第21話 目指す場所はハッキリしてる
山中との約束から3日がたった。
俺の気持ちは8割以上決まっていたが、残りの2割弱が決断を鈍らせていた。
――本当に野球をしてもいいのだろうか?――
そして
――俺の力は役に立つのだろうか?――
それが、2割弱を占める、少しばかりの不安。
「愛、久しぶりにキャッチボールしないか?」
「え? いいよ。
硬球?」
「ああ、久しぶりに……な」
隣でテレビを見てた、愛を連れて近くの公園へと向かった。
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「こうにぃが誘うなんて珍しいね」
「気が向いただけだよ」
とても、中学生とは思えない、良いボール投げるなぁ。
愛は相変わらず。
「野球、する気にでもなったの?」
そして、相変わらずするどい。
「まだ、分からないよ」
「でもさ、最近こうにぃ、顔つきが戻ってきたよ」
「は? 俺はいつでも一緒だよ」
「ううん、去年の秋頃から、ずっと浮かない顔してたもん」
Side 斉藤 愛
あの事故があって、こうにぃは別人みたいになってしまった。
笑っていても、それは心からの笑顔ではなく。
優しい、けれどそこに、こうにぃの心は無くて。
見てることしか出来ない自分が歯がゆかった、きっと、それはまいねぇも同じ。
でもね、今は
「こうにぃは愛の知ってる顔をしているよ。
おかえり、こうにぃ」
Side out
そんな心配をかけてたとは……
舞もそうだったのかなぁ、そうだとしたら俺はホント情けないやつだ。
もし……そうなら俺のすることは決まってる。
「ありがとうな、愛」
前へ進もう、少しずつ、ゆっくりと……
「舞、少し話があるんだ」
「功からなんて珍しい、どうしたの?」
珍しい……珍しいのか?
まったく心当たりがないぞ。
「俺、野球部入るよ」
「へ? 突然どうしたの!?」
「んにぁ、山中にずっと誘われてたろ?
それに、神鳥も復活したし、もう一回やろうかなって」
「ホントに……ホントにいいの?
もし、また野球を嫌いになるようなことになったら……」
愛の言った通り、かなり心配されてたんだな。
俺、どんだけ頼りないんだ……なんか泣けてきた。
「大丈夫、今度はあんなことにはならない。
それに……いや、なんでもねぇ」
「なになに? 言いたいことあるならいいなさいよ」
そんな詰め寄るな!
くそ! いらんことを口走ってしまった!
「何でもないって言ってんだろ!
とりあえず、離れろ!」
「へー、そんなこと言っていいのぉ?
フッ!」
「ぐふ!」
ゼロ距離、ボディブローだと……色んな意味で悶絶もんだ。
「これで、今回は許してあげる。
次の機会にでも……ね」
次の機会に俺は何をされるんですか……?
死にたくないよぉ。
でも、あんなに嬉しそうな顔する舞を見たのも久しぶりな気がする。
頑張ろう……周りの人の期待に応えれるように。
「さてっと、返事を聞かせてもらおか」
山中との約束の日、俺は山中を約束の取り付けた屋上へ呼び出した。
目的はもちろん1つしかない。
「……やるよ、もう一度野球を。
中学の頃はやる理由なんて漠然としていた、でも、今度は違う。
目指す場所はハッキリしてる」
「……甲子園……やな」
「それは、最終地点の通過点だよ」
「は? どうゆう意味や?」
「やるからには頂点。
全国制覇だ、どのみち神鳥と甲子園で会うならそれくらい本気でやらなきゃ会えない」
「ハハハハ!! 行き成り大きく出たなぁ!
ええでぇ、その無茶のらしてもらおうやないか!」
「まぁ、そうゆうことでよろしくな」
「ああ、目指そうやないか。
全国№1バッテリー!」
神鳥……少し待ってろよ。
すぐにお前に追いついてやるからな。




