4 その後
別世界に転移した勇者と魔王の一騎討ちは、三日三晩続いた。激闘の末、勝利したのは勇者だった。
魔王は「自分の命と引き換えに、他の魔族は決して虐げないでくれ」と勇者に懇願し、勇者はこれを受け入れた。
勇者の強い意向により、王国と魔王の国は和睦を結んだ。少しずつではあるが、両国の平和的な交流が始まった……
……というのが表向きの結末。その裏にある真相を知るのは、魔王に化けていた人間の僕と、勇者に化けていた魔族の彼だけだ。
「それにしても、転移した直後は驚いたぜ。まさか魔王様が人間のスパイだったんだからな」
王都の場末の居酒屋。普段の「勇者様」の姿から別人に変化した彼が、笑いながらそう言って酒を飲んだ。僕も笑いながら酒を飲む。
「僕もだよ。まさか勇者様が魔族のスパイだったとは流石に思わないもの」
「ははは、そうだよな。お互い、自分はスパイです、助けてくださいって相手に言うのに必死だったしな」
魔王城から人気のない森の中に転移した僕と彼は、お互いにスパイだということが分かった後、両国のためにどうしたらいいか三日三晩考えた。その結果が先ほどの「表向きの結末」という訳だ。
「そう言えば、お前の母親と妹は元気か?」
「うん、お陰様で皆元気に暮らしてるよ」
彼からの問いに、僕は笑顔で応じた。
「勇者と魔王の一騎討ち」の後、王都に戻った僕が見たのは、困窮しきった母と妹の姿だった。参謀長は僕との約束を守る気などなかったのだ。
途方に暮れる僕を助けてくれたのは、「勇者様」に化けたまま王都に凱旋した彼だった。勇者として得た莫大な財宝の一部を僕たち家族に提供してくれ、僕の新たな仕事も斡旋してくれた。
「近々、魔王の国に赴き、救民活動を行うつもりだ。オレの家族以外にも困ってる魔族は多いしな。『勇者様』の特権は最大限使わせてもらうぜ」
そう言って彼は笑った。
「君に倒された魔王として、是非とも魔王の国をよろしく頼むよ」
僕はそう言って彼に杯を掲げた。彼は苦笑しながら僕に杯を掲げた。