第87話 未開地の探索
次の朝、起きたら食堂に行って、料理長に頼んでミートパイをたくさん焼いてもらった。
騎士たちのためと言うと、それ以上聞かずに焼いてくれたことに感謝だ。
そのミートパイを魔法で収納して、ティンターンの町に転移する。
普段の遠征の食事は堅く焼いたビスケットと干し肉だけど、ご飯が美味しいと元気も出るからね。
「うわ!」
ティンターンの宿屋に転移すると、ギルバートは跳び上がった。
人目につくといけないから、ギルの部屋に転移することは前日に話していたんだけれど。
「驚いてすみません。いや、分かっちゃいたんですけど」
「修行不足だ」
オフィーリアは厳しいな。
「いや、先輩も目の前がいきなり光って人が現れたら驚きますって」
あはは、僕もギルの立場ならきっと驚くよ。
階段を下りて、宿屋の一階で探索隊のみんなと合流した。
「おお、また救世主様にお会いできるとは。すでに転移魔法を使いこなしておられるのですね」
エルフの隊長のアウラスニールが大げさに喜んでくれる。
もっと普通に接してくれてもいいのだけれど。
「さて、揃ったら出掛けますかね」
ジェームスが声を掛けて、探索隊は出発する。
僕とオフィーリアも町の代官から借りた馬に乗って、みんなと一緒に町を出た。
ティンターンの町はフェアチャイルド領の境に近いから、二時間も進むと領地の南端に着く。
領境を監視する詰所の兵士たちを労ってから別れを告げると、いよいよ未開地に入る。
気を引き締めていこう。
未開地に入ってしばらく進むと、見渡す限りの大草原になった。
草が風に揺れる様子はまるで波のようで、見ていて楽しい。
美しい景色だけれど、ティンターンの代官からは、農業をできない痩せた土地だから開発されてこなかったと聞いた。
アルビオン王国は元の世界と違って人口密度が低く、農地にできる土地はまだ余っている。
だから条件の悪い土地は開発されずに放っておかれるみたいだ。
太陽が高く昇ったところで、昼食休憩を取ることになった。
この世界には持ち運べる時計のような便利なものはない。
じゃあどうやって時間を知るかというと、街の広場にはたいてい時計塔があって1時間ごとに鐘が鳴る。その鐘の音で時間が分かるんだ。
馬を降りて、交替で見張りをしながらランチを食べる。
僕は収納魔法で運んできたテーブルと椅子を出した。
椅子は折り畳めるもので、母上が貧しい人に炊き出しをするときに便利だから作ってほしいと頼まれて作ったものだ。
こんなときにも役に立つんだな。
テーブルの上にこれも収納してきたテーブルクロスを敷いて、料理長に焼いてもらったミートパイを並べる。
あれ、パイが温かい気がするな。どういうことだろう?
「うわ、温かい! それに良い匂い。まるで焼きたてのミートパイみたいですね」
女性の騎士がパイを持って目を輝かせた。
「マジっすか? テーブルクロスの上に温かいパイ。それを椅子に座って食べられるとか、遠征中とは思えないですね」
ギルバートは喜色満面だ。
「美味しそうですね!」
エルフたちも喜んでくれた。
それにしても、これまでは食べ物を魔法で収納して運ぶと、いざ食べるときには冷めていた。
それが今回は収納したときと同じ状態に思える。
まるで収納した物の時間が止まっているみたいな。
そういえば古老さんは、転移魔法は時空魔法だと言っていた。
もしかすると収納魔法もバージョンアップして、内部の時間が止まるようになったのかもしれない。
「美味い食事に喜ぶのはいいが、ここが未開地だってことを忘れねえようにな」
ジェームスがみんなの気を引き締めた。
人に嫌がられるようなことでも必要と思えば言ってくれるのはジェームスのいいところだ。
だから父上からもリアムからも信頼されている。
騎士たちもエルフたちも頷き、装備を確認してから出発した。
しばらく草原を進むと、探知魔法の得意なエルフがみんなを止めた。
「前方の左右に灌木の茂みがありますが、その後ろに魔狼たちが潜んでいます」
統治されていない土地だから、やはり魔物は現れた。
樹海でもないのに、魔犬じゃなくいきなり魔狼の群れが出るとは。
しかも待ち伏せしているからには智恵のある個体に率いられている。
でも事前に位置が分かったおかげで、うかつに近づかずに済む。
みんなはゆっくり進み、左と右の灌木の茂みをそれぞれ半包囲する形をとる。
そして、エルフたちと魔法を使える騎士が属性魔法を撃ちこんだ。
風や炎の魔法が宙を走り、茂みに命中する。
灌木は砕け散り、隠れていた魔狼たちはたまらず飛び出してきた。
そのことを予期していた騎士たちが盾で受け止め、エルフたちは後方から矢を射る。
ミスリルの剣は魔狼を切り裂き、ミスリルの鏃は魔狼に深く突き刺さる。
やはり素材がいいと違うね。
僕は前に出るなと言われているからオフィーリアと後方にいた。
みんなの間を抜けてくる魔狼がいると、オフィーリアが倒してくれる。
僕も槍を投げて、苦戦している人がいたら援護した。
「よし、全部倒したな。誰も怪我をしちゃいねえのは上出来だ」
珍しくジェームスが褒めた。みんなは簡単に倒したけれど、魔狼は一般論としては強敵だ。
「樹海の中層でそれなりに訓練していますからね」
騎士団はみんな魔狼と戦うのは慣れている。
「フェアチャイルド家の騎士たちが来てくれて良かった。感謝する」
アウラスニールは礼を言った。騎士たちが盾で受け止められるのは大きい。
森の戦いは得意なエルフだけれど、草原で魔狼の群れを相手にするのはエルフだけだと大変だっただろう。
改めてジェームスたちには感謝だ。
魔狼たちの落とす魔核は貰っておいた。
世界樹が浄化した魔核はまだ何に使えるか分からないけれど、少なくとも浄化されて害はないから集めている。そのうち何かの役に立つ気がするんだ。
その後は魔犬の群れの襲撃を3回受けて、もう一度魔狼の群れが襲ってきた。
やはり未開地では多くの魔物が跋扈しているようだ。
みんな難なく倒していたけれど、普通の人には危険な場所なんだと改めて思う。
やがて日が傾いて来た。
ちょうど前方に小高い場所がある。周囲を見渡すことができるので、ここにテントを張って休むことになった。
「じゃあ、また明日の朝にここで」
みんなに挨拶して、僕はオフィーリアと一緒に工房に転移した。
工房の職人たちと少し話をしてから、歩いてうちに戻る。
さっきまで未開地にいたのに妙な感じがする。
遠距離を一瞬で移動できるんだから、やはり転移魔法は凄いな。




