閑話 ドワーフの鍛冶師の述懐
儂の名はアイアコス。ドワーフの鍛冶師じゃ。
鍛冶の腕にはそれなりに自信がある。
今はフェアチャイルド辺境伯領で槌を振るっとる。
魔物の攻勢を支えきれず、樹海の故郷を出んといけんようになった。
ちょっとずつ闇の力は増しとったが、世界樹が外の地脈から切り離されて弱ってからは、坂道を転げ落ちるように状況は悪うなっていった。
魔物の跋扈する樹海で族長夫妻が殿を務めてくれたおかげで、儂らはなんとか脱出できた。
樹海で二人とはぐれたことになっとるが、本当のことを分かっとる者も多い。
まだ子どもなのにテオは両親を亡くし、一人になってしもうた。
それは儂らが弱かったせい。
本当に悔しいことじゃ。
一番つらいテオが泣かずにこらえとるんじゃから儂らが泣いちゃあいけん。
じゃが、ときどき酒を飲んで族長夫妻のことが思い出されると、涙を止められんことがある。
そのテオを本当の家族のように受け入れてくれた辺境伯夫人のメアリー様はまさに聖女じゃ。
おかげでテオは笑うことが増えたようじゃ。
そして辺境伯は、樹海から体一つで逃げて来た儂らに家と食べ物をくれて税も免除してくれた。
本当に感謝しかないのう。
二人の息子のウィリアム様が一人で家を建てたのには度肝を抜かれたのう。
その恩を返さんといけんと思うて、みんな頑張って鍛冶や道路工事をしとる。
儂は鍛冶師じゃが、道路工事も皆に喜ばれるから遣り甲斐がある。
しかしウィリアム様は付与魔法も人並み外れとって、恐ろしいほど才能のある生産者じゃな。
ウィリアム様の付与した鉄は凄い素材で、鍛冶の腕の振るいがある。
それに視野が広くて優しい。
生産スキルで剣を作れるのに、儂らが打った剣のほうが良いと言うてくれる。
まあ儂らが精魂込めて打った刀は理屈ではないところで切れ味は良いんじゃが、それを見抜いて儂らの鍛冶師としてのプライドを尊重してくれるとはのう。
大人でもなかなかできんことじゃ。
テオがウィリアム様に弟子入りしてメキメキと力を付けたのも嬉しいことじゃ。
体が細くて鍛冶が苦手なことを気にしとったあの子の才能は開花し、今ではウィリアム様の片腕になった。族長夫妻にもテオの活躍を見せたかったのう。
最近、フェアチャイルド家騎士団は樹海の中層に探索の範囲を広げた。
そしてミスリル鉱石を見つけという知らせがあったとき、ドワーフの鍛冶師はみな盛り上がった。
そりゃあフェアチャイルド領は良い場所じゃ。
じゃが樹海ではミスリル鉱石を使って鍛冶をしておった儂らには、やはりミスリルを使いたい気持ちがあった。
ミスリルは扱いが難しいが、それだけに遣り甲斐のある素材じゃ。
柔らかいのに強いこと、魔力をよく通すことは分かっておるが、底知れぬ素材で、儂らもその全てを引き出しておらん気がする。
この地でもミスリルを使って鍛冶をできるようになったことを皆で女神様に感謝した。
しかもウィリアム様が付与をすると、何と4つも特性が付いた。
普通のミスリルでも十分なんじゃが、4つの特性の付いたミスリルを素材にできるのは鍛冶師冥利に尽きる。
最近、ウィリアム様がテオと一緒にミスリルの剣を打ったと聞いた。
ミスリルを扱うには魔力がたくさんあった方がええけえ、人並み外れた魔力量のある二人は良い剣を打ったようじゃ。
それでもウィリアム様は普段は儂らにミスリルの鍛冶を任せてくれる。
じゃけえ、みな頑張らんといけんと思うとる。
少し前に族長はフェアチャイルド家を「ドワーフの友」と呼んだ。
重い言葉じゃが、みな納得しとる。
儂らはフェアチャイルド家と共に歩んでゆこう。




