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夏空  作者:
第1章
13/94

第13話 知って欲しいだけ

少しばかりシリアスです。

 『神鳥 哲也』どうして、北川はその名前を?

 俺にとって忘れたくても忘れることのできない名前。


「なんで……お前がその名前を……?」


 近くで鳴り響くドラムのように心臓の鼓動が耳に響いてうるさい。

 体が、本能が北川の言葉を聞くことを拒否している。


「神鳥 哲也は……」


 やめろ、聞くな。


「彼は……」


 やめろ!


「私の兄なの」














「あ、おかえり」


「んぁ?

なんだ、(おまえか)


 毎度のことながら家に入る時は一言頂きたい。


「デートは楽しかった?」


「なんの話だ?」


「愛があんたがデートするって騒いでたわよ」


 あの爆弾娘め、余計なことを。


「そんないいもんじゃねぇよ」


 知りたくもない、事実を知っちまっただけだ。


「わりぃ、俺、今日はもう寝るわ。

少し疲れたみたいだ」


「そう……じゃあ、また明日」


「ああ」


 舞から逃げるかのように俺は2階の自分の部屋へと入った。

  

 俺はどうすればいい?

 まさか……まさか、北川が。

 あいつの双子の妹だったなんて……


 今更、謝ってすむ問題とかそんなレベルの話じゃない。

 俺は……俺はどこまで行ってもあの試合の呪縛から逃げ出せないのか?




 






 忘れることも出来ない昨年の夏。

 俺は全国大会のマウンドに立っていた。

 相手は優勝候補筆頭の強豪チームで相手の4番打者は今大会№1の強打者。

 

 その打者の名前は『神鳥 哲也』2つ名が『神童』と呼ばれるほどの天才打者。

 しかし、試合は俺たちのチームのリードで終盤を迎えた。


 そして、俺と神鳥との3回目の勝負でその悲劇は起こった。


 ツーストライクと追い込んでからの3球目、俺が投げたのは渾身のストレート。

 もちろん三振を取るつもりで思いっきり投げた。

 試合の興奮で自分の体が思っている以上に限界だと言うことも気づかずに。


 俺のストレートは神鳥の頭部に直撃した。

 鈍い音を立てたヘルメットが吹き飛び、神鳥は地面へと倒れそのまま病院へと運ばれた。

 

 数日後、俺は神鳥が俺の当てたデッドボールが原因で下半身が不自由になり、もう野球が出来ないことを知った。

 周りの人は事故だから気にするなと言ってくれたけど俺の中ではそう簡単には整理は付けれなかった。

 

 1人の将来を奪ったことは必然的に俺を野球をやめる方向へと導いた。



 




「私の兄なの」

 

 昨年の夏の出来事がフラッシュバックしていた俺は次に北川の言葉の信憑せいを疑った。

 

 北川は何を言ってるんだ?

 神鳥と北川が兄妹?

 あり得ない、だいいち名字が違うじゃないか。


「あの試合の後、パパはお兄ちゃんを治せる医者を見つけたと言い残し、彼を連れて家を出て行った。

ママと私は帰りも待ったけど、パパがママを捨てたことが数ヵ月後、送られてきた手紙でハッキリした。

両親はそのまま離婚した、北川の名前はママの名字。

去年までの私の名前は、神鳥 沙希」


 うっうそだろ……こんなことってあり得るのかよ。



Side 北川 沙希


 神谷君は動揺して声も出ないみたい。

 そうだよね、まさか私が『神鳥 哲也』の妹だなんて誰も分からないよ。


「私は神谷君のこと憎んでる」


 あれ? 私、何言ってるの?


「あなたがお兄ちゃんにあんなことしなかったら……」


 違う、そんなことは今言いたいことじゃない。


「私の家族は……」


 お願いもう止めて! 私は神谷君に事実を知ってもらいたいだけ!

 彼を責める気なんてもうないの!


「バラバラにならなくて済んだのに!」


 嫌……違う!

 それは神谷君に会うまでの私の気持ち。

 今は……そんなこと思ってない!


「ぁ……ぅ……」


 どうして、なんで急に上手くしゃべれないの!?

 早く言葉を出さないと!

 私は彼を傷つけたままになってしまう!


「北川……俺……」


 お願いそんな悲しい顔しないで。

 私は君のそんな悲しい顔見たくない。


「……ごめんなさい!」


 気がつくと私は神谷君を置いて1人家へと走り出していた。

 頬を伝う熱いものに気付かずに。


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