閑話 王都の生産魔法師
私はアルビオン王国の王都ウィンセスタの生産魔法師です。
年を取って、今は郊外の小さな家で暮らしています。
現役の頃は、それなりに大きな工房の代表もしていたんですよ。
そして、王国のお役目も密かに果たしていました。
工房の代表を引退してのんびり余生を送ろうと思っていたら、とある高位の貴族から息子さんの生産スキルの家庭教師をしてほしいと頼まれました。
王都を離れるつもりはなかったのですが、その貴族の頭を下げて真剣に頼まれる様子を見て、お引き受けすることにしました。
アルビオン王国の貴族たちは魔物と戦うための剣と魔法を重視しています。
それなのに、その貴族は息子の生産スキルを伸ばしたいと真剣に考えていることが伝わってきました。
普段は必要以上に貴族と関わらないようにしているのですが、老いた身でも少しお手伝いをしようと思ったのです。
西部に行き、生産スキルを授かったという息子さんに会って驚きました。
初めての生産魔法を上手く発動したばかりか、見たこともない複雑な家具を作ったのです。
この子は天才だ、と直感しました。
そう、フェアチャイルド辺境伯の次男であるウィリアム・フェアチャイルドは希代の生産魔法師になると私は確信したのです。
それからは驚きの連続でした。
ウィリアムさんは底の見えない膨大な魔力量を持ち、大きな倉庫を建て、樹海から逃げて来たドワーフたちの家を一人で作ってしまいました。
それに大商会であるレバント商会の会頭がやって来るくらい、彼のつくる家具や鞄は最初から高品質でした。
ウィリアムさんの優しく謙虚な人柄も生産魔法師向きだと思われました。
生産スキルは不思議なことに、使う人のためにと想いを込めるほどにうまく発動します。
自分のためではなく誰かのためにと願うことのできる者のほうが生産スキルは上達するのです。
それに加えて高品質の物を作っても慢心せず、自分はまだまだ未熟と言うウィリアムさんの謙虚さは、生産魔法師としてさらに高みを目指すうえで重要な資質です。
ウィリアムさんは素材収集のために重要な収納魔法を覚え、さらには鑑定魔法も身に着けました。
私が教えられる生産スキルはあっという間にマスターしてしまいました。
明らかに私よりも才能に溢れるこの少年には、型にはまることなく伸び伸び育ってほしいと思ったこともあって、家庭教師を辞することにしました。
私が王都に戻るときには寂しがってくれて、その後もときどき手紙で近況を知らせてくれます。
義理堅いウィリアムさんと違って、どこかの誰かさんは私のことを忘れてしまったのではないかという気もしますけれど。
それからウィリアムさんは乾燥に強い小麦を開発し、死に至る恐ろしい病気の薬を作り、私の期待以上の活躍をしてくれました。
その功績を讃えるために国王陛下に招かれて王都に来たとき、顔を見ることができなかったのは残念でした。
でもまあ、押し寄せて来る王都の貴族たちから逃げ出すのは理解できます。
王都の貴族たちは有望株と思うと抱え込もうと押しが強くて、つかまると面倒ですからね。
最近はフェアチャイルド家の南に広がる未開地の探索に関わっているようです。
どうも詳しいことは言えないみたいですが。
まだ子どもといってもウィリアムさんは生産の天才ですから、何か重要な役割を担っているのかもしれません。
大変だろうと思う一方、短期間で成長した様子を嬉しくも思います。
次にウィリアムさんが王都に来る機会を楽しみに待とうと思います。
私がお役目を果たすうえで得た知識をウィリアムさんに伝えることについて、上の許可も出ました。
優しく謙虚な彼なら、その知識もうまく生かしてくれるでしょう。




