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夏空  作者:
第2章
25/94

第25話 調べてみっか?

Side 藤井 高志


「藤井さん、開成惜しかったですね」


 帰りの車で飯村がそう言って口を開いた。


「まぁ、現実はそう甘くないってことだな」


 開成対報明の試合は、新井君のサヨナラ逆転ツーランで幕を閉じた。

 最終回、マウンドの神谷君はツーアウトまでは簡単に取ったが、3番打者にフォアボール。

 そして、続く4番新井君に粘られた末に力尽きた。

 

「よく、やった方さ。

他はコールドで負けているんだからな」


 ただ俺は、何ともいえない疑問を頭に抱えていた。

 中学時代見た、神谷君のボールは、今日見たモノよりも凄かった気がする。

 自分の印象でしかないが、力が落ちている気がしてならなかった。


「……思い過ごしだな」


 自分の勘をそう信じたいと思った。

 たとえ、もし、そうだとしても彼なら大丈夫だと信じている。

 神谷君がいずれ甲子園で旋風を巻き起こしてくれる……と。


Side out












「あ~! ちくしょう!」


「最後の一球だけ甘く入ってもうたな」


 試合の帰り、俺と山中は近くのファミレスで反省会。

 と、言うよりも、敗戦後のあの空気に耐えきれなくて、俺が強引に誘ったに等しいが。


神谷(おまえ)はよう投げた。

援護できんかった野手(わいら)が敗戦の原因や」


「変な慰めはやめてくれ、最後の最後に打たれて負けた。

事実はそれだけだ」


 負けるのは初めてじゃないし、次があると言っても負け方が負け方だけに、結構精神的にキツイ。


「でも、今回でハッキリしたな」


「何が?」


「神谷のピッチングは全国クラス相手でも十分通用する。

今日はそれ証明出来たと前向きにとらえようや」


 確かに、ある程度自信にはなったが……負けたら意味ないからなぁ。


「このカリは夏かえそうや」


「当たり前だ、次は勝つ」


 今日の敗戦でセンバツは無くなった。

 甲子園へのチャンスは後3回。

 しかも、次の夏は先輩たちにとって最後の夏だ、せめて悔いの無いように引退してもらわないと。


「まぁ、それは終わった話として……」


 山中は俺の目をまっすぐ見つめ、俺の様子を窺うような視線を浴びせてくる。

 キャッチャーらしい、相手を観察するような目で。


「昨日は北川と何かあったみたいやな」


「……何を根拠に言ってる?」


「アホ、ワイの洞察力なめんな。

今日のお前らの態度見てたら、何かあったことぐらいすぐに分かるわ。

試合になったら、頭の中から消えてたみたいやけどな」


 なんだとぅ!? 確かに試合前は何となく気まずくて距離を置いていたが、違和感のない程度のはずだ。


「……まさか、思うけど、お前朝帰り(・・・)ちゃうやろな?」


 バッバカ野郎!! それこそR指定の物語になっちまうだろ!


「お前が考えてるような、やましいことは何も無かった」


「ほー、嘘は身を滅ぼすぞ?」


「神に誓って本当だ」


 そんな、疑いの目で俺を見ないで……


「じゃあ、ホントのこと聞かせぇ」


 ……俺、なんか悪いことした?

「――と、言うわけだ」


 ちくしょー、なんで俺は全部吐かされているんだ?

 何も悪いことしてないだろ。


「はぁ!? じゃあ、なんや、北川への返事は保留かいな!?」


「まぁ、そうゆうことだな」


「このヘタレめ」


 やかましい、向こうがそれで良いって言うんだから仕方ねぇだろぉ。


「まぁ、早めに答えはだすつもりでいるよ」


「んなこと言って、グダグダ引っ張る気ちゃうやろな?」


「安心しろ、善人でないと自負しているが、そこまで悪人ではない」


「なら、ええけどなぁ」


 にしても、こいつは一体何を考えてんだ?

 そこまで、俺と北川を近づけたいのか?


「お前は、なんでそこまで、俺と北川の仲を気にするんだ?」


「こっちは、何かと相談持ちかけられとんやぞ?

結果を気にするのは当然やろ」


 北川と山中はグルだったのか……っ!?

 まっまさか!?


「まさか、昨日ことも貴様の陰謀か?」


「今更なにいっとんや?

当然やろ」


 そこまで、堂々と言われるとなんか清々しいな……


「その話は終わりにしよう。

それよりも、うちの監督についてだけど……」


「加持先生か? やめとけ、あの人の素性は誰も知らんのや」


「は? 本人に聞けばわかるだろ?」


「自分ことは一切、話さない人やからな」


 マジかよ、経歴不明の監督って……ある意味公立らしいけど……


「山中、お前、今まで加持先生の采配に疑問を感じたことは?」


「あまりに的確過ぎて驚いたことはあるで。

それに、驚くような采配でも結果的には良いほうになってたとかな」


 そうだ、あの人は公立校の監督だって言うのに監督としての腕は悪くない、それどころか間違いなく上位クラスだ。

 それに、勝つことにどん欲だ、でなきゃ入部して1カ月の奴にエースを任したりはしない。

 そんなことしたら普通はチームの和は乱れるものだけど、あの人が監督のせいかそうゆうことは一切起らなかった。


「調べてみっか?」


 山中がいたずらを思いついた子供のような顔で提案した。


「どうやってだよ?」


 高校生の俺らが個人の経歴など調べる手は口コミ以外見当たらない。

 俺らが映画とかに出てくるスパイとかなら話は別だけどな。


「藤井さんがおるやないか。

以前、学校に来た時も加持先生と仲良さそうやったし、何かと知ってるんちゃうか?」


「なら、決まりだな」


 結局、藤井さんに話を聞くと言うことで意見はまとまった。


「さて……そろそろ、帰るか」


「せやな」


 山中と席を立ちあがり、勘定をすませ、店を出た時だった。


「あ……」


「お……」


「ん?」


 俺たち2人と鉢合わせになった、今日の試合を決めた本人、新井と。

 今日、戦った奴、少なくとも負けた相手とは話す気分にはなれなくて、無言で立ち去ろうとした。


「ちょっと、待てよ」


 勝者が敗者に声をかけるのはタブーだろ、普通は……


「なんだよ?」


神谷(おまえ)なんで、夏は居なかったんだ?」


「色々あったんだよ」


「……まぁ、いい。

戻ってきたのはありがたい話だからな」


「どうゆうことだ?」


「俺は中学時代、お前に負けたんだよ」


 記憶にないな。

 今となってはそっちの方が格上だろうに。 


「それに、今日のお前のピッチングはあれで本気なのか?

中学時代のほうが凄かったぜ」


 新井(こいつ)って、結構性格悪くないか?


「大きなお世話だ、それともケンカ売ってんのか?」


「まさか、ただ、気になっただけだ。

それに、あの程度がお前の力だって認めたく無かったしな」


「どうゆうことだ?」


「俺は神谷(おまえ)に勝つために報明に入ったことだ。

夏は怪我とかつまらないことで、欠場すんなよ。

一番楽しみにしてるんだからな」


 新井はそう言い残し、背中を向け、右手を挙げて去って行った。


「手ぇ、抜いてたんか?」


 俺と新井のやり取りを黙って見ていた、山中が口を開いた。


「まさか、全力に決まってんだろ」


今の(・・)って、ことやろ?」


「力が落ちていたと言うのなら、この冬で取り返してみせるさ」


 神鳥との再戦よりも、まずは新井の度肝を抜くのが先決だな。


しばらくは中3日で更新しようと思います。



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