第10話 俺のお気に入りだよ
そろそろ野球タグを発動させます。
「えーでは、これより試合を始めます」
「「お願いします!!」」
……今の状況を説明しよう。
俺は草野球に参加中、つーか今試合が始まった。
ここに至るまでを今日の朝から順を追って説明しよう。
10時に北川との約束通り駅前に行った。
↓
何故か山中が居て、「ついて来い」と言われ、連行された。
↓
気づけばボロい野球場に着いた。
↓
強制という名の草野球参戦。
……俺の意思は?
「おい、山中。
なんで俺が参加しなきゃいけないんだ?」
「さっきも言ったやろ。
1人、遅れてくるまでやって」
「だから、神谷君よろしくね」
なんでも北川は野球部のマネージャーらしい。
それで山中と繋がりがあったのか。
「神谷が投げたら試合にならんからな。
外野で勘弁してや」
「……エラーしても怒るなよ」
「楽しい草野球しようや」
はぁ、ピッチャーしないならギリギリOKか。
今すぐ逃げ出したいが北川に笑顔で「頑張って」とか言われたらなぁ。
適当に頑張りますか。
・
・
・
・
・
・
・
・
「神谷ぁ!
一本頼むでぇ!!」
「神谷君ファイト!」
ノーアウト ランナー二・三塁。
打席には9番を希望したのに『若いから』を理由に3番になった俺。
ネクストには4番の山中。
相手ピッチャーは30代ぐらいの人でボールの速さは100kmぐらい。
速さも問題ないし、右投げのピッチャーのボールは左打ちの俺には見えやすい。
その初球、甘く入った外寄りのストレートにバットを振り切った。
痛烈金属音と手にボールの重さを残して打球は左中間へ抜けて行った。
先制タイムリーツーベース、我ながらなかなかの当たりだった。
神戸にあるとあるスポーツ雑誌を出版する事務所。
休日のオフィスに2つの影。
パソコンに向かう男が画面に向かって口を開いた。
「ふぁ~、だりぃ~」
「藤井さん!
早く仕事してください!
雑誌の締め切りもう過ぎてるんですよ!」
「まぁ、そう急かすなよ、飯村。
それより、昨日の『阪神対広島』見たか?
阪神惜しかったなぁ」
飯村と呼ばれた女性。
長い腰まである髪に眼鏡の奥にある少し釣り目の瞳は
相手に気が強い印象を与えていた。
「はいはい、分かりましたから。
早く仕事してください!」
まだ新人の彼女にとって雑誌の締め切りを遅れるなんて考えられないこと。
仕事がはかどっていないにも関わらず、のんきに手を動かす自分の上司に気も立っていた。
そして、その上司藤井と呼ばれた男は無精ひげを生やし。
体からは煙草の匂いが立ち込めている。
「にしてもよ。
こうやって、今年の高校野球の記事作ってても今年の1年で目玉になりそうな選手はいねぇよ」
「それは前も聞きました。
そう言えば『神童』と呼ばれた子はどこに進学したんですか?」
「さぁな、去年の硬式の全中に出場した全選手中、進学校が分からないのは2人。
『神童』はその内の1人だ」
「もう1人は?」
「10年に1人の逸材と言われた『神童』と唯一互角の勝負を演じた、無名選手だ。
よし! 残業終わり!
じゃあ、飯村後は頼んだ、俺は草野球行ってくるから」
「え!? まだその無名選手の話終わってませんよ!」
「俺のお気に入りだよ」
藤井は不敵な笑顔を残しオフィスを出て行った。
作者は関西に住んでいるため阪神ファンです。
野次を飛ばすような過激派ではないでのご了承ください。




