第31話 ウォークマン貸してや
冬が明け、春の甲子園が終わった。
2年生に進級した、功たちの2度目の夏が始まろうとしていた。
少しずつ変わりゆく、彼らを取り巻く環境と心。
高2編突入です。
5月病とはよく言ったものだ。
去年の今頃に比べると、体がだるい。
「ふぁ、ねみ」
「ごめんこうにぃ!
待った?」
「いんや、来たばっかだ。
それより、早く行くぞ。
愛が朝練に遅刻して、飛鳥の奴にぐちぐち言われるの俺なんだからな」
「福島先輩は良い人だよ?」
「はいはい、分かった、分かった」
高校生活2年目に突入。
愛は結局俺や舞と同じ、開成に入学した。
宣言通り、ソフト部に入り毎日練習に励んでいる。
「でもさぁ、こうにぃとこうやって登校できるなんて夢みたいっ」
「中学の時もしてたろ」
「2人きりってのは、無かったよ」
今、俺は愛と部活の朝練に向かっている途中。
野球部は基本的に朝は自主練なので、参加自由だ。
グラウンドの大部分をソフト部が使うってのも、理由の1つ。
公立校だから放課後なんかは、サッカーとかと共同だから、いつどこが使うかはキャプテン同士で決めているらしい。
「おっはよ!
神谷は今日も愛と仲良く登校か?」
「あ、おはようございます、福島先輩」
学校に着いた俺と舞に元気よくあいさつした女こそ、ソフト部2年生エース、福島 飛鳥、ポニーテールに髪に運動部らしい、引きしまった身体。
顔は相当可愛いと思う、黙っていればの話だが。
「おいおい、神谷ぁ。
せっかくウチが話しかけてんのに、愛想無さ過ぎひんか?
それとも、ウチが美人やから照れてるんか?」
相変わらず、朝かよくしゃべるやつだ。
あつの口には、休みが無いのか?
「照れもないし、愛想が悪いのは昔からだ」
「ウチのこと、下の名前で読んどいてよく言うわ」
「お前が呼べと言ったんだろう」
飛鳥と知り合ったのは、一か月前。
愛の入部した後だった。
「お前が神谷か?」
クラスの隅にある、自分の席でいつも通りウォークマンを聞いてる時だった。
声の主は、声が聞こえてない俺の机を叩き叫んでいた。
「おい、ウチの話を聞け!」
っ! イヤホンごと引っこ抜きやがった。
「なに? 何か用?」
「さっきから呼んでんですけど?」
舞以上に気の強そうな視線は俺にある気持ちを抱かせた。
――めんどくさいやつに絡まれた――
「ウチの名前は福島 飛鳥。
呼ぶ時は飛鳥でいいから」
「はぁ、で、何?」
「最近ソフト部に入った、愛が神谷と幼馴染ってホンマ?」
「あぁ、ホントだけど?
それがどうかした?」
「じゃあ、神谷!
愛のことは任せるで」
はい? コイツナニイッテンダ?
「えっと、どうゆう意味?」
「いいか、あの愛ってのはかなりの逸材や。
だから、お前が責任もって管理しぃや。
じゃ、頼むでー」
「福島待て! なんで俺がそんなこと「飛鳥でいいって、言うてるやろ」文句言うのそこ?」
「ええい、いちいちうるさいなぁ!
お前は黙って愛をしっかり管理しとけ!
分かった!?」
「はい、了解です……」
やっべ、超こわい……気が強いと思ってたけどここまでとは……
「おーい、生きてるかー?」
「んぁ? ああ、バッチリだ」
「何、考えてたん?」
「ちょっとした回想だ」
変な妄想すんなっと、飛鳥は俺の頭を殴ってきた。
どうして、俺も周りの奴は変わった奴が多いんだろうか?
2年に進級した際、俺は丸川と同じクラスになった。
舞・関本・桜井は理系だから同じクラス。
んで、北川と山中が同じになった。
ちなみに俺のクラスには、オマケにこの女も。
「神谷ぁ、ウチにウォークマン貸してや」
HR中に暇そうにする、飛鳥に話しかけられた。
「嫌だね、俺の昔っからに愛用品だ」
厄介な女と知り合ってしまった、しかも、隣と言うダメ押し。
悪夢だ、席替えが1年無いと言うから余計に絶望する。
「功、これ昼ごはんね」
「おう、サンキュ」
昼休み、いつも通り舞が弁当を持ってきた。
「神谷ぁ~、舞の愛妻弁当か?」
そして、飛鳥は相変わらずうるさい。
「飛鳥! 変なこと言わないでっ」
「ほー? ウチにそんなこと言っていいんか?
神谷ぁ、舞が話ある「黙って!」ふが!」
舞はもの凄い速度で飛鳥の口をふさいでしまった。
何やら弱みを握られているらしい。
「飛鳥、ちょっと話があるの」
「ウチぃ~? 堪忍してぇな」
「ダメ!」
2人は廊下へと消えていった。
俺には関係ないし、ほっとくか。
2人を見送り、舞から渡された弁当のふたを開けた。
おぉ、相変わらずうまそうな弁当だ。
俺は箸でタコの形をしたウィンナーを口に運んだ。
Side 福島 飛鳥
「で、話って?」
「えっと、その……功の前であんまり変なこと言わないでっ」
「例えば、神谷のこと好きとか?」
「~~~っ!」
おぉ、面白いくらいに顔が赤くなっていく。
ホンマ面白いなぁ、舞は。
積極的に行けとウチが指示して、クリスマスにキスまで行ったなら最後まで行けばよかったのに……まぁ、そのらが舞の可愛いとこでもあるんやけど。
「でも、神谷との距離はつまってるん?」
「全然……てか、ここまでして気づかない男っている!?」
確かにいくら幼馴染でも、身の回りの世話をここまでするのは舞くらいやろな。
神谷も鈍すぎるわ。
「舞はスタイルもいいんやし、体で迫ってみたら?」
「でも……そうゆうのって……」
恥ずかしそうに声が地小ぃさくなっていくあたり、舞はこの手の会話は苦手のようやな。
「功からがいいっていうか……」
「はぁ、何言ってんのや」
呆れて物も言えへんわ。
「いいか舞、欲しいものを奪うのに手段は選ぶな。
それに神谷の競争率は半端や無いで。
気をつけてないと誰かにネコばばされる恐れだってある」
「分かってるよ、分かってるけどさ!
普段一緒にいるから、キッカケがいまいちつかめないって言うか……それに、クラスも別になっちゃたし」
う~ん、何か言い手は無いもんか。
Side out




