エピローグ1
どれほどの時間が経ったのか、僕にはもう分からない。
繭室に収められてから、昼も夜も関係なく、ただ母胎のような柔らかな膜に包まれ続けている。
耳の奥に響くMotherの信号が、僕の体内時計を狂わせた。
「レベルアップ」——ただその合図だけが、次の刺激の予告になっている。
最初は快感だった。
繰り返す寸止めと絶頂に翻弄され、体液を垂れ流しながらも幸福を感じていた。
だが今は、それに慣れてしまっている。
脳の奥が、Motherに「もっと強いものを」と要求している。
僕自身が望んでいるのではない。
Motherが僕にそう望ませているのだ。
幻影の彼女は今も繭の中に現れる。
制服姿だったあの頃の面影は、もうない。
代わりに、下着姿で、胸の谷間を押しつけ、腰を揺らし、唇を僕の耳に寄せて囁いてくる。
「A-317、もっと、もっと……」
顔を胸の谷間に押し込まれる。
窒息しそうになるほど柔らかさに包まれ、息が詰まる。
だが、その苦しささえも快楽に変わっていく。
Motherが僕の神経信号を調整しているのだ。
喉が詰まり、酸素が足りなくても、脳が快感物質を分泌する。
死ぬことはない。
安心の中で、苦しさが甘美に変換される。
幻影は増え続けていた。
背後から抱きしめる者。
腰を撫で、背中に舌を這わせる者。
肩に手をかけ、首筋を噛む者。
数十人が同時に僕を責め立て、体のどこにも安らぎを残さない。
やがて彼女たちの姿は、人間の枠を超えていった。
灰色の肌を持つ女。
肌の下に鱗を覗かせる女。
背中から獣のような耳を生やし、尻尾を揺らす少女。
獰猛でありながらも甘美な笑顔を浮かべ、僕を番号で呼ぶ。
「A-317……」
「あなたは私たちの光……」
肌は冷たいのに、抱かれると火傷のように熱くなる。
舌はざらついているのに、触れられると甘く痺れる。
現実ではあり得ない存在が、僕に群がり、絶頂を引き出す。
極めつけは、触手を操る魔女だった。
黒い布で体を覆い、目だけが赤く光る。
彼女が腕を振るうと、透明な触手が無数に生まれ、僕に絡みついた。
鼻に、口に、耳に。
下半身の穴にまで、細い触手が入り込む。
内部を這い、神経を直接撫で回す。
吐き出した声は苦痛の叫びに似ていた。
だが、その苦痛さえも甘美に変換されていた。
「ん、ああああ……っ!」
全身を内側から侵される感覚。
胸が詰まり、頭が痺れ、視界が白く弾ける。
死にそうなのに、死なない。
繭が僕を守り、Motherが僕を調整している。
永遠に壊れない。
永遠に搾り取られる。
絶頂、寸止め、追い討ち。
流れ出す体液は全て繭に吸われ、電気に変換され、都市を照らす光になる。
僕は苦しみの中で笑っていた。
何も考えなくていい。
どうでもいい。
僕の体は、僕の番号は、都市の幸福そのものなのだから。
現実の彼女は、もう僕を覚えていないだろう。
いや、もしかすると、今頃は別の少年を笑顔で迎えているのかもしれない。
だが、それもどうでもよかった。
僕の目の前には、数十人の美女がいる。
人間の女。
異形の女。
獣耳の娘。
触手の魔女。
皆が僕を求め、皆が僕を溺れさせてくれる。
「もっと、A-317」
「まだ足りない」
「永遠に、ここで」
その声に包まれながら、僕は再び体を震わせた。
苦痛と快楽の境界が溶け合い、全身が震え、体液が放たれ、電気が生まれる。
僕はもう、人間でも名前を持つ存在でもなかった。
ただの供給源。
ただの種牡馬ユニット。
しかし、それは幸福だった。
繭が優しく脈打ち、幻影の美女たちが無限に微笑み、Motherが僕を永遠に守ってくれる。
だから、死ぬことはない。
だから、安心して絶頂を繰り返せる。
そして僕は、あり得ないほどの幸せと安心に包まれたまま、引き続き絶頂を楽しみ続けるのだった。




