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夏空  作者:
第2章
32/94

第32話 落ち込むな少年!

 放課後、昨日が練習試合だった、野球部は今日はオフだった。

 朝練で身体をある程度動かしたから問題無しと思い、帰る準備をしている時だった。


「神谷ぁ、もう帰るん?」


 飛鳥が悪そうな笑みを浮かべ話しかけてきた。


「あぁ、そうだけど、なんか用か?」


「1人で帰るん?」


「そーだよ、なんか文句あっか?」


「ウチと帰ろうや」


 ……なんか、ややこしい話になってきたぞ。













「神谷は好きな相手とかおらんの?」


「……いねぇ」


「ほー、より取り見取りやからか?]


 飛鳥に脅迫と言う名の誘いを受けて、一緒に帰っているが、飛鳥はずっとしゃっべている。


「あのなぁ、お前の口はマシンガンか?

少しは静かにしろ」


「いいやん、せっかくやし神谷に色々聞ぃとこ思って」


 それが、面倒なんだ。

 そーいや、こいつ今日の練習はどうしたんだ?


「お前、今日の練習は?」


「ウチ、今日は病院行くから休み」


「へー、色々大変だな」


「肩は、今年の大会までって言われた」


 飛鳥の声のトーンが暗くなった。


「どうゆうことだ?」


「今の3年が引退するまでってこと、新チームなったら愛に投げてもらわないと。

ウチはもう投げれないし……でも、ファーストぐらいなら問題ないかな」


 それで、俺に愛の管理を任せたのか。

 こいつはこいつで色々考えてるんだな。


「まぁ、頑張れや」


「今の話、愛には内緒やからな」


 そんなこと、俺に話してよかったのか?


「あ、あれ」


 飛鳥はそう呟くと突然足を止めて、車道を挟んで向こうの歩道を指差した。

 その、指先の向こうには開成(うち)の制服を着た男と歩く舞の姿だった。


「舞!?」


「あの男は確か……」


「知ってるのか?」


「うん、確か舞と同じクラスの村上やったかな?

バスケ部のイケメン。

でも、なんで舞とおるんやろ?」


 ……なんでなんだろうな。














 その日の夜、舞から帰りが遅くなるからとメールがあった。

 夕食は自分で何とかしろと言う、意味だろう。

 理由は尋ねなかった、了解と一言だけ返した。


「こうにぃのご飯久しぶりに食べるね」


「味は知らないぞ」


「言ってくれれば愛が作ったのに」


 絶対にやめてくれ。


 しかし、村上だっけか、なんで舞と居たんだろうな。

 ついに、舞に彼氏か?

 まぁ、あいつも高2だもんな、外見は可愛いと思うし今まで彼氏がいない方が不思議だったしなぁ。


「こうにぃ?

どうかしたの?」


「ん? なんでもないよ」


「まいねぇのこと?」


 相変わらず鋭い。

 だか、ここでボロをこぼすわけには……


「まいねぇ、最近クラスの男の子とよくメールしてるみたい。

この前は電話してたみたいだし」


 こりゃ、決定的か。













「功、これ今日のお昼ね」


「おう、サンキュ」


 次の日の昼休み、いつも通り舞が弁当を持って来てくれた。

 昨日のこと、村上とのことを聞くべきか俺は迷っていた。


「どうかした?」


「いや、なんでもない」


 俺が首を突っ込むことでも無いな。

 舞が言う気が無いなら聞く必要もない。


「さてっと、部活でも行きますか」


 放課後、HRが終わり背伸びをして、身体を伸ばしている俺の横で飛鳥が不思議そうな顔をしていた。


「お前、ホンマに行く気なん?」


 不思議な顔をしていた飛鳥はそう聞いて来た。


「なんかあったっけ?」


「今日から文化祭の準備やろ」


 あー、そういや昨日そんなことで、練習開始時間が遅れるとか山中が言ってたような気もするな。


「じゃ、俺はサボリってことで」


 全体練習が始まるまでにもやれることはあるしな。


「ほー、ウチにたてつく気か?」


 なぜそうなる?


「落ち着け、俺は別にお前の敵になるつもりはない」


「なら、残れ」


 誰か俺に自由をくれ。










「ちくしょー、なんで俺はパシられてんだ?」


 何が職員室に必要な物があるから取ってこいだ。

 飛鳥のやろう……俺をこき使いやがって。


「それホント村上君?」


「うん、そうだよ。

それでさぁ……」


 職員室へと向かう俺の耳に入ってきた声は、聞きなれた声と始めて聞く男の声。

 名前は知っているんだがな。


 2人の楽しそうに会話する声を聞いた俺は、反射的に2人から見えない位置に身を隠した。

 気づかれないようにやり過ごし、2人が去ったのを確認してから、身を出した。

 俺の一連の行動を見られていることにも気づかず。


「神谷君……なにやってんの?」


「北川!? 違う、これには深い意味は無い!」


「はい? そんなにてんぱること私した?」


 確かに……俺は1人で何焦ってんだろ。


「神谷君も職員室?」


 とりあえず頷く、俺。


「じゃあ、一緒に行こ」


「おう」



「失礼しましたー」


「神谷君、ごめんね。

私の分まで持ってもらっちゃって」


「別にいいよ。

ついでだし」


 と、言ってみたもの段ボール2つは前が見えん。

 しかも、結構重いし……一体何入ってんだ?


「……ねぇ、さっき廊下でなんで隠れてたの?」


「別になんでもないよ」


「ふーん、舞ちゃんのこと?」


 俺は顔に思っていることが書いてあるのか?


「もし、そうだって言ったら?」


「ちょっと、妬いちゃうかな」


 なんか、嫌な予感が。


「舞ちゃんが嫌いなわけじゃないよ。

でも、神谷君が他の()のこと考えてるってのは、ちょっと嫌だな」


 彼女は、廊下のガラス張りになった窓の外を見て行った。

 外の景色は、茜色の夕空だった。 


「北川……」


「私の個人的なわがままって、ことは分かってるよ。

でもさ、『神鳥 哲也の妹』じゃなくて、私自身を見て欲しいなって、どうしても思っちゃうんだよね」


 何も言い返すことが出来なかった。

 北川の言ったことは、俺の心の核心をついた言葉だったからだ。


「舞ちゃんと神谷君のやり取りを見てると、羨ましいなって思う。

神谷君は私に気を使って、いつも優しいもんね」


Side 北川 沙希


 君は優しすぎるよ。

 君の心の内側を覗いてみたい。

 私には見せてくれない表情だって、きっとあるんだろうね。


「ごめん……」


 そんな、暗い顔しないで、君のそんな顔は見たくない。

 でもね、見たくないと思う一方で、色んな表情を見たいと思う、私も居る。


「落ち込むな少年!」


「っ!

いきなり背中叩くなって」


 そんな、驚いた表情も好きだよ。

 ……絶対振り向かせて見せるからね。


Side out


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