第94話 救出
翌朝、未開地の野営地に行くと人が増えていた。
「えっ、人が増えてる?」
「ギルバート、何があったのですか?」
「おはようございます、ウィリアム様、オフィーリア先輩。実は夜のうちに賊が出たんですよ」
ギルバートによると、暗くなるのを待って襲ってきた者たちがいたようだ。
「僕らがクロスポイントを見つけてほっとしたところで襲ってきやがって。ずる賢い連中です」
「少し前からこっちに気付いてたみてえで、エルフが何人もいるから攫おうと狙ってやがったようです」
話に加わったジェームスは忌々しそうな顔をした。
「みんな、大変だったね」
「まあ、うちの騎士やエルフの敵じゃあありやせんでしたが」
見張りのエルフが早めに気付き、探索隊は賊を待ち構えて応戦し、練度の高さと装備の良さもあって圧倒したらしい。
「じゃあ探索隊のみんなは無事だったのかい?」
「ええ、エルフが一人怪我をしましたけれど、あとはかすり傷くらいです」
「テントの内部が拡張されているなんて思いつかねえですから、こちらが少人数と思い込んで力押しで来たようです。おかげで楽に戦えやした」
「ウィリアム様のテントのお陰でゆっくり休めていたのも大きいです」
それを聞いて、ホッと胸をなでおろした。
未開地には野盗などの賊がいるかもしれないとは考えていた。
でも、このタイミングで襲ってくるとは予想できなかった。
昨日、ジェームスがみんなの気を引き締めていてくれて良かったと改めて思う。さすが頼りになるベテラン騎士だ。
そして、テントが役に立ったのなら良かった。
「それで、人数が増えたのは?」
事情を聞くと、襲ってきた賊を倒し、捕えた者を騎士が尋問すると違法な奴隷商人に雇われた者たちだと分かったそうだ。
それで、こちらから奴隷商人の拠点に夜襲をかけて捕らえられていた人たちを解放した、ということらしい。
捕らえられていた人は全部で29人いて、そのうち14人はエルフで、15人は人間の女性や子どもだったらしい。
「そうだったんだ。みんな、探索で疲れていただろうによく頑張ってくれたね」
「我らは同胞を解放できたので嬉しく思っております」
アウラスニールは笑顔をみせた。
ひととおり状況をジェームスとアウラスニールから聞いたところで、取り急ぎ、怪我をしたエルフを転移魔法でエルフの森に送ることにした。
怪我をしたエルフの女性はエレンルエルと名乗った。樹海から逃げてきた一族ではなく、他の土地からやってきたエルフらしい。
左足に巻かれた包帯が痛々しい。
「妹が捕まっていることが分かったので、少し無理をしてしまいまして」
「そうだったんですか。妹さんは無事でしたか?」
「ええ、救い出せました。私たちの住んでいた里は奴隷商人たちの私兵に襲撃されたので、フェアチャイルド領に逃げてきたんです」
「大変な目に遭ったんですね」
悪い人間がいるから、エルフが人間を警戒するようになってしまう。
「人間は嫌いかもしれないけれど、転移するには手を握る必要があるんです。僕の手を握るのは大丈夫ですか?」
「いえいえ、救世主様は別ですよ。それにフェアチャイルド領の人たちは私たちに親切ですし、今回騎士の皆さんと一緒に探索して、良い人間がいることも実感できました」
「そう思ってくれたのなら良かった。じゃあ転移しますよ」
僕はエレンルエルの手を握って、エルフの森に転移した。
「救世主様、何があったんでしょうか?」
エレンルエルが怪我をしている様子を見て、集まったエルフたちは心配そうな顔をした。
「彼女は奴隷商人に捕まっいた妹を救い出すために、未開地で奴隷商人の私兵と戦って怪我をしたんです」
探索隊が違法な奴隷商人の私兵の襲撃を受けたけれど撃退し、逆に攻め込んで、捕まっていたエルフや人間を解放したことを伝えると、エルフたちは喜んだ。
治療はエルフたちに任せて、僕はまた未開地に転移した。
「怪我をしたエレンルエルは無事にエルフの森に送って来たよ」
「あとは攫われていた人たちをどうやってフェアチャイルド領まで運ぶかです。歩くと時間がかかりやすが、全員が馬に乗ることはできねえですから」
うーん、ジェームスの言うとおりだな。
「ノーザンフォードで馬車を借りて、転移魔法で運べないか試してみるよ。少し待っていてくれるかい?」
工房に転移すると、すぐに父上の執務室を訪ねた。
事情を話すと父上は地脈のクロスポイントの発見を喜び、エルフや人間の女性、子供を捕えていた奴隷商人には怒りを見せた。
「それで、捕らえられていた人たちは無事なのかい?」
「はい。奴隷として売るつもりだったらしく、酷いことはされておらず、食事も与えられていたようです」
「そうか、それは良かった。その人たちはうちで保護しよう」
父上の言う「その人たち」には、もちろんエルフも含まれている。フェアチャイルド家には亜人に対する差別などない。
「ところで、捕らえられていた人たちを運ぶために馬車を借りたいのですが」
「なるほど。どんな馬車がいいかな? ウィルの魔力量だと大きい馬車でも収納できそうだね」
父上は大きな馬車を用意してくれた。
試しに収納してみると12人載れる馬車を3台、問題なく収納できた。馬が2頭で牽くタイプの馬車らしい。
捕まっていたのは子どもを含めて29名だから、3台に分乗してもらえば大丈夫だと思う。
馬車とは別に、やはり馬が牽く大き目の荷車を1台借りた。こっちには探索隊が捕らえた奴隷商人の私兵たちを載せる。
ちなみに奴隷商人は死んだとジェームスから聞いた。
奴隷商人は、封魔の腕輪という遺跡から出土する道具を使ってエルフたちの魔法を封じていたようだ。
その腕輪は所有者しか外すしかできないらしいけれど、エルフたちに付けた腕輪は商人に外させたらしい。
ジェームスは「どうやって商人に外させたかは聞かんでください。汚れ仕事も必要なんですが、あまりお耳に入れるようなもんじゃねえです」と言った。
残虐な話をしないようにジェームスは気遣ってくれた。
この世界は優しい人が多いけれど、悪人もいる。
汚れ仕事をやってくれる人がいるから平穏が保たれていることを忘れないようにしないといけない。
馬車を3台と荷車を1台収納して、さらに人数が増えたから必要になる保存食を収納すると、僕はまた未開地に転移する。
今日は何度も転移で行ったり来たりしているなあ。
だいぶ魔力も減ったけれど、転移魔法と収納魔法は役に立つね。




