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夏空  作者:
第2章
23/94

第23話 俺の分析によるとだな……

Side 藤井 高志


 思わず、口元が緩んでしまう。

 なんせ、俺の一番待ち遠しかった、あの投手が復活したんだからな。

 現在、行われている、県大会での活躍で評判も右肩上がりだ。


「見ろよ、飯村。

俺の予想通りだろ?」


「開成が秋季県大会、ベスト8に入ったことですか?」


「そうだよ、この秋からエースになった、神谷君は逸材だぞ。

140km越えのストレートに高速スライダーを武器に全試合で二桁奪三振だ」


「でも、四球(フォアボール)も多いじゃないですか。

守備(バック)の助けが無かったら、もっと失点してるはずですよ」


 こいつは分かってねぇなぁ。

 その、不安定さが魅力的だってのに。


「それに、藤井さんお気に入りの開成も次で終わりですかね」


「なんでだ?」


「その手元にあるトーナメント表、見て下さいよ」


「……こいつは確かにきついな」


 そこに書かれていた開成高校の次の相手は夏の甲子園ベスト16、報明学園だった。


Side out













「ラスト!」


「んっ!」


 放課後の投球練習。

 俺の投げたボールは山中の構えるミットに乾いた音を響かせながら収まった。


「OK!

疲れは大丈夫そうやな」


「まぁな、夏の予選と違って、土日にしか試合がないからな」


「それはいいとしても、少し四球(フォアボール)が多すぎとちゃうか?」


「もともと、コントロールが良い方じゃないんだよ」


「それはそうやけど、次の相手は甘いところに入ったボールは打たれるで」


「分かってる」


 なんせ、次の相手はあの新井が4番を打つ、報明だからな。

 ここまで全試合コールド勝ちの強豪校。

 俺たちのような県立校がどこまでやれるか……














Side 加持 幸一


「北川、報明のデータ、頼んでいたのは出来たか?」


「加持先生、はい、どうぞ」


「ご苦労さん」


 こうして報明の各打者のデータを見ると凄いな。

 さすが、全国クラスって感じだ。

 うちの神谷がどこまでやれるか。


「先生、次の試合勝てますよね?」


「さぁな、ただ、神谷(あいつ)が打たれれば、うちは終わりってことだけはハッキリしてる」


「大丈夫かなぁ……」


 俺が監督を始めてあれだけの投手が入ってきたのは初めてだが……まだ、甲子園では通用しないだろうな。

 しかし、山中や他の1年の力があればなんとかなるかもしれんな。

 

 ……どうも、あいつらを見てると、どうも昔を思い出してしまう。

 甲子園なんて、あの最後の夏以来、再び行けるとは思っても無かったのにな。


「北川、俺は職員会議があるから、もう練習終わるように言っといてくれ。

後、明日は試合だから、早めに帰るように。

特にお前ら1年は寄り道せずに帰れよ」


 まったく、1年全員でなんで今どきラーメン屋なんだ。


「はーい、今日は大人しく帰ります」















Side 山中 淳


「……山中、もう一度言ってくれ」


「だから、北川と2人で一緒に帰れや」


「なんでだ? 全員で帰ればいいだろ?」


 神谷(こいつ)は少し頭が弱いんとゃうか?

 今のセリフを北川が聞いたら泣くぞ。


「おいおい、山中ちょい待ちな。

そのご指名、俺様が受けるぜ!」


「丸川……残念やけど、お前じゃ話ならんねん」


「なんだと!? 俺様が神谷に劣っているものなど何も「少し、黙ってろ」ぐは!」


 ナイス関本!

 ボディブローで悶絶してる丸川とそれ見て謝っている、桜井はおいておこう。


「いいかい、神谷、俺の分析によるとだな……」


また、なんか変な分析が始まったで……


「……っと、言うわけだ。

とにかく、お前は北川と帰るんだ」


「30分黙って聞いてたけど、結局何が言いたかったんだ!!?」


 神谷が驚く気持ちも分かるわ。

 30分かかって、意味不明な理論を展開しておいて、進展なし。


「いいから、帰れってことだよ!」


「関本! お前も黙っとけぇぇぇ!」


Side out


 まったく……こいつらは何を考えてんだ?

 いつも通り、皆で帰ればいいのに……


「みんな、まだぁ?」


「お! 北川、神谷が一緒に帰りたいそうやで」


「待て! 山中、誰もそんなこと「関本、黙らせぇ」ふが!」


 くそ! 関本離せ! そして、口元から手をどけろ!


「なんか、神谷君凄い暴れてるけど、大丈夫なの?」


「少し、テレてるだけや。

全然大丈夫や」


 勝手に決め付けんなぁぁぁ!


「神谷……あきらめな」


 関本、耳元で囁かないでくれ、寒気がする。

 後は北川が断るのを期待するしか……


「いいの? じゃあ、一緒に帰ろっか」


 俺の期待は北川の笑顔の前に儚く散った。


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