第90話 ウィルと世界樹の件~陛下と父上の相談
※今回はフェアチャイルド辺境伯の視点です。探索隊が南の未開地を探索している間に、父上は王都に行って陛下と相談をしています。
ウィルは本当に救世主だった。
そして世界樹は弱体化してしまって、闇の脅威が増大している。
世界樹の弱体化は気候不順にもつながっているようだ。
ウィルとエルフの古老殿から聞いた話は深刻なものだった。
私は陛下に報告すべく、王都に向かった。
そして王都のフェアチャイルド家の屋敷に着くと、すぐに王城に使いを出した。
普段なら数日は待たなければいけないが、驚いたことに翌日に陛下にお会いすることができた。
陛下もウィルが絡む案件は重要だと考えておられるようだ。
王城で陛下にお会いすると、すぐに問われた。
「セオドア、ウィリアム君と世界樹について急ぎの報告があると聞いたが、何があったのだ?」
「はっ、陛下。お人払いをお願いできますでしょうか」
「うむ、分かった」
陛下はメイドたちに部屋から出るように促し、入り口には近衛騎士が立った。
「これで良いかな?」
「ありがとうございます。それではウィリアムとエルフの古老殿から聞いたことをご説明申し上げます」
私はウィリアムが本当に救世主であったこと、樹海にあった世界樹は外の地脈から切り離されて弱り、そのことが気候不順の原因ともなっていることをお伝えした。
さらに、世界樹を護ってきたエルフの一族は世界樹の若木を抱えて樹海から脱出し、今はフェアチャイルド領で保護していることも陛下に説明した。
「なんと、そのようなことが起きていたのか」
陛下は大きく溜息をつかれた。
「事態は深刻だな。ただしウィリアム君が救世主だという私の予想は当たったな」
陛下は険しい表情で私の話を聞いておられたが、ご自身の予想が当たったことだけは嬉しそうな顔をされた。
「さて、そうすると重要になるのは世界樹を保護し、復活させることのようだな」
「おっしゃるとおりかと。エルフの古老殿によれば、今も細い地脈の上に世界樹はあり、少しずつ成長しているとのことです」
「ふむ。ではエルフと世界樹の保護をよろしく頼む」
「承知いたしました。なお、太い地脈のほうが世界樹の成長は早く、我が領地の南に位置する未開地に地脈が交わるクロスポイントがあるとのことでございます」
「そうか。ではその地点を探さねばならぬな」
「はい、すでにエルフの探索隊が南に出発致しました。我が家の騎士団の有志が護衛し、ウィリアムも事実上同行しております」
「おお、そうか。すでに動いていたか。しかし、騎士団の有志とは……そうか、辺境伯領以外の場所で活動するためか」
「はい、騎士たちは休暇を取って個人として動いております。休暇中とはいえ国のために動いておりますので、もし怪我や病気になれば仕事中として扱うことは伝えております」
「そうか、制約のある中で、できるだけのことをしてくれているのだな。だが、やはり昨年公爵にしておけばよかったのかもしれぬ」
公爵家は王国に二つのみだ。それは難しいだろう。
「それで、ウィリアム君が事実上同行というのはどういうことかな?」
「はい、実はウィリアムは転移魔法を使えるようになりましたので、日中は探索隊に同行し、夜はノーザンフォードに戻っております」
「何と申した? 転移魔法だと! 伝説と言われていた魔法ではないか」
「はい、私も驚きました。ウィリアムは最近になり、覚醒した際に使えるようになったようです」
「実は救世主を助ける使徒という存在があり、これまでにドワーフのテオドール君とレバント商会のオリヴァー君が使徒として覚醒しております。そして使徒が覚醒するたびに救世主であるウィリアムも覚醒するようなのです」
「そうか、今日は驚かされてばかりだ。やはり救世主は特別な存在なのだな」
「私も驚いております」
「うむ。ところで、地脈のクロスポイントが見つかれば世界樹を移すだけというわけにはいかないのだろうな」
「はい、未開地は危険な場所ですし、どうやら世界樹は魔物に狙われるようです」
「そうか。では未開地を誰かが領有してエルフと世界樹を護る必要があるようだな。だが誰も住んでおらぬ未開地の開発は容易ではない。手を挙げる者がいると良いのだが」
「実は、ウィリアムは領地として南の未開地を頂きたいと申しております」
「それは真か? もっと条件の良い領地を与えられるというのに。救世主の役目を果たそうとすればそうなるのかもしれぬが、そなたの息子は実に立派だな」
「はい、我が息子ながら見事な覚悟かと。エルフはもちろんのこと、ドワーフたちもウィリアムを助けてくれるでしょうし、私もできる限り支援をするつもりでおります」
「いや、王国としてもできる限りの支援をすべきだろうな。南の未開地は遠方だから何かと大変だが」
さすが名君といわれるエドガー二世だ。
「息子をご支援頂けるとのこと、誠にありがとうございます。遠方という点は、必要とあらばウィリアムは未開地からノーザンフォードに転移魔法で移動できます」
「ノーザンフォードから王都にも転移できたと申しておりましたから、もしかすると未開地から王都にも転移できるかもしれません」
「何と、そんな遠距離の転移もできるのか」
「はい。さらにウィリアムは収納魔法で大量の物資を収納できますから、物資の支援という点では距離の問題はクリアできるように思われます」
「やはりウィリアム君の能力は別格だな」
「あとは領主に任じるには年齢の問題があるな。ウィリアム君は今13歳だったか?」
「はい、そのとおりでございます」
「貴族に叙して領地を与えることができるのは原則として18歳になってからだ」
その点は懸念していた。
「例外がないか調べさせるが、さすがに今すぐというわけにはいかないだろう。だが、クロスポイントが見つかれば、なるべく早く世界樹を移したいところだな」
「はい、そのとおりかと。もっともエルフたちにも世界樹を移す準備があるでしょうし、魔物への備えもするとなると、すぐに世界樹を移せるわけではないかと思われますが」
「そうだな、あまり焦ってもいかぬだろうな。そうはいっても何年も待てぬな。領主に任じずともウィリアム君が未開地を事実上統治できるようにするために良い手がないか、私のほうで考えてみよう」
陛下は本気でウィルを支えようと思ってくださる。
心強いことだ。




