9.A gift from Marigold
学校が休みの日。
私は特にやる事も無いので、部屋でごろごろだらついていた。
「おねーちゃーん。スマホ鳴ってるよ~。」
「動くのがめんどくさいから持って来て~。」
「え~。やだよぅ。投げていい?」
「ダメに決まってるでしょ。今行くから置いといて。」
冗談だとは思うが、私のスマホを投げようと振りかぶっている妹を制止する。高校生になって親に買ってもらったスマホだが、自分の不注意で壊した物を新しく買ってくれる保証は一切無い。そんなリスクを背負う意味など無いので、めんどくさいけれど立ち上がり、妹の元へ。見てみると、唯からのメッセージアプリの着信だった。
「誰?唯さん?」
「そうだよ。」
「私もおしゃべりしたい!代わって!」
「ダメ。そもそも電話の着信じゃないからね?」
先程妹の所にあったスマホを回収し、私が元いた場所へ戻って再びごろごろ。着信相手が唯だと分かったからなのか、私に付いてくる妹。……こっちに来るならスマホ持って来てくれても良かったじゃん。
私がいじるスマホを横から覗く妹。
「唯さんなんて?」
書いてある内容は意外な事だった。
今から一緒にお出掛けしませんか?
私達はいつも出掛ける時は事前に予定を立てていた。遅くても前の日に連絡をして、だったので今日みたいないきなり、というのは初めてだった。
私に今日の予定は無いのでいいよ、と返信。相変わらず早い返信の唯と時間と場所を決める。
「おねーちゃん今から唯さんと遊びに行くの?」
「うん。今決まったの。」
「私も行っていい?」
「ダメ。あんたはお留守番してなさい。」
唯に会えるチャンスが1つ潰れたかわいそうな妹の頭を撫でる振りをしながら体を起こすための土台にする。ぐぇぇという鳴き声が聞こえたが、まぁ気にする事は無いだろう。それよりも、今のだるだるな顔で唯に会うのはよろしくない。しっかりと体に起きなさい、って信号を出してシャキッとしないと!
学校が休みの日。
私は特にやる事も無いので、部屋でゲームをしていた。
しかし、いつもと違い全然身が入らず悪い成績ばかり出していた。
こんな状態でやっても意味が無いし、最悪変な癖がついて今後に影響してしまう。だったらやらない方がいい。コントローラーを置いて、ベッドに倒れこむ。
この状況、どうやったらいつも通りに戻るだろうか。多分ほっておけばいつの間にか戻っているんだろうけど、そうするとそのほっておいてる時間が勿体ない。
たった今暇になったのでとりあえず考えフリをしてみる。そんな都合いい事は当然見つかるわけ無いよね……と思いながらぼけーっと天井を見つめる。ん?いや、たった1つだけあるじゃないか。
「奏子に会えば多分復活する……。」
しかし今日は会う約束をしていない。私達はいつも出掛ける時は事前に約束をしているので、もし今いきなり遊びに行こう!なんて言ったら驚くのではないだろうか。
「うーん。なんか奏子の事考えてたら会いたくなっちゃった。思い切って誘ってみようかな。」
今までが事前に約束していただけで、いきなり遊びに誘う事を禁止していたわけでは無い。むしろ今誘ってOKが貰えたら、今後遊びに誘うレパートリーが増えるし、良い事づくめなんじゃないかな?
「よし、誘ってみよう!」
スマホを持って来て奏子にメッセージアプリで
今から一緒にお出掛けしませんか?
と打ち、送信。数分も経たずにいいよとの返信。そのまま時間と場所を決める。
今の少しした会話だけで今日の予定が埋まる。となると、今のぼけーっとした顔で奏子に会うのはよろしくない。
やる気の出ていなかった体に起きろ!って号令を出し、お出かけの準備を始める。
先程の会話が昼前のお互い昼食もまだという時間だったので、待ち合わせ場所は近くの喫茶店にした。私達の集合はいつも約束の時間の30分も前に着いて、お互いが相手を待たせないようにする戦いの様なものなのだが、流石に喫茶店で注文もせずに1人で待つのはお店に悪いので、時間ぴったりに集合と決めた。しかし、集合時間の5分前にお店の前でばったりと会った私達は、お互いに笑いながら入店するのだった。
「おはよ。やっぱり私達約束守らないよね。」
「おはよう。5分位ならいいかなって思って。」
「私もそんな感じ。何頼む?私はドリンクとのセットで軽くでいいかな。」
「私も同じのにする。多分また出掛けた先で買い食いするだろうし。」
「お?行きたい場所の希望アリ?」
「いや、全然何も考えてない。いつも通りならそうかなって思って。」
お昼を食べながらこの後どこに行くかを決める。案が無ければいつも通り近くの大型のショッピングモールへ行くだろう。
「私達もうすぐ会って1年だよね?」
「そうだね。」
「なんかすっごく早かった気がする。」
「……少し入学の時の話していい?」
「うん。」
「私ね、小学校中学校ってあまり友達いなかったんだ。それで、高校ではしっかり友達作りたいって思って初日から積極的に行こうって思ってたの。」
「なるほど。それであの自己紹介だったのか。」
「もう!からかわないでよ!」
「ごめんごめん。でもあれはあれで可愛かったよ?」
「えぇと……。ありがとう?でもそのお陰で奏子が私に話しかけてくれたわけだし、結果的には成功だったかも。沢山作るって事は出来なかったけど、その代わり親友が1人で来た。これはすごく嬉しい事だなって思って。でも奏子は逆でしょう?ソフトボールをやってたから自分のクラス外にも友達いっぱいいただろうし。クラス内でも人気者だったんじゃないの?」
「そうだね。唯の言う通り友達はいっぱいいたかも。部活のお陰で先輩や後輩もいたし。ただ、例えるなら広く浅くで、その人達と私には何か繋がりがあって、それが無くなったとたん関係が無くなったのも事実。唯みたいな今後もずっと仲良しだろうなっていう出会いは初めてなの。だから、今すっごく楽しい。ありがとうね唯。」
「どういたしまして。私からもありがとうね。」
「唯は小さい頃部活やってたの?」
「何もやってないよ。」
「そうなんだ。そういえば私達って小さい頃の話あんまりしてないよね?折角だし。私は近くの○○中学。家から近いからって理由で今の高校を選んだんだけど、場所分かるよね?」
「ごめん。全然分かんない。」
「え?まじ?高校から結構近いんだけど。唯はどこの中学校だったの?」
「私は秋田の中学校だよ。高校入学前に引っ越してきたんだけど、言ってなかったっけ?」
「初耳なんですけど!!というか唯に会ってから一番の驚きなんですけど!高校で始めましてだったのは別の中学だからだと思ってたよ。」
「あれ?そうだっけか?あー……確かに。自己紹介の時に他県からの入学って思われるのが嫌で、言うの躊躇ったままだったかも。ごめん。」
「いやいや大丈夫だよ。そうなんだ。秋田ねぇ~。」
「奏子秋田行った事あるの?私住んでたから、もしかしたら分かるかも。」
「行った事ないよ。唯のその可愛い顔は秋田由来なんだな~って思って。ほら、秋田美人って言葉あるじゃない?」
「もう!からかわないでって!」
「あははは。でも可愛いのは事実でしょ?」
「……。」
「そこは堂々と肯定していいのよ?それにしても秋田かぁ。」
「まだ、何かあるの?」
「幼稚園の頃ね、1人すっごい仲の良い友達がいたの。幼稚園卒業と同時に秋田に引っ越したって聞いて、悲しかった思い出があるの。」
「へぇ~。それは悲しいね。」
「そうなのよ。小学校に入っても一緒に遊ぼうねって約束もしてたから、結構落ち込んでた記憶。」
ここでふと、引っかかる事があるなーと気付く。私は小さい頃の事は詳しく覚えてないのだが、幼稚園の頃仲の良かった友達が1人いて、小学生になる前に引越しをしてその友達と別れた事位は覚えてる。当時どこに住んでいたかは知らない。幼稚園の頃の私はそんな事興味が無かったからだ。でも今静岡に住んでいるのだから、可能性は0ではないんじゃないかな。
「どうしたの唯。いきなり黙り込んで?」
「ねぇ奏子その友達の名前って覚えてる?」
「名前?その娘とはお互いあだ名で呼びあっていたから本名は覚えてないかも。でもね、そのあだ名はしっかり覚えてるよ。その娘のあだ名は……うさちゃん!」
思わずバーン!と両手で机を叩いて立ち上がってしまった。
一気に跳ね上がる心拍数。まるで、長年解明されていなかった謎が、突然の偶然で一気に解明された感覚。
幸いな事に机の上に乗っていた食器類はガシャン!とその場で音を立てただけで、割ってしまう事は無かったのだが、机を叩く音と2人分の食器が立てる音はとても大きく、一瞬にして店内一の注目の的になってしまう。ハッと我に返り、迷惑を掛けてしまったお客さんと、何事!?と顔を出してきた店員さんに謝って着席する。
「ちょっと唯!いきなりどうしたの?」
「ごめん。でもそのうさちゃんって多分、私。」
「……え?」
「奏子ってもしかして、すずちゃん?」
「え?……うん。そう、だよ。」
全てが繋がった気がした。
……
まだ私がこの世界なんて家族と、後は出掛ける先のスーパー位しか無いと思っていた頃。
母にあんたの場合、小学生へ上がる前に入っておいた方がいいと、手を引っ張られながら連れていかれた先が幼稚園だった。
私と同じ位の年齢の人がいっぱいいて、こんな世界が近くにあったんだ、とびっくりした事は覚えているが、しょせん驚いただけにすぎない。私は嬉しいどころか嫌だと思っていた。
今になって考えると、出不精な私がいきなり小学校に放り込まれても、友達が出来ずにずっとひとりぼっちで過ごしていく事になるだろうから、そうならないための訓練の一環だったのではないかなと思う。
しかし、待っていた未来はこれらのずっと斜め上を行く出来事だった。
入園してから家へ帰ると、今日はどうだったの?という質問が毎日の事となった。
当然私はその日の幼稚園での出来事を正直に話すのだが、母にとっては残念な内容だったと思う。
そんな日が何日か過ぎた頃、私にとって大きな転機が訪れる。
そう。彼女との出会いだ。
初めて目に入った時、仲良くなれそうだとかなれないだとか、話が合うだとか合わないだとか、そんな事を全て通り越しての根拠の無い一方的な憧れ。
幼少期によくある同じ位の年の娘への一目惚れだったのだと思う。その日は1日中彼女を追いかけて後ろから眺めていた。
その日は母に友達が出来た!と報告した。この言葉を聞いた母は嬉しそうだったのだが、私が話を進めるにつれ、だんだんと表情が曇っていく。
どうやら私の考えていた友達は、少しズレていた様で、母の言う通りあの娘と話してもいないし遊んでもいない。仲良くなって一緒に遊びたいんでしょ?という母の問いに大きく頷いた私は、次の日あの娘に話しかけてみる事にした。
次の日。
早速私は彼女の所へ。昨日は気付かなかったが、彼女の周りには人が多く、人気者なのだと知った。
だが私は、そんな事は気にもせず、彼女の元へ一直線に行き、後ろからぎゅっと手を握った。
「私と2人で一緒に遊ぼ?」
「うお!?びっくりしたー。遊ぶのはいいけど、びっくりさせないでね。」
私達の初めての会話。
人気者の彼女の周りにいた人は、私が彼女を独り占めしようとした事が許せなかったのか止めに入る。
しかし、話した事で友達になったと思い込んでいた私は、その取り巻きをひと睨み。彼女は私の物だぞ、と。
私に驚いたのか、それ以上の追撃は無い事を確認すると、そのまま彼女の手を引っ張って別の所へ連れて行く。このとき彼女は頭に?を浮かべながら私とさっきまで遊んでいた子供達を交互に見ていたが、素直に私に付いて来てくれた。
「あなた名前はなんていうの?」
「……うさみゆい。」
「うさ、み?じゃあうさちゃんだね!うさぎさんみたいで可愛いね!」
とても可愛い名前を彼女に付けてもらった。
「私の名前はすずちゃん。すずちゃんって呼んでね。」
「うん。分かった。」
それ以降私は、幼稚園にいる間はずっとすずちゃんと一緒にいた。最初の方こそ取り巻き達がすずちゃんを取り返そうと攻めてきたが、そのたびに私は睨んで追い払っていた。3日もすると取り巻き達も諦めたのか、私達の所へ来る事は無くなった。
その後の私達は文字通り何をするにも2人だった。多分私には、他の園児どころか先生すらも目に入ってなかったと思う。
すずちゃんといる事が何よりも楽しかった私はこの先もずっと一緒だよと約束した。すずちゃんもいいよ、と頷いてくれていた。
しかし、現実は残酷で小学生入学と共に引越しをする、つまりすずちゃんとさよならをしなきゃいけない事を告げられる。
私は何度も泣いて叫んで騒いで反対を抗議した。しかし、たかが5歳の女の子のこんな言葉を受け止めてもらえる訳もなく、残ったものは私から言い出した約束を私自身が破った罪悪感と、すずちゃんのいない現実。
立ち直れない私と、友人関係を全てすずちゃんに依存していた私はその後の学校生活をほとんど1人で過ごす事になる。
……
私が小さい頃にこれ程まで一直線に好いてた女の子と、時の経過による新たな状態でのスタートから好きになった女の子。実はこの2人が同一人物だったという事実。昔も今も年齢も状況も学校も何もかもが変わっても、好きになった人は同じ人である私の気持ちを少し誇りに思っていた。
それに、
初めての会話からびっくりする位はっちゃけてた事。会ってすぐにお弁当を作る仲になった事。泊まる仲になった事。初対面なはずなのにお互いそんな気がしなかった事。そして、なにより、またあなたを好きになった事。
全てが偶然じゃなかったんだ。
見つめあう私達に言葉は無かった。お互いが今知った事実と、始めましてからのこの1年弱の期間、そして幼稚園生だった頃の記憶がとてつもない速さで頭の中を駆け巡っているのだろう。
約5分程の静寂だっただろうか。いや、正しくは喫茶店の店内にいるのだから音は存在している。しかし今の私達にとってそんな音は全く意味を成していない。静まり返った私達を動かすには、どちらかの言葉しか無かった。
「……私ね、何となくだった子供の頃の記憶が結構甦ってる。」
「そうなんだ……。私も……。」
「ねぇ唯。聞きたい事がいっぱいあるんだけど。」
「うん。私もだよ。なんでも聞いて。」
「それじゃあ……。何であの時何も言わずにいなくなったの?ずっと一緒だよって約束したのは唯だったよね?私かなり落ち込んだんだよ?」
「それは……。本当にごめんなさい。言うのが怖くて言い出せずにいて、そのまま別れちゃいました。」
「へぇ〜。そうなんだ。私ね、小学校に入学して唯の事探し回ったんだよ?それも何日も。学校中探し回っても見つからないから先生に聞いてみると、そんな娘は学校にいません。と。」
「……。」
「その後にお母さんから唯は秋田に引っ越したって聞いて落ち込んだ記憶。」
「本当にすいませんでした……。」
「当時は幼稚園生だからね。しょうがないところもあるから許してあげる。今後は?」
「こ、今後?」
「うん。また黙っていなくなるの?」
「それは絶対に無い!私はこれからもずっと奏子の隣にいるし!もし仮に、例え、万が一!私が居なくなる時は絶対に言うよ!」
「分かった。それなら許してあげる。約束は絶対に守ってね。」
「もちろん!絶対に!約束する!」
「うん。それで、唯の聞きたい事って?」
「えぇと……。今思うと当時の私って奏子に依存しすぎてたし、奏子以外の周りの人にあたりが強すぎたんじゃないかなって。それで、迷惑だったら謝りたいと思って。」
「迷惑?唯は当時そんな事考えながら私の手を握ったの?」
「いや、ただ純粋に奏子と仲良くなりたいって気持ちです。」
「そうでしょ?当時の私も同じだよ。流石に1番最初はびっくりしたけどね。その後は唯と同じ。純粋に唯と遊ぶのは楽しかったよ。だからあの時手を握ってくれてありがとうね。」
「え?う、うん。私もありがとう。」
「うんうん。じゃあ次私の聞きたい事ね。なんでうさちゃんだったの?宇佐美だったのは覚えてるけど、今は西川だよね?」
「えとね、私秋田に引っ越してから再婚して西川になったんだよ。」
「そうなんだ。って事は幼稚園の頃はひとり親だったの?」
「うん。お母さん。奏子は苗字が鈴音だからすずちゃんかな?」
「大正解。当時の私達はお互い苗字で呼んでたんだね。」
「確かにそうみたい。」
「むむ?という事は、唯のかわゆいちゃんって苗字が西川だから狙って付けたんじゃないんだね。」
「そうだよ。偶然かな。私も当初は気付かなかったんだけど、1番最初に気付いたのがお母さんで、それからかわいいかわいいっていじられるようになったの。」
「なるほどね~。次は唯の番。」
「奏子は高校生になった私と初めて会った時に微塵もうさちゃんだって思わなかった?」
「全く思わなかったよ。初見で初めて会った気がしなかったっていうのも改めて考えればおかしな事なんだけど、その時はこれからもずっと仲良しでいるからだろうなって事で納得しちゃっててさ。それ以降疑問にすら思わなかった。」
「私もそんな感じ。今まで、もしかしたら?とすら思わなかったのも不思議だよね。次は奏子の疑問どうぞ。」
「では~。唯は引っ越した後どんな感じだったの?」
「友達あんまり出来なくて1人でいる事が多かったよ。幼稚園の時も奏子しか友達いなかったし。私、奏子いないとダメみたい。」
「……それは嬉しいって言っていいのか分かんないけど嬉しいよ。ちょっと照れるけどね。次は唯の番。」
「私達うさちゃんすずちゃんって分かったけど呼び方どうする?」
「今まで通りでいいんじゃないかな?私はともかく、唯はもう、うさちゃん要素残ってないわけだし。そうなると私だけすずちゃんって恥ずかしいよ。」
「そうだよね。そうしよう。じゃあ奏子の番。」
「うーん。パス。唯どうぞ。」
「え?パス、だと?私も……うーん。パスで。」
「じゃあ質問タイムは終わりかな~。しかし唯があのうさちゃんだったとはね~。」
「そうだけど、どうしたのそんなにニヤニヤして。」
「ここまで色々な偶然が重なるとそれはもう運命なんじゃないかなって。でぃすてぃにー。」
「奏子英語の成績あんまり良くないのにそんな難しい単語知ってるんだ。」
「それはどーゆー意味かな唯さんよ?」
「ごめんごめんって。」
気が付けばかなりの時間おしゃべりをしていたようだ。跳ね上がった私の心拍数もいつも通りに戻っていた。
「だいぶ長居しちゃったね。お店も迷惑だろうからそろそろでよっか。」
「そうだね、奏子は次どこ行きたいか希望ある?」
「うーん……。あ!唯は引っ越してきたからあまりこの辺知らないんだよね。なら、またになるけどもう1回海の方に行かない?」
「いいよ。どこに連れて行ってくれるの?」
「こっちこっち。」
私が誕生日の時は海へバスで移動をしたのだが、歩いて行こうとする奏子。長い距離を歩く事になるなと覚悟していたのだが、流石海岸沿い。海はどこにでもある。
「この辺は海沿いの遊歩道。もうちょっと行った先に面白いものがあったなーって思い出して来たの。」
「面白いもの?あそこに見える展望台の事?」
「展望台もだけど、目当てはそれじゃないよ。着いてからのお楽しみね。付いて来て。」
そう言って奏子は展望台に見向きもせずに進んでいく。私もその後ろを追いかける。
しばらく歩いて着いた場所は、綺麗な一直線だった遊歩道に、打撲でもしたかの様な海側へコブがある所。そしてその先にはよく分からないへんてこりんな銅像の様なものが立ていた。
「到着。入口にある看板を読んでみて。」
「えーと。入口から続くでっぱりを2人で手を繋いで作ったアーチでくぐり、銅像の前で願い事をして、その状態のまま入口へ戻って来ると願いが叶います。って何これ。」
「胡散臭いと思ったでしょ?唯は正直だね。」
「え?あ、うん……。ごめん、ちょっと思った。」
「あははは。いいよいいよ。私も大して変わらないから。でもさ、2人で同じ願いをしたら効果は倍増しそうじゃない?しかも直近でどうしてもクリアしたいけど私達が一切手を出せない、つまり運に頼るしかない願い事があるじゃん?」
「えーと、なんだろう?」
「二年生のクラス替え。」
「あ……確かに……。」
「私、折角唯と仲良くなれたのに来年はクラス違いますって言われると嫌だもん。」
「そうだよね。私も休み時間じゃなきゃ奏子に会えないのは嫌。そうなると本気で願い事しなきゃね。」
「おー。目つきが変わったね唯さんよ。じゃあ、はい!」
奏子が左手を差し出してくる。そっか、手を繋いでアーチを作らなきゃいけないんだったね。私は奏子の左手を握り返す。
「それじゃあ行くよ!」
私達は手を繋ぎながらへんてこりんな銅像を目指す。手をにぎにぎして少し悪戯しようと思ったがやめる。今は大事な願い事の儀式なんだから。
「願い事って口に出して言うのかな?それともお参りみたいに目を閉じて願うのかな?」
「どっちだろうね。看板には書いてなかったからどっちでもいいんじゃない?」
「それもそうだね。じゃあ、一緒に声に出して言おう!そっちの方がいい気がする!」
「分かった!それじゃ行くよ?せーのっ!」
「「来年も同じクラスになれますように!(して下さい!)」」
~
「最後だけ、違ったね。」
「そうだね。でも内容は一緒だし大丈夫でしょう!」
「それもそうだね!このまま手を繋いだ状態で戻らなきゃいけないんだけど。……あ。」
「うん?どうしたの?」
「私達、ここを出るまで手を離しちゃいけないんだよね?」
「看板にそう書いてあったね。……あ。」
「気付いたね?手を繋いだまま歩く場所を変えるのは無理だから、このまま後ろ向きで戻らないといけないという事です。」
「そうだよね。なんかいきなり試練っぽくなってきたね。」
「試練ねー。確かに。願い事を叶えて欲しければ応えて見せろ!って感じだね。」
「そうそう。ただ転ぶのは危ないからゆっくり行こうね。」
手を繋いだ状態で後ろへ転ばないように注意しながらゆっくりと歩く私達。そんな姿を想像するとあんまりにも可笑しくて笑いを堪えられなくなってしまう。
「ぷっ……くく、ふふふ。」
「え!?どうしたの唯変な声出して。」
「ごめんごめん。ぷぷ今の私達くっを考えたらくふっ可笑しくて。」
「これ笑う所?唯のツボが分からない!」
「だって、可笑しくてふふふふ。」
「もう!笑わせないでよ!私までふふっ笑っちゃうじゃないあはは。」
手を繋いだ状態で笑いながらゆっくりと歩く私達。完全に安全への注意力が無くなってしまったが、無事に試練から生還する。
「もう!こんなに笑うなんて思わなかったよ!唯のせい!」
「ごめんて。でもすっごく楽しかったからいいじゃん。」
「そう、だけど!こんなので願い叶うのかな。」
「大丈夫だと思うよ。願いを叶えてくれるっていう事は、その叶える力を持った人が見ているわけだから。今の私達みたいにすごく楽しそうにしてたら叶えてあげようって思わない?」
「うわーすっごいプラス思考。でも納得しちゃうね。いい考え!」
「でしょ?だからきっと願いは叶うよ!」
「それじゃあ今日は……。うん。このまま帰ろうか!」
奏子が一瞬言い淀みながら繋いだ手を見て提案する。私も一瞬意図が汲み取れなかったが、すぐに理解する。
「うん。」
私達は手を繋いだまま、先程のパワースポットを後にする。
そんな私達を後ろから見守るように1輪のマリーゴールドが咲いていた。




