第8章 繭室への誘導
絶頂の波が去った後、僕は汗と体液に濡れたまま椅子に沈み込んでいた。
息は荒く、胸は上下を繰り返し、全身は痺れたように震えている。
もう羞恥はなかった。
僕も、仲間たちも、同じように声を上げ、流し、笑っている。
天井から事務官の声が降りてきた。
「被験体A-317、次段階へ移行します。繭室へ」
床が静かに動き始めた。
椅子ごと運ばれていく。
白い壁が左右に広がり、奥に半透明の部屋が見えてきた。
卵のような丸みを帯びた構造物。
内部は淡い光で満たされ、呼吸するように脈動している。
「ここが……」
言葉を漏らすと、幻影の彼女が現れた。
白い下着姿のまま、繭室の前で待っている。
胸の谷間、腰のくびれ、太ももの柔らかい曲線。
さっきまで何度も僕を導いてきたその姿が、今も微笑んでいた。
「大丈夫。ここに入れば、もっと楽になれる」
彼女はそう言って、両腕を広げる。
背後には同じ彼女が二人、三人と並び、皆が優しい顔で僕を見つめていた。
椅子が止まり、僕は立たされた。
足元がふらつく。
だが、彼女たちが支えてくれる。
白い腕が腰を抱き、太ももを支え、肩に手を添える。
体が前へと導かれていく。
繭室の入口は柔らかな膜のようだった。
触れると、温かい布のように沈み、押し返すことなく僕を包み込んだ。
胸元から腹、腰、脚へと、順に優しく吸い込まれていく。
下着越しの肌にまとわりつき、布と布が一体化するかのようだった。
「A-317……あなたは特別。ここで永遠に守られる」
幻影の彼女たちが囁く。
耳元、唇のすぐそば、胸に押し当てられた顔。
どこからともなく声が重なり、僕を安堵させる。
膜の内側は驚くほど柔らかかった。
ベッドよりも、母親の胎内を思わせるほどに。
背中から腰にかけて布が密着し、太ももを優しく開かせる。
羞恥よりも快感に似た感触。
吸い込まれるほどに、体は軽く、心は静まっていった。
「僕は……どうなる」
最後の問いを口にした。
「固定されるの。あなたの楽さと昂ぶりは、都市を照らす光になる」
事務官の声が淡々と答える。
冷静で、しかし絶対の響きを持っていた。
「もう名前はいらない。A-317だけで十分」
幻影の彼女が胸に顔を寄せ、囁いた。
その胸の柔らかさが布越しに伝わり、息が止まりそうになる。
膜が閉じていく。
外の光が遠のき、繭室の内部が淡く明滅する。
脈動に合わせ、僕の心拍も落ち着いていく。
汗に濡れた体が、布に吸い取られるように清められていく。
羞恥も恐怖も、すでに遠い。
どうでもいい。
僕はただ、楽で、幸福で、甘美な波に漂っていた。
そして繭の中で、僕は初めて、永遠に閉じ込められる安堵を知った。




