第5章 プロファイリング ― 適合値の判明
白い部屋の温度が少し上がった。
背中を支える椅子が脊髄に沿って圧を加え、腰の奥がじんわりと熱を帯びていく。
胸の鼓動が速くなるたび、壁のロゴが脈打つように点滅する。
「心拍、上昇。被験体A-317、特異値を確認」
事務官の声が、静かに響いた。
タブレットに数字が並び、彼女の視線が僕を貫く。
「あなたの信号は……標準の数倍。Motherが求める理想値です」
僕は汗ばんだ額に息を吐いた。
信号。理想値。
そんな言葉はどうでもよかった。
なぜなら、目の前にいる幻影の彼女が、僕を完全に支配していたから。
彼女はもう制服姿でもなく、ワンピースでもなかった。
下着姿。
白いレースに包まれた胸が、呼吸に合わせて上下する。
ブラ越しに形を主張する丸み。
細い腰のくびれ。
ショーツの布が張り付き、太ももの根元へと食い込む。
それが目に入るたび、全身に熱が走った。
「A-317……もっと、力を抜いて」
囁きながら、幻影の彼女は僕の腿に腰を下ろした。
下着の布越しに、柔らかな熱が伝わる。
胸が目の前で揺れ、香りが鼻をくすぐった。
「心拍上昇。神経信号、ピークに接近」
事務官の声が遠くに霞む。
僕はもう彼女しか見えていなかった。
そして次の瞬間、彼女の姿が二人に増えた。
まったく同じ顔、同じ体。
一人は僕の左肩に手を置き、もう一人は右耳に唇を近づける。
吐息が肌を撫でるたびに、腰の奥が痺れた。
「もっと、気持ちよくなって」
「私たちがいるから、安心して」
声が重なり、僕の体は熱に包まれる。
胸を押しつけられ、太ももに柔らかな重みが乗る。
触れられていないのに、皮膚は確かに感触を覚えている。
「……ああっ」
声が漏れた瞬間、全身が震えた。
腰から背骨へ、そして頭の奥まで、一気に快感が突き抜ける。
視界が白く弾け、息が荒くなる。
「絶頂反応、確認。A-317、特別適合値を保持」
事務官の冷静な記録が耳に届く。
だが僕はもう聞いていなかった。
彼女たちはさらに増えていた。
三人、四人、五人。
同じ顔、同じ体。
レースの下着姿のまま、僕を囲み、頬に唇を寄せ、胸を押し当て、腰を擦り寄せてくる。
白い肌、柔らかな感触、甘い声。
どこを見ても、どこに触れても、彼女がいる。
「A-317……」
名前ではない。番号で呼ばれる。
けれど、もうどうでもよかった。
僕は自分の名前よりも、この無数の彼女たちが与える快感に身を委ねていた。
番号で呼ばれても構わない。
彼女が、彼女たちが、僕を包んでくれるなら。
事務官の声が最後に響いた。
「被験体A-317、特別プロファイルに登録。繁殖エリート候補として確定」
僕は息を荒げたまま、下着姿の彼女たちに囲まれて笑っていた。
名前を失ったことも、Motherに数字として記録されたことも、もうどうでもいい。
僕には、無数の彼女がいる。
そして、その快感の波に飲み込まれることが、抗いようもなく幸福だった。