第16話 一応だな
「で、なんで愛の試合より3時間も前に家を出なきゃいけないんだ?」
俺の目の前には手を組んで少し不満そうな顔する鬼の姿。
「いいから、黙ってついてきなさい」
眠い……せっかくの休みに9時起きって……
え? そんなに早くないって? いつもなら昼まで寝てるんだよ。
嫌だ~帰りたい~、なんて怖くて口が裂けても言えない。
ちなみに昨夜あったことを愛に見られた件は何やら姉妹で取引して解決したようだ。
……どんな取引があったかなんて怖くて考えたくもない。
Side 斉藤 舞
はぁ、昨日あたしは一体何してたんだろ……
あれは、あれで惜しかったけど……もう忘れよ。
それにしても、このバカ(こう)はホント鈍くて頭が痛くなるわ。
たまには2人で出かけたいってことぐらい察してくれてもいいのに……
「なぁ、どこいくんだよ?」
あんたが居ればこっちはどこでもいいの。
「ちょっと、買い物付き合って」
理由なんて適当でいい、少しでも長く一緒に居ることが出来るなら。
Side out
「へー、お前が服を買いにねぇ」
舞に連れてこられたのは駅前のショッピングモール。
「あのねぇ、あたしだって一応女の子なんだからね」
「一応……だな」
小声で「バカ」と聞こえた気がしたがスルーしよう。
変な突っ込みは己の命を投げ出す結果につながりかねん。
「ねぇ、功はどんな服が好み?」
「服……なんて着なくていいんじゃね?」
「土にかえれ!」
「ぐは!」
ちょっと冗談言っただけなのに右ストレートですか。
お前のパンチ痛いんだよ!
「~~~っ。
ちょっと、ふざけただけだろ!
第一、俺が服のことなんてわかるかよ」
「そうね、功に聞いたあたしが悪かったわ!」
なんで、キレてんだよ……
「お昼、ご馳走様♪」
「どういてしまして……」
なぜ昼は俺の全額持ちだったんだ?
おかげで舞の機嫌は直ったが俺の懐が寂しいことに。
「あ、わりー。
忘れ物したみたいだ、ちょっと待っててくれ」
我としたことが席に携帯を忘れるだと?
あー、恥ずかし。
Side 斉藤 舞
まったく、どこか抜けてるところは相変わらずね。
早くしないと愛の試合始まっちゃう。
「ねぇねぇ、彼女1人?」
「俺たちと遊ばない?」
何このチャラそうな男たちは?
あたしは功を待ってるのに。
「人を待っているので結構です」
「そんなこと言わずにさぁ!」
自分たちの言いなりにならないと分かったら力ずく?
情けない男たちね。
Side out
急がないと舞の機嫌が悪くなる!
急げ俺!
「ぐわぁ!」
入り口から男の悲鳴?
まさか舞の奴!
「あら、もう帰って来たの?」
「お前こそ俺のいない間に男殴り倒してんだ?」
「だってしつこいんだもん」
あーぁ、ご愁傷様だな。
「女だからってなめやがって……ふざけんなぁ!」
男が本気で女(一応)を殴んなよ、情けない。
俺は舞と男の間に入り男の拳を受け止めた。
いとも簡単に止まり、思ったいたより軽いパンチだった。
Side 斉藤 舞
功が出てきちゃったか。
あの男も終わりね。
正直、あたしは功に殴り合いで勝てる気はしない。
ケンカの腕以前に身体能力が違いすぎる。
男と女、そんな問題じゃなく、功の身体能力はハッキリ言って異常。
本人は自覚してないけど功は日本時離れしたバネを持っている。
それを生かしたピッチングが功の武器だったんだけど……今更関係無いか。
「功、もう行きましょ。
愛の試合が始まっちゃう」
「ん? そうだな、じゃあな。
今度からは人を選んで軟派しろよ」
……遠まわしにあたしを選んだから殺されると言ってるのかしら?
あのバカ(こう)は。
Side out




