功の過去知りたい?」
あたしは、何を言ってるんだろう……あたしだけが知ってる功で置いておくつもりだったのに。
……違うかな、誰かに聞いて欲しいんだ、あたしが功のことをどれだけ知ってるか。
自慢したいだけなんだ……
「あぁ、教えてくれ」
少しだけあたしの自慢に付き合ってね。
「あたしと功が出会ったのは……」
「まいー!
ちょっと、来なさい」
小3の5月。
部屋で宿題をしていたあたしは、母の声を聞いて玄関へと向かった。
「なぁーに?」
「新しく隣に引っ越してきた、神谷さんよ」
「どうも、神谷です」
キレイな人だ、それが功の母に対する最初の印象だった。
「ほら、功。
あいさつしなさい、あなたと同い年だって」
「……どうも」
そのキレイな女性の息子は、下を向いてそう言った。
暗い奴だ、あたしとは絶対に合わないタイプ、それがその男の子の最初の印象だ。
「あたし、舞。
よろしくね!」
同い年の男の子と言うことで、期待を込めて手をだした。
もちろん、握手するつもりで。
「……」
相手の男の子は、無言で去って行った。
……何なのあいつ!
「ごめんなさい、あの子、少し人付き合いが苦手で」
神谷君の家は、親の転勤が多いせいで転校も多く友達が出来にくいらしい。
仲良くしてやってと、おばさんに頼まれたけど正直あたしって暗い奴嫌いなんだよね。
やっぱり、男の子って頼りがいがあって逞しくないと!
「神谷 功です……」
次の日の学校。
転校生の神谷君は、あたしと同じクラスになった。
名前を名乗っただけの自己紹介に周りは少し騒がしい。
「じゃあ、神谷君は斉藤さんの隣の席使って」
あたしの隣!?
なんでまた、こんな暗い奴……
「……」
また、無言……昨日会ったんだから何かしゃべりなさいよね!
イライラする、教科書も出さずに窓際の席だからって、外ばっかり見て。
「神谷君、教科書は?」
思い切って聞いてみた。
「……」
一瞬こっちを向いたけど、すぐにまた外を眺め始めた。
何こいつ? ケンカ売ってんの?
イライラを押さえて一時間目の授業を受けた。
休み時間、転校生恒例の質問攻めが始まった。
皆色々、質問しているけど神谷君は何も答えず教室を出て行った。
皆驚いている、一部の女の子はかっこいいとか言ってるけど、何考えてんだが……
次の日から神谷君は、ウォークマンで音楽を聞く毎日。
校則違反だけどあまりに堂々としていて皆何も言わない。
いつも1人で居る彼を周りは自然と避けて行った。
学年が上がるにつれて、学校に来る回数が減少していった。
6年にもなれば来てる方が少ないかもしれない。
あたしの部屋から見える、彼の部屋にはいつもカーテンがしてあった。
暗いところが嫌いだけど、何も知らないことも事実だった。
だから、先生にたまっていたプリントを渡すように頼まれた時、いつもはポストに入れておくだけなのに興味本位でインターホンを押してみた。
「……無反応かい」
ドアにも鍵がかかってんだろうな……開いてるし。
「おじゃましま~す……神谷君いるー?」
誰も居ないリビングは、不気味な雰囲気を醸し出している。
「ちょっと……不気味すぎ「なに?」うわぁ!」
行き成り出てこないでよ!
2階に居るなら返事しなさいよ!
「そんなに驚く?」
「もっと、存在感を出しなさい!」
あれ? 神谷君普通に話してるじゃん。
「これ、頼まれたプリント。
学校来いって先生怒ってたよ」
「どうも……」
相変わらずの無表情で彼は、プリントを受け取る。
「ねぇ、いつも家で1人なの?」
「まぁね……昔から、だから慣れてる」
妙な親近感がわいた。
あたしの家もパパがすでに他界していて、ママが仕事で遅いから愛と2人きりってことが多い。
神谷君も親が居ないこと多いんだ。
「今度、遊びに来てもいい?」
「勝手にしなよ」
これって、OKってことだよね?
今日ドッキリやられた仕返しに、今度隣接してる窓から入ってみようかな。
「さいとー、今度皆で野球するんだけど来ない?」
クラスの男の子に誘われた。
あたしは、割と運動神経が良い方だし身体を動かすのは、好きだからよく参加してる
昔からやってる空手のお陰ってこともあるけど。
「いいよ、今回も参加で」
「これで8人だな……斉藤あと1人誰か連れて来てくれない?
妹でもいいからさ」
「……いいよ。
男の子連れてく」
「は? クラスの男子はほとんど当たったはずだぞ?」
「任しといて」
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「神谷君~」
「っ!!」
面白いなぁ、窓から入った時の驚くリアクションがたまらない。
「斉藤、毎度驚かさないでくれ」
そう言いながら、窓の鍵はいつも開けてくれるね。
「明日暇でしょ?
ちょっと、付き合って」
「……却下だ」
何言っても、断るのは織り込み済み。
力づくで連れていくのが神谷君を連れだす唯一の方法。
「黙ってついて来て!」
「めちゃくちゃな……」
君は、内向的で人と関わらないけどホントは優しくて、良い人。
あたしと話してるときぐらいの感じで話せばいいのに。
あたしはこの時、この誘いが彼の人生を大きく左右するなんて知るよしもなかった。




