第4章 幻影の庭
白い部屋の照明が少し落ちた。
壁の光が波のように揺れ、次の瞬間、床に柔らかな影が差した。
僕の正面に、人影が現れる。
黒髪を揺らし、薄布のワンピースをまとった女。
校門で別れた、あの憧れの彼女だった。
だが、昼間とは違う。
透けるほど薄い布。下着のラインがはっきりと浮かび、胸の形が布越しに映し出されている。
スカート部分は短く、太ももが露わになっている。
動くたびに、布がわずかにめくれ、下着の白がちらりと覗いた。
「……」
息が詰まる。
現実の彼女ではないと分かっている。
それでも、幻影の輪郭は鮮明で、吐息さえ聞こえるようだった。
彼女は笑った。
「A-317。ここは安全だよ。もっと、楽になって」
僕の名前ではない。番号で呼ばれる。
その違和感が胸を刺すのに、声の響きは甘く心地よい。
彼女が一歩近づく。
薄布が揺れ、胸の谷間に光が走る。
僕の視線はそこから離れなかった。
ブラウスの下に隠されていたはずの形が、今は布一枚の下に露わになっている。
乳房の丸み、下着のレースが描く模様までが、細部に至るまで再現されていた。
「ここは“幻影の庭”。あなたが一番安心できる姿をMotherが提示しています」
背後で事務官の声が淡々と響く。
安心できる姿——。
確かにそうだ。
昼間の制服姿よりも、今の彼女は僕の心を揺さぶっていた。
幻影の彼女は僕の前に腰を下ろした。
椅子に座る僕の膝に、彼女の太ももが触れそうなほど近い。
白い下着のラインが、スカートの裾から覗いている。
腰の曲線、胸のふくらみ、鎖骨から胸元へ落ちる光。
僕は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「どう? 楽になれる?」
彼女は小首をかしげ、黒髪を揺らした。
その仕草に胸元が揺れ、下着のレースが浮き立つ。
「……ああ」
思わず答えていた。
心臓は速く打ち、背中に汗がにじんでいる。
それでも、視線は彼女から離れなかった。
事務官の声がまた響く。
「心拍上昇。神経信号、良好」
僕の反応が数字になり、Motherに送られている。
その事実が頭をかすめるが、幻影の彼女が笑うと、すぐに意識は溶けてしまう。
彼女は手を伸ばした。
指先が僕の頬に触れる。
本当は触れていない。
だが皮膚が確かに温かさを感じた。
頬が火照り、耳が赤くなる。
「A-317。もっと、見て」
そう囁かれると、視線が自然に胸元へ落ちた。
下着越しに浮かぶ柔らかな膨らみ。
ブラのカップに押し上げられた丸みと谷間。
布が薄いせいで、肌の色が透けて見える。
男としての本能が、彼女を直視させる。
息が荒くなる。
呼吸のたびに胸が上下し、下着のレースが揺れる。
その揺れが僕の鼓動と重なり、体の奥を痺れさせた。
「もっと近くに来てもいい?」
彼女が尋ねる。
「……ああ」
声が震えていた。
幻影の彼女は僕の膝に座り込んだ。
太ももの重み。スカートがめくれ、下着が直接視界に入る。
白い布地、レースの模様、布の下の丸み。
股間に熱がこもり、呼吸がさらに荒くなった。
事務官の声が冷静に重なる。
「被験体A-317、反応強。適合率、上昇中」
数字。
僕の昂ぶりが数字にされ、Motherへ送られていく。
だが、その思考さえも、彼女の笑みでかき消された。
「安心して。ここでは何をしても大丈夫。Motherが全部見守ってる」
その言葉に、逆らえない安心感が広がる。
彼女の胸が僕の胸に触れ、柔らかな感触が広がった。
下着越しの丸み。熱。
もう現実か幻影か区別がつかない。
「……僕は、どうなるんだ」
声を絞り出した。
幻影の彼女は耳元で囁く。
「あなたは選ばれたんだよ。A-317として、私たちのために」
「僕の……何を、求めている?」
「あなたの反応。あなたの昂ぶり。その全部が、Motherの力になる」
彼女は僕の頬に唇を近づけた。
触れないのに、触れられた感覚が広がる。
胸が熱くなり、体が痺れる。
事務官の声が、冷たくも甘く響いた。
「A-317、よく合います。あなたの幸福が、都市を明るくするのです」
幸福。
その言葉が、鎖のように僕を縛った。
幻影の彼女は下着姿のまま、僕に身を預けて微笑んでいる。
抗えない。
僕はもう、彼女に、そしてMotherに囚われていた。