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夏空  作者:
第2章
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第22話 まともな奴はいないのか?

 緊張……今の俺の気持ちを表すと間違いなくこの一言だ。

 だって、このタイミング(2学期開始)に入部届け出すバカ野郎がいるか?

 きっと、俺だけだ、うん、間違いない。


 緊張を抑えつつ職員室のドアをノックした。

 ドアを開けると冷房の利いた、冷たくて心地いい風が顔をなでる。

 

 たしか……顧問の先生の名前は。


加持(かじ)先生いますか?」


「ん? 俺が加持だが?

何かようか? 1年の授業には行ってないはずだが?」


 語尾が全部疑問形って……

 つーか、マジでこの人が監督か?


 整った顔つきに、そり残しの無精ひげ……いかにも適当そうな人だ。

 そして、長い髪は後ろで束ねてある、そして、纏うオーラは緩い……


 なんか、こう、もっといかついのを想像してたのに。


「野球部に入りたいんです。

これ、入部届けです」


「ほー、『神谷 功』ね。

山中が言ってた子か。

中学のころなんでも、全国ベスト4だったらしいな」


 あいつ、どこで一体何を話してんだ?


「まぁ、そんなとこです」


「丁度うちは投手が不足していてな。

お前がいいのなら、すぐにでも試合で投げてほしいくらいだ」


 いやいや、同期はともかく、先輩たちの目が怖いっス。


「まぁ、キャプテンの奴も、山中の話聞いて入って欲しそうだったから、大丈夫だろ」


 ホント、あいつはどれだけの人にしゃべってんだ?

 今度からは注意しておこう。

  


 









 


 入部は済んだ。

 よっしゃ、部室にでも行きますか。

 横にいる奴と一緒にな。


「まぁ、そう緊張せんでも、ワイが話してるから大丈夫やって」


 ある程度は感謝するが、いい加減しゃべりすぎだ。


「はいはい、そりゃどうも。

それより、1年って何人いるの?」


「お前、合して5人や」


 おいおい、来年の新入生の数次第では試合できないぞ。

 マジ、大丈夫か?


「おう! 野郎ども! 噂のピッチャー連れて来たで!」


 部室へ勢いよく山中に便乗して入ったのはいいが。

 なんだ、この空気?

 誰かしゃべろうぜ。


「どないしたんや? 誰かなんかしゃべれや」


 野球のユニフォームを着た、3人の男たちは完全に俺を見て固まっている。

 ……俺、なんかしたっけ?


「どうも……神谷です。

よろしく」


 右手を挙げて、あいさつしてみたけど……誰かほんとマジ、どうにかしてこの空気!


「へー、君が神谷か。

思っていたよりも普通の体型をしてるんだね」


 一番に右にいた、眼鏡をかけた男が言葉を発した。

 俺の体を見つめ、何やらぶつぶつ呟いている。


「あいつの名前は関本 陽一(せきもと よういち)

ポジションは遊撃手(ショート)や」


 隣に居た、山中が解説してくれた。

 眼鏡=関本、この方程式で間違で決まりだな。


「先に名前言わなくて、スイマセン!」


 そう言って、猛烈な勢いで頭を下げている真ん中の男。

 気の弱そうな奴だ……


「あいつは桜井 大樹(さくらい だいき)

ポジションは二塁手(セカンド)や」


 山中に紹介された桜井はいまだに「スイマセン!」と言って、頭を下げている。

 桜井=スイマセン、こいつはこの方程式でOKっと。

 さて、残る1人は俺を物凄い睨んでくるんだが……俺なんかしました?


「てめぇが、神谷か」


 ちょ……顔近い。

 しかも、超怖い。


「そうだけど、なんだよ?」


「俺様の名前は丸川 林太(まるかわ りんた)

ポジションは外野だ」


 お前は俺様キャラか。

 なんか、まともな奴居なくね?
















「で、帰りになんで、ラーメンなんだ?」


神谷(おまえ)の入部歓迎会やないか」


「そうそう、せっかく1年生増えたんだしさ」


 部活帰り、1年(北川も含め)全員でラーメン屋へ。

 なんでも、桜井がかなりのラーメン好きらしく、この店はかなり美味しいとか。


 そして、とうの本人は……


「スイマセン! 僕のせいで、スイマセン!」


 そんなに謝らなくてもいいんだが……


「桜井! てめぇ、うるせぇんだよ!

俺様の食事の邪魔をするな!」


 そして、丸川よ。

 ラーメンにコショウを入れ過ぎだ。


「このスープの味!

具材はおそらく……」


 関本よ、眼鏡を曇らせながらスープの解析はやめてくれ。

 マジで食欲が無くなる。


 くそ! まともな奴はいないのか!?


「どないしたんや? 食わんのか?」


 山中、この状況で冷静に食べれるお前の神経を尊敬するよ。


「いつも、こんなに賑やかなのか?」


「まぁな、悪くないやろ?」


 そう言われ、周りに目をやった。

 騒がしい、だけど、そこの空間に広がっている空気はどこか心地いい。


 こんなのも悪くないかもしれない。


「今、神谷君笑ったでしょ?」


「別にー」


「……野球部、入って正解だったでしょ?」


「かもな……それより、北川。

麺延びてるぞ」


「嘘! ホントだ……スープが無い……」


 ハハハ、麺が倍くらいになってやがる。


「おい、神谷ぁ。

てめぇ、えらく沙希ちゃんと仲がいいようだな?」


 丸川は俺のこと嫌いなのか?


「気のせいだろ。

変な誤解はやめてくれ」


「フン、まぁいい。

俺様の狙う女子は1人しか居ない」


「誰だよ?」


「斉藤 舞ちゃんだ」


 ……もう、言葉がみつからねぇよ。


「丸川にあんな可愛い子が落とせるわけないだろう。

自分の顔と相談したらどうだ?」


「関本! てめぇ!」


 冷静な分析ですな。

 関本博士。


「関本さん、そんなこと言ったら。

ダメですよ!」


「いいんだよ、早めに言ったほうが本人のためになる。

桜井だってそう思ってるから。

否定しないんだろ?」


「そっそれは……」


「桜井……貴様……」


「ヒィ! すいません!」


 また、謝るんだな。

 桜井よ。


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