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夏空  作者:
第1章
11/94

第11話 懐かしき場所


 試合は進んで5回裏相手の攻撃中でスコアは7対5。

 草野球らしい、エラーも多発した割には思ったより点は入らなかった。

 ちなみに今はツーアウト、二・三塁で我がチーム(うち)のピンチ。

 打席には相手チームの4番打者。



カキーン!

 

 痛烈な当たりが一・二塁間を瞬く間に破りライトを守る俺の元へ。


「ライト! バックホーム!!」


 キャッチャーを守る山中の声が聞こえた時には俺はすでに捕球体勢に入っていた。

 腰を落とし、グローブをつけた左手でボールつかみ、素早く右に持ち替え送球の体勢へ。


 三塁ランナーはすでにホームを踏んでいたが二塁ランナーはホームから3mくらいの所を走っていた。

 その先で山中が大声でボールを呼んでいた。


 ーこれなら間に合うー


 山中の待つホームへ思いっきり腕を振った。

 ほぼ1年ぶりに全力でボールを投げた。

 俺の投げたボールはノーバウンドでホームで待つ山中のミットに収まった。


「アウト!!」


 審判の声を聞いて「ふー」と息を吐いて送球がうまくいったことに安心しながらベンチに帰ると。

 山中に「さすがやな」と嬉しそうに話かけてきた。

 その他の人たちも「すげぇな」とか口々に俺をほめてくれた。


 ……久しぶりだなこの感じ。

 中学時代は結構いいチームメートに恵まれてた。

 支えあい・競い合って日々を過ごした。

 野球を忘れたいと思うと一方でそいつらのことも忘れたいと思っていたのかもしれない。

 あいつら、元気にしてるかなぁ。


「おい……おい!

神谷! 聞いとんか!?」


「あぁ?

わりぃ、聞いてなかった」


 少し昔に浸っていた俺の脳は山中の声で引き戻された。


「ったく。

次の回、投げてくれ。

ピッチャーの人が肘が痛いそうや。

2回ぐらいならいけるやろ?」

 

 ピッチャーか……

 試合前だったら絶対断っていたけど、今は何故かそんな気はしない。

 中学時代を思い出したからかな?


「ああ、分かった。

ちゃんと捕ってくれよ」


「まかしとけ!

ほな、いくで!」


 嬉しそうにはしゃぎやがって。

 いや、嬉しいのは俺も同じか。


 マウンドに立てば心臓の鼓動が大きくなる。

 全身の血が沸騰したかのように熱くなっていく。

 『俺は根っこから投手なんだ』そのことを自覚してしまう。

 こんなどうしようもない俺なのに……


「よっしゃ! 来い!」


 そう言いながら、ミットを力強く山中は構えた。

 その顔はどこか嬉しそうで充実感が溢れていた。

 思わず自分の口元が緩んだのことに俺は気づかなかった。

 だって、俺の頭の中にはもう山中の構えるミットへ最高のボールを投げることしか頭に無かったから。


 さぁ……いってみようか。















「くそ! この時間じゃ試合終了間際じゃねぇか!」


 藤井はそう吐き捨てると車を降りた。

 ただでさえ、残業で試合開始には遅れたと言うのに加えて道に迷った。

 月に一回程度の草野球、楽しみにしてるがゆえの焦り。


 しかし、それは試合を見て、正確にはマウンドに居る投手を見て消えた。



Side 藤井 高志


 あの荒々しいフォームに威力のあるストレート。

 まさか……あの投手か!?


 忘れもしない、去年の夏。

 毎年見に行っている全日本中学野球選手権大会。

 この中から後に甲子園で怪物と呼ばれる選手が生まれることも少なくない。

 しかし、今年は1人の選手に俺も含めスタンドに居る監督・野球関係者も視線が釘付けだった。



 『神童』と呼ばれる天才打者。

 後に日本の高校野球界を牽引すると誰もが信じて疑わなかった。

 しかし、その天才打者を圧倒する謎の無名投手。


 大会前は評判の低いチームが勝ちあがってきたのも一応は納得のいく投手だった。

 スタンドで見ていた俺以外の奴らは「打者のほうの調子が悪いだけだ」と口をそろえて言っている。


 しかし、俺は荒々しいフォームでばらつきはあるが

 抜群の球威をもったボールを投げるその投手の未完成で荒削りな才能に惚れてしまった。


 あの事故もきっと乗り越えてくれると信じて疑わなかった。

 後にその投手が全ての高校からの推薦を蹴り行方をくらました時はもう見れないと思ったが……


 まさか、ここで再び見れるとは。


 ーバシィィィ!


 最後もストレートで試合を終わらしてしまったか。

 おっと、こんなチャンスは滅多にない。

 今のうちに色々聞いておかないとな。


Side out


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