第19話 神鳥 哲也
――甲子園――
高校球児の憧れであり最終的な目標。
中学時代は俺も高校になれば目指すと決めていた。
でも、今となってはもうどうだっていい場所だ。
「あんたいつまで寝てんの!?」
俺の朝(現在の時刻は12時)を邪魔する暴君。
その声は頭にも響いて俺の脳内をかき回す。
「うるせぇなぁ、今日の昼からの補習はさぼる。
じゃ、おやすみぃ……」
昨日は愛がゲームをしようとしつこくて寝るのが遅かったのさ。
「何言っての、早く起きなさい!」
バッバカ! 掛け布団を取り上げるな!
「な……あんたって奴は……
ちゃんと下を履いて寝なさい!!」
パンツは履いてます!
「仕方ないだろ!
寝起きなんだから!!」
この後、俺の横っ面にはキレイな紅葉。
理不尽すぎるっしょ……
「報明の5番打ってる人、私たちと同じ1年だって」
「あー、新井だっけ?
中学から有名じゃん」
現在、朝食と言う名の昼食を食べながら、甲子園をTVで観戦中。
地元の兵庫代表『報明学園』が2回戦を戦っていた。
ちなみに1回戦は6-1で圧勝だったらしい。
「山名君とどっちが凄いの?」
「同じぐらいじゃない?
山中も高1の中じゃ飛びぬけてると思うよ」
まぁ、1人で甲子園に行けるほど甘くはないと思うがな。
実際、山中を有して3回戦で負けたわけだし。
さて、飯も食ったし補習でも行きますか。
「ウッス、神谷ぁ」
「山中……そう言えばお前も1学期は成績不振だったな」
「やかましいわ、どうも英語がワイのことを嫌ってるみたいや」
「フッ、英語だけだからいいじゃねぇか」
「うひぁ~、数学もアカンかったんか」
それこそほっとけ。
ちくしょー、数学って数の学問だろ?
なのに、なんでXとかyが出てくるのがどうにも理解できん。
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「山中、お前何してんだ?」
「ん? 甲子園の経過や」
補習の授業中に携帯で試合の途中経過見るって。
お前はどんだけ野球好きなんだ。
おいおい、先生こっち睨んでるぞって、前の席の奴らほとんど寝てるじゃん。
こりゃ、先生怒るぞ。
「山中、先生怒りそうだから携帯閉じろ」
「……」
「おい、聞こえてんのか?」
「あ? あぁ、すまんな」
「っ? どうかしたか?」
「いや……神奈川代表の高校に気になる名前見つけてな」
「は? なんて名前?」
「神鳥 哲也」
Side 藤井 高志
「マジかよ……なんであの子が神奈川の高校にいるんだ?」
「藤井さん? 神奈川の『聖王高校』がどうかしたんですか?」
夏の甲子園が開催されている間は出来るだけ会場に足を運ぶが、これほど衝撃を受けたのは初めてだ。
聖王高校の1年生4番がまさかあの子だとは。
そんな情報どこにも無かったぞ。
「飯村、あの4番をよく見とけよ」
「は? 1年生のあの子ですか?]
「ああ、彼こそ10年の……いや、並ぶ者無しと言われた『神童』神鳥 哲也」
食い入るように試合を見守る俺達の耳に金属音が響いた。
夏の空を切り裂いた彼の打った白球は甲子園の熱に煽られ熱狂する観客席へと消えていった。
今年の夏は彼から目を離すことが無くなりそうだ。
Side out




