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境界町の茶屋で、立ち止まる ― 何者でもなくていい時間が、ここにはある ―  作者: 森永あおば


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最終話 境界町の茶屋で、立ち止まる

 朝、茶屋は開いていなかった。


 戸には、小さな札が下がっている。


 ――本日は、休みます。


 それだけだ。

 理由も、行き先も、書かれていない。


 境界町の朝は、変わらず静かだった。

 市場は開き、橋を渡る足音もある。

 時計塔の針は、相変わらず止まっている。


 アルトは、茶屋の前で足を止めた。


「……そうか」


 札を見て、少しだけ笑う。


「休む日も、いるよな」


 それだけ言って、歩き出す。


 茶屋の中には、誰もいない。


 炉の火は落とされ、

 椅子は、いつも通りの位置にある。


 炉の横の席も、

 客の席も、

 空いたままだ。


 だが、冷えた感じはしなかった。


 昼、別の来訪者が町に入る。


 戸口で立ち止まり、

 札を見て、首を傾げる。


「……休み、か」


 それでも、その人は中に入る。

 誰に言われるでもなく、椅子に座る。


 しばらくして、湯を沸かす音がした。


 誰かが、火を入れたのだ。


 その音は、特別ではない。

 ただの日常の音だった。


 夕方、風が吹く。


 町の外れを、一人の人影が歩いている。


 それが町の外なのか、

 まだ内側なのかは、分からない。


 その人は、立ち止まり、

 一度だけ、振り返る。


 境界町は、そこにあった。


 誰も急かさず、

 誰も縛らず、

 誰かの途中に、ただ在る町。


 人影は、少しだけ息を吸い、

 また歩き出す。


 立ち止まることを知った足取りで。


 境界町は、

 今日も終わらない。


 そして、

 始まりもしない。


 ただ、

 誰かが立ち止まる場所として、

 静かに、そこに在り続ける。


 ――それで、十分だった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


この物語には、大きな事件も、はっきりした答えもありません。

誰かが世界を救うことも、劇的に変わることもなく、

境界町は、最後まで境界町のままでした。


それは、この物語が

「前に進むこと」よりも

「立ち止まること」に目を向けたかったからです。


人生には、どうしても立ち止まってしまう瞬間があります。

走れなくなったとき。

役目を終えたとき。

あるいは、何を目指していたのか分からなくなったとき。


そんなとき、

「止まってはいけない」

「次へ行かなければならない」

そう言われることが、あまりにも多い気がしました。


境界町は、

そうした声から少しだけ距離を置ける場所として描いています。


急がなくていい。

何者かにならなくてもいい。

答えを出さなくてもいい。


それでも、人はいつか、自分で選びます。

立ち上がるかもしれないし、

座ったままかもしれないし、

あるいは、別の場所へ歩いていくかもしれない。


主人公が最後にどこへ行ったのか。

そもそも、行ったのかどうか。


それは、あえて書きませんでした。


この物語を読み終えたあなた自身が、

今どこに立っているのか、

立ち止まっているのか、

それとも歩き出そうとしているのか。


その答えは、あなたの中にだけあれば十分だと思ったからです。


もし、

少し疲れた日や、

立ち止まることに後ろめたさを感じた日に、

ふとこの町のことを思い出してもらえたら。


境界町は、

また静かに、そこに在るでしょう。


ぬるめのお茶を用意して。


——ありがとうございました。

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