第2話 この変態!
「本当にすいませんでした」
俺は今、舞に土下座中。
なんでかって? 捕まったからに決まってんだろ。
「まぁ、いいわ。
あの本は捨てとくから。今度似たようなもの見つけたら……分かってるわね?」
俺の命が消えるってことだろ。
バッチリOKだぜ。
「はい」
「よろしい♪
じゃあご飯にしましょ」
意味ありな笑みを残し舞は部屋から去っていった。
あぁぁ。あの笑顔が怖いよ。
晩御飯に毒をもってくるとかそんな裏技は無いよな……
残りの物もいますぐどうにかせねば!
Side 斉藤 舞
ホント信じらんない!
あんな本をベッドの下に隠し持ってたなんて!
まだ、出てくるかもしれない、今度は詳しく調べなきゃ。
……それにしても、あたしを襲うって……
そ、そりゃ、それはそれで悪い気はしないけど、もっとこう……段取りってものが……
ダメダメ! 思い出しただけでも顔が熱くなってきた。
早く忘れなくちゃ。
にしてもあの鈍感バカも気づかないかなー?
いくらあいつの両親が仕事でアメリカに居て家で1人だって言っても。
普通こうやって毎日ご飯つくりに来るわけないでしょ。
ホント鈍いんだから……功のバカ!
「功、ご飯出来たよー」
Side out
「功、ご飯出来たよー」
「へーい」
ケンカ強いくせに料理とか女の子らしいことは割りとよくこなすんだよなー
目の前に並んだ夕食を見て、舞の料理スキルの高さに感心する。
おかずを一つ箸でつかみ、口に放り込む。
「んー、相変わらず。美味い」
「バカ言ってないで。早く食べなさい」
満更でもないくせに。
でも、美味いのは事実だ。
俺も料理は少しくらいなら出来るが舞には全く敵わない。
それにしてもこいつは3食全部俺の世話をしてくれるのに俺に何も見返りを求めてこないな。
一体求めているのだろうか……俺にはさっぱりだ。
夕食後、俺と舞は一緒に洗いものを片づけていた。
舞が水で洗い、俺がそれを拭く。
「功、あんた。
何か運動部に入らないの? 運動神経良いのにもったいないよ」
「やらねぇよ。しんどくせぇ」
「……そっか。そうだよね、功が野球以外するわけないか」
「その野球をやめるんだ。
他のスポーツなんてやる気は無いし、俺にそんな資格は無い」
「そんな言い方しなくても……」
「これは俺なりのケジメだ」
拭き終わった皿を重ねていく。
真っ白な皿を見ながら、自分に言い聞かせる。
そうだ、俺は野球をやっちゃいけない。
あんなことを……1人の野球人生を奪った俺が野球をするなんて許されないんだ。
Side 斉藤 舞
あいつは何時になったら自分を許すのだろう。
あれは事故だったのにいつまでも引きずって……
あんなに楽しそうに野球をする功をもう見られないのかな?
自分の感情を押し殺して、他人と距離を置いて過ごしていく日々の中にあんたは満足なの?
Side out
ん? 朝か……
昨日は洗いものをすましてそのまま寝た。
だるさの残る身体を起こし、枕もとの携帯で時間を確認する。
学校まで時間あるしシャワーくらい浴びるか。
ベッドから降り、欠伸をしながら浴槽へと向かった。
「ふぁ~、舞の奴に起こされずに起きるのは久しぶりだな」
あいつのおかげで遅刻は免れてるし目立つことなく高校生活がスタート出来た。
たまに口うるさいこともあるけど少しくらい感謝しないとバチが当たるってもんだ。
朝に浴びるシャワーは気持ちいい。
浴槽から出た俺は身体をタオルで拭いた時にある事に気がついた。
「あ、パンツしか出してねぇ」
なんてこった、まだ4月上旬だぜ。
ぬれた身体には寒すぎる。
早いとこ上を着ないと……あ……
服を出そうとリビングへ移動した、俺の目線の先には目を丸くする舞の姿。
「よ、よう。おはよう」
「……きゃぁぁぁあ!!」
はい、朝から素晴らしい絶叫ありがとう。
何これお約束ってやつ?
母さんが舞に渡した家の合鍵返してもらった方がよかったかな?
たまに早起きしたらこれだよ。
上着を着た俺に舞が問い詰める。
「なんで朝からパンツ一枚なのよ!!?」
「シャワー浴びて出たら、お前がたまたまいたんだろ!!」
「昨日といい……この変態!!」
「な!? ちょっと待て。
昨日のことは俺に非があると認めよう。
だがな、風呂場から出てきてパンツ一枚くらい別にいいだろ!!」
「女の子にそんな格好して。
恥ずかしいとか思わないの!!?」
「お前と俺の仲なんだからいいだろ!!」
決して幼馴染の裸を見て興奮しないって意味じゃないからな。
最近女の子らしい体つきになってきたスタイル抜群の年頃の異性の裸なんて耐えれるわけない!!
……俺は何を言ってるんだ?
自分を律していると余裕のあったはずの時間はいつの間にか、無くなっていた。
慌てて制服に着替え、朝飯も食わずに舞と家を出た。
走っている最中にふと、山中の事がよぎった。
にしても、今日も山名の奴来るのかなー?
いい加減諦めて欲しいもんだ。
今日こそ諦めてもらう!
そう心に決めて、俺は学校へ急いだ。
結局、間に合わず遅刻する羽目となった。
早起きしたはずのなのにどうしてこうなったのだろう……