第18話 交差する想い
「で、なんで山中がついて来たんだ?」
「まぁ、気にすんなや。
少し話がしたいと思っただけや」
……こっちはあんまし、そんな気分じゃないんだが。
「なんだよ、話って?
勧誘なら断ったはずだ」
「お前に謝ろうと思ってな。
ワイ、北川から話を聞いてん」
「……そうか」
「だから、すまんかったな。
お前の傷も知らず、しつこく勧誘してもうて」
本当にそれを言うためだけについてきたのか?
結構律儀なやつなんだな。
「気にすんな、言わなかった俺が悪いんだよ」
「でも、神谷と野球したかったなぁ」
「俺としても面白くないぞ」
「何言ってんねん、お前とワイがバッテリー組んだら日本一も夢やないと思うで」
「現実見ろよ、良いバッテリーが居て勝てるほど野球は甘くないだろ」
「ワイとお前やから勝てるんやろ?」
「はは、お前はホント面白いやつだよ」
……お前とならいいバッテリーになれたかもな。
Side 斉藤 舞
「へー、沙希ちゃんって野球部のマネやってたんだ」
「うん、まぁね」
なんか元気ないなぁ
それに気のせいか愛が沙希ちゃんのことを敵意を持って見つめている気が……
「北川さんはこうにぃとどうゆう関係なんですか?」
この子は行き成り何言って……
「……別に何も無いよ。
ただのクラスメートそれだけだよ、斉藤 愛さん」
「嘘言わないでください、こうにぃが北川さんの顔を見たとき明らかに表情を変えました。
中学のある時を境に人と関わらなくなった、こうにぃが何も無い人を見てあんな表情をするなんてありえません」
確かに功の表情は明らかに曇ったけど、功が言わないんだからほっとけばいいのに。
でも、功は昔から嫌なことため込むタイプだからなぁ。
「そんな目で私を見ないで、少なくとも私はもう彼のことを敵だとは思っていないわ。
彼はどうだか知らないけどね」
それってどうゆうこと?
以前の沙希ちゃんは功を敵視していたってこと?
あのバカ、まさか沙希ちゃんに手でも出したんじゃ。
「こうにぃに因縁でもあるんですか?」
愛は熱くなりすぎね、功が絡むと周りが見えなくなるんだから。
そろそろ潮時ね。
「愛、もうやめなさい。
功や沙希ちゃんが言わないならそっとしといてあげなさい」
「でも、まいねぇ!」
「それ以上、言うと力ずくで黙らせるわよ」
「……分かっよぉ」
そんなふてくされない。
あたしだって凄く気になるけど。
本人たちに言う気が無いなら仕方ない……でも、今度功に力ずくではかせてみようかな?
Side out
っ!!
なんだこの寒気は!?
あぁぁ、怖いよぉ、俺が何したってんだ?
「どないしたんや神谷?」
「なんでもない、少し寒気がしただけだ」
「ハッハーン、さては斉藤のことやな?」
「半分当たりで半分外れだ」
お前らは知らないからな暴君のようなあいつの性格を。
「ええなぁ、お前にはあんな可愛い幼馴染がおって。
あ、心配すんな、別にワイは斉藤を狙ってへんから。
他の奴は割とおるって噂やけどな」
それはご賢明な判断だな。
そしてその他の者どもよ、ご愁傷様だな。
「じゃあな、ワイこっちやから」
山中はそう言い残し去って行った。
1人になった俺が空を見上げるとそこには夏の夕暮れが広がっていた。
キレイなグラデーションを施した空は高く、そしてどこまでも続いて、自分がいかに小さいか教えてくれる。
――自分は一体何をしているんだろう?――
ふと、そんな感情が湧き上がった。
あの夏を……あの試合を……あの一球をやり直したいとどれだけ思っただろう。
記憶だけでも無くなればいいとどれだけ思っただろう。
でも、俺のしたことは頭の中に事実として残っている。
きっと、俺の夏はもう一度、神鳥と会わなきゃ……始まらないんだ。
夏が過ぎるのは早く、俺の気付いた時には夏の甲子園。
『全国高等学校野球選手権大会』が開幕した。




