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こんにちは、私が噂の美少女です。兄は居ません  作者: 月 朱莉(燈あかり灯)


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私、迷子なんです



黒い髪に金の瞳の美少女。誰もが認める、とある国の皇太子であるそのアウレリオが連れ歩き、そのついでに、妹とすら呼ぶ自分自身の事を、正直、一番知らないのは私だと思っていた。


外交も兼ねた友好国同士のパフォーマンスをしに来た皇太子に連れられてやって来た国の劇場で、キョロリと左右をそれとなく見回してみる。


(迷子になってしまった……。)


パールの付いた靴の爪先を見つめながら、自然と下がってしまう眉を隠すべく、後ろに手を組んで少し俯く。


そもそも、子どもが一人という時点で親切な大人達が見逃す訳も無いのだが。

しかし、この時だけは例外が生じていた。初めは、少女に話しかけようとしていた紳士淑女達は、心細そうにしている庇護対象なんかよりももっと目が吸い込まれてしまうこの世のものとは思えない美貌の存在の登場に、息をする事さえ忘れて棒立ちになっていた。


やけに周りが静かだった。何だろうと思って顔を上げると、丁度、カツン、と音を立てて目の前で止まった革靴の男の足が見えた所だった。


何だろう、顔を上げてはいけない気がするーー


そう思いながらも、白百合に例えられる銀に艶めく白い睫毛を震わせた美少女らしき動作で彼と目が合ってしまった私は、あまりにも高い背に首が疲れて、顔の角度が元に戻っていた。


(何か凄いものを見た気がする……様な?)


こてん、と首を傾げたものの、もう上を見る覚悟は無い。こうなったらサービスカウンターにでも声を掛けに行くかと、とんでもない美を見た衝撃で冷静になった私が一歩を踏み出すよりも早く、彼が言葉を発する方が先だった。


「お嬢ちゃん、保護者は何方に居るのかな?」


周囲の人間達は、一瞬、音と言うものを忘れていた。何故なら、男の声があまりにも聞くに心地良く忘れるには強烈な、心の奥底をひっくり返す美声だったからである。

美しい悪魔が居るとしたら、こんな声をしているのかもしれない、と、ほう、と頬に手を添えて溜め息を吐いたご婦人は思ったそうな。


だが、普段からあまり外にも出ず、皇太子に付き合わされて勝手に決められた予定で外出する以外は極めて内向的な少女にとっては、何となくお腹に響く声だなぁ、目覚ましに丁度良さそうと言う感想しか齎さなかった。


そして、何よりも、この美少女にはとっておきの得意技があった。


致し方なく、とは思えない素早さで再び首を上へと回す事になった少女の、にこり、と笑んだ顔には、白百合の姫の通称を知らない者達でも、一瞬、男の事を忘れる程の魅力が溢れていた。だが、次に放たれた一言に、忽ちにその場は凍り付いた。


「私、迷子なんです。でも、知らないおじさんには付いて行かない様に言い含められておりますの。所で、退いて下さらない?邪魔です。」


カッチコチに凍り付いたのだ。まさか、おじさん呼ばわりするだろうとは誰一人思っていなかったらしい周囲の視線を独り占めしている事を知り、野次馬め、と呆れつつも、同意していた。同じ立場なら私もやる。


再度、さっさと退けと、手振りで示しながらも、退かないならと此方が動こうとした所で影が無くなり視界が広くなった。


目の前に居るだけで圧の強い人だった。心なしか詰めていた息を薄く吐き出しつつ、それはそれとして、声を掛けた理由は厚意から来るものなのだ。内心がどうあったとしても傍目からするとそう。

心配してくれた礼を込めて軽いカーテシーをしてみせた後、早く戻りたくてスタスタと歩く。


私には特技がある。一つ目は空気を読まない事、二つ目が、フラグを折る事、三つ目が“私にとっての”幸運に愛されている事だった。


ーー固まった男が再起動する前に、肩を竦めると、彼から逃げ延びたお姫様として認識していた周囲の人々が自然と垣が割れる様にして退いてくれた事も知らずに颯爽と真っ直ぐに進み、近くのサービスカウンターに話し掛けた私は、表面上は飄々としていても此方をギラついた眼差しで見つめていた魔王みたいな魔性の男なんて知らずに、案内係のお姉さんに手を引かれてボックス席に戻っていった。

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