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こんにちは、私が噂の美少女です。兄は居ません  作者: 月 朱莉(燈あかり灯)


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2/10

その横通ります






劇場を後にした私は一般人に扮した護衛が等間隔で置かれている周囲を見渡して、ぱっと顔を明るくした。この匂いは串焼きだ!!


「あれ、食べたい。」

「買って参ります。」


じゅるりと垂れてしまいそうな涎を我慢してお願いすると、美人さんな従者の一人が颯爽と動いてくれた。

その間に私に声を掛けようとした不審者が数名、ひっそりと陰で闇討ちされていたが、いつもの事なので気にしなかった。


クラシカルなメイド服のスカートの裾を揺らしながら戻って来た従者の手に抱えられた紙袋には、優に十本を越える串焼きが入っていた。流石は分かっている。

きっと夕食にも串焼きが出て来る事を期待しながらも、たぶん、買われた半分は彼女の胃袋に入るのだろうとこっそりと笑いながらも微笑み掛けた。


「ありがとうサフィラ。」

「いえ、この位。お嬢様の為なら何でも致しますとも。」


食べながら歩くのは苦手なので、適当に座る場所を見つけて、二人で仲良く串焼きを味わっていた。ああこのジューシーでいてあっさりした味付けともっちりとした肉の弾力。

一時期、これだけで生きていけると有言実行した所、首根っこを掴まれて串焼きを三ヶ月禁止にされた事は未だに根に持っていた。


まあ私が悪いのだが。一日三食の串焼きは、味付けを変えたとしても栄養素が偏り過ぎて不健康だって知っていたし。それが私に適用されるかは兎も角として、周りが心配するのなら配慮しなくは無かった。やれやれ。


どうせ明日になったら、皇太子に付き合わされて、庭園での立食形式のパーティーと、何で自分が居るのかも分からない交渉の場に引き摺り出されて同席させられるのだろう。未来はもう決まっている。帰りたい早く。無理だけど。


串焼きの次はスープ屋さんと氷菓子を頼むと、皆へのお土産だから自分で持ちたいと言い張った私が紙袋いっぱいに詰め込まれた肉餡が美味しい饅頭を抱えて待っていた最中、ふと、見つけてしまった。


キラキラと光る青銀色の髪。


「悪魔じゃん。」


思わず、言葉が乱れた私は、フードをより深く被り直すと、息を殺す事に専念した。

そうしている内に、いつの間にかあの髪色を持つ人物は、少なくとも視界の中からは居なくなっていた。


まだ近くに居るのではないかと、キョロキョロする勇気も無くフードを最後の望みの様に強く掴みながら、まんじりと突っ立っていると、「お嬢様」と言う声が聞こえた。


一瞬、ビクリ、と、肩を揺らしてしまったが、直ぐに、パッと顔を上げた。

従者に手を振った少女の意識は、此方に向かって来る女性の腕の中にある物へと注意が逸れていた。



翌朝、日が昇るよりも前から目が覚めた私は、ふらふらと城の中を彷徨っていた。

嫌だと言ったのに宿を引き払われたからだ。


昨日、迎えに来た皇太子に「お前も泊まりなさい」と宛てがわれた賓客室に放り込まれたのだ。小脇に抱えて運び込まれる事の雑さと言ったら。全く。

出迎えと言うよりも宿の椅子に座って腕と足を組み待っていた彼の姿は、待ち伏せを堂々とする不遜な男に他ならなかった。


尻尾にも思える黒い髪を揺らしながら、まだ使用人も起き出していないらしい城の中をあっちへこっちへと歩き回る。


人の気配がすると方向転換をする所為で、見回りや配置された近衛達に見られて部屋に戻される事も無く、白い寝衣のままでぼんやりとした顔の美少女が歩いている様子は、日が差していない時間帯もあって幽霊とも勘違いされかねない儚さがあった。


そんな事も知らずに、段々と目が冴えて来ていた私は、人の気配がし出した事に気が付いた。使用人達が起き出したらしい。


ふわぁ、と欠伸を漏らしながら、そろそろ戻るかと考えた所で、近道をするべく自然と足は避けていた方向へと向かってしまう。眠かったのだ、と、後で言い訳をすればこんなものだが。

あともう数分もすれば辿り着くと言った所で、ふと、前の方を歩いていた人影に立ち止まる。


白くて質の良い生地で作られた、ピンクのダイヤを目に縫い付けられた可愛らしいテディベア。

それを片手に持ち、引き摺る様にしながら進む姿に、瞬きを繰り返す。幻なのかなと思ったが、目を擦ってみても、その存在は居なくならない。

あんなふわふわとした素材の白いリボンとフリルいっぱいのドレスが、後ろのシルエットだけでも凄まじく似合う逸材を私は知らない。そして、自分にそれが似合わないからこそ、憧れ混じりに熱い目線を向けてしまう。


しかし、凝視してしまったからなのか、ピク、と頭を揺らして立ち止まった彼女に、息が詰まる。慌てても、ここは一本道で隠れられる影も無く、逃げ場が無い。


振り向いたその小さな人影は、死刑宣告を待つ様な心地で胸の前で手を組んでいた私を振り返った。

なんと、髪や遠目にも分かる長い睫毛だけならず、瞳まで白いその少女は、こてん、と首を傾げた後、どうしてか此方に近付いて来た。そうして、私の全貌が捉えられたのか、ひくりと頬を動かした途端に、前へと出そうとしていた右足を凄まじい勢いで引っ込めた。いや、後ろに置いた。


「鬼。」


ぽそ、とその少女が呟いた。


え。うん?


鬼って何?オニって鬼?他のオニ違いじゃなくて?


いや、それよりも。思わず、口元を手で覆いながら、玉の様に光る美しさに溢れ出る感謝がつらつらと心の中で垂れ流しになっていた。


明らかに私よりも小さくて、華奢で、雪の花が似合いそうなか弱くて目を離したら今にも消え去ってしまいそうな。そんな錯覚まで起こしそうな美少女。


またタイプの違う美少女が来たと、久しく帰っていない祖国に置いて来たいつもプンスカしている金髪めちゃゴツイ縦巻きロールの美少女を遠い目をしながらも、思い出していた。


うん。帰りたくないな。まだ当分はあのブラコンの餌食になって時間を食われたくはない。

だが、何故だろう。私とも金髪とも系統は違うこの美少女から、不思議と、あの金髪美少女と似た様な面倒臭そうな人間の気配がする。気の所為か?そうかもね。寝不足だし。


段々と浮かれていたのが、落ち着いて来た私は、うん、だから鬼って何?と、最初に戻った。


表情の乏しい様に見える顔だが、しかし、その瞳が言っていた。


ーーどっか行け、と。


「ひぇ。でも、ごめんなさい遠回りはしたくないのでその横通ります退いて下さいな〜。」


ヒュッ、と己の喉から音が鳴った。だが、それはそれとして、と、素直なまでに身勝手な様でいて、実に欲望に忠実なしょぼしょぼとした目をした私は、黒髪を靡かせてゆったりと走り出した。


無論、それを見た白いふわふわ系美少女は、ギョッとすると、一歩、二歩と後退った。

あはは。逃げてごらんなさーい。いや本当にごめんなさい。


「は。え、無理。」

「ごめんごめんごめんごめん。」


腰でも抜けたのか、ぺたり、と尻もちをつきながらも、私が寄った壁とは別の方に、必死に手で動こうとしている姿に、眉が下がる。


「いやそれ以上近付かないで。無理。」


流石に、ここまで嫌われているとは思わな……いや、えぇ、いやでもここで辞めるとか逆に虐めにならないか?

止まらなくなった私は、呪文の様に謝罪を繰り返しながら、壁に背中を貼り付けつつ、横歩きでシャカシャカと一秒と経たずに彼女の前を通過すると、ガタガタ震えていたその子を見ない様にしつつ、再び、走り出した。


あーもう。だから、城に泊まりたくなかったのに。


私が望もうとも望まなかろうとも、勘違いだったりデマに流されていたり明確な悪意だったり逆に行き過ぎた愛情表現だったりで何かしらのアクションを仕掛けて来る人達に度々出会う場所。それが、私にとっての権力者の住む場所だった。


お願いだから関わらないで下さいと言ってもその台詞を無視されるし、逃げようとしても、奴隷に落ちれる書類を持って来てペンを持たされてサインさせられそうになるしで……。あの皇太子に逆らうのは諦めてはいるのだが、この問題に関してだけは誰が相手でも譲りたくない案件だった。


だって、いきなり殺されそうになること∞回のリミットが外れた私としては、殺される前に逃げろの選択肢しか取れないのだから。


筋肉の付きにくい体質、能天気過ぎる性格、突発的な気まぐれを起こす所、勉強が点で駄目な肉体派(?)、と言う、単なる非力な子供でしかなく、将来的にも夢はお嫁さん辺りの選択肢があるだけマシな自覚はしっかりとある。




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