第86話 探索隊と一緒に
転移魔法がどんなものか確認したところで父上に報告に行った。相談したいこともある。
「父上、すみませんがご報告とご相談があります」
「今度はどうしたんだい?」
「実は生産のための素材を得るために転移できるようになりました」
「えっ? 今、転移と言ったかい! 伝説と言われている魔法じゃないか」
「はい、おかげさまで習得できました。これで少しは救世主らしくなった気がします」
「いや、これまでも十分多くの人を救ってきたと思うよ。それにしてもウィルの生産スキルは凄いね」
「ありがとうございます。たいていの場所には何かの素材はありますから便利です。いろいろ試した結果、一度行ったところには転移できることが分かりました」
「なるほど、知らない場所には転移できないんだね。それで、相談というのは何だい?」
「はい。昼の間に探索隊に同行して夜はうちに戻ることを繰り返せば、転移魔法で南の未開地に行けます。危なくなれば転移しますから、私も同行することを認めてほしいのです」
「うーん、そうか。ウィルはまだ13歳なんだがな……」
父上は考え込んだ。
「ウィル、誰かと一緒に転移することはできるのかい?」
それは考えていなかった。
結果から言えば、手をつなげば一緒に転移することができた。
実験に付き合ってもらったオフィーリアが「隣にいるだけだと駄目なら、手をつなげばどうでしょう」と言ってくれたおかげだ。
オフィーリアと手をつなぐのは何か恥ずかしかったな。
「よし、護衛のオフィーリアも一緒に転移できるなら探索への動向を許可しよう」
良かった、父上の許可が得られた。
「過保護だと思うかい? ウィルが強くなったのは知っているけど、18歳になったら領主として独立するから、それまで自分の手の届くうちは出来る限り守りたいと思ってしまうんだよ」
そう言って頭を掻いている父上に不満などあるはずもなく、感謝しかない。
これで僕も探索に参加できる。
みんなを守る強さはないけれど、生産スキルは多彩だから支援することはできるだろう。
たとえば転移魔法と収納魔法があるから、干し肉じゃなくちゃんとした食事をノーザンフォードから未開地に届けられる。
ともあれ、まずは探索隊に合流しよう。
探索隊の予定しているルートを考えて、辺境伯領の南部の町ティンターンで合流することにした。
ティンターンはフェアチャイルド辺境伯領の南端に位置し、南の未開地に最も近い町だ。
「おそらく探索隊は明日の夕方までにティンターンに到着するでしょうから、明日の午後に参りましょう」
「ありがとう、オフィーリア。それじゃあ明日、昼食を食べたら出発しよう」
オフィーリアは戦闘も強いけれど、頭も良い優秀な騎士だ。
こんなふうに僕のスケジュールも考えてくれる。
次の日の朝、出発する前に工房の主なメンバーに集まってもらって、しばらく昼間は不在にすることを伝える。
ただし、カーペンターやメイベルたちも信頼できるけれど、秘密を話すことが負担になってもいけないと思うから、詳しい事情は話さないことにした。
「すまないけれど、今日からしばらく昼間は用事があって不在にするので、留守をよろしく頼みます」
僕はこれまでも工房の代表とはいってもいないことが多かったので、みんな事情を詮索せずに了解してくれたのはありがたい。
転移するところを人に見られて驚かれないよう、工房の僕の部屋から転移することにした。
工房はみんなマイペースで過ごしているから、いつの間にかいなくなってもおそらく問題ないし、もし誰かが不思議に思ったときはテオとオリヴァーが誤魔化してくれることになっている。
工房のカフェでランチを食べてから自分の部屋に戻ると、しばらくしてノックがあった。
「ウィリアム様、失礼いたします」
「オフィーリア、お疲れ様。危険な場所に行くのに付き合わせて申し訳ない」
「ウィリアム様の護衛は私の任務です。それに、遣り甲斐のある任務だと思っていますよ」
オフィーリアと手をつないで、転移魔法に集中する。
ティンターンには以前に父上と一緒に行ったことがある。しかし、何度手をつないでも恥ずかしい。何とかならないのかな。
町の中にいきなり転移するわけにいかないから、町の門の近くをイメージする。
転移魔法が発動して、景色が急に変わる。
「ウィリアム様、誰も周囲にいないようです」
オフィーリアの報告に胸をなでおろす。
そこから町までは、街道を歩いて行く。
領境が近くて未開地には魔物も出るから、町は城壁で囲まれている。
オフィーリアが用件を告げると衛兵は敬礼してくれた。
そして代官の屋敷に行く。
「代官殿。私はフェアチャイルド家の騎士オフィーリアと申す。事情があり、ウィリアム様と共にこの町に参った。これが閣下の書状だ」
念のために父上に書いてもらった手紙をオフィーリアが渡した。
町の代官は驚いたけれど、以前に僕が来たときのことも覚えてくれていて歓迎してくれた。
午後のティータイムを代官と一緒に過ごし、少し世間話をする。
聞いてみると、ティンターンへの魔物の襲撃は以前より少し増えているようだった。やはり影響は出ているんだな。
夕方になり、そろそろ探索隊が来る頃に正門の近くで待つ。
やがて街道の向こうから、騎士たちとエルフたちが馬に乗ってやって来るのが見えた。
「やあみんな、二日ぶりだね」
「ええ? ウィリアム様ですか?」
「どうしてここに?」
みんなが混乱するのも無理はないな。
「事情がある。あとで説明するから、取り敢えず移動しよう」
オフィーリアの冷静な言葉にみんな落ち着いてくれた。
町の宿屋で事情を話すと、「転移魔法ですかい。もうウィリアム様は何でもありですな」とジェームスに呆れられた。
「凄いっす。さすがウィリアム様です」
「さすが救世主様です。転移魔法を習得されるとは実に素晴らしい」
ギルバートとエルフの探索隊長のアウラスニールは喜んでくれた。最近、この二人は不思議と息があっているみたいだ。
「僕も転移できて驚いてるよ。でもこれでみんなと一緒に探索できる」
「やれやれ、危ない任務は周囲に任せてほしいんですがね。閣下も認めなすったんじゃ仕方ねえです。エルフの皆さんは異論ないですかね?」
「ええ、救世主様と共に探索できるのは私たちが喜びとするところです」
「済まないね、ジェームス。そしてありがとう、アウラスニール。できるだけ心配をかけないように気を付けるから」
次の日の朝にまた来ると言い残して、僕はオフィーリアと一緒にノーザンフォードに転移して戻った。




