第85話 転移魔法の習得
南の未開地へ向かう探索隊を見送った後、僕は工房に戻った。
けれど仕事が手につかない。
本当は僕も一緒に行きたかった。
まだ僕は子どもだし、強くないことは分かっている。
でも、もし転生するときに勇者か賢者を選んでいれば、今頃は凄く強くなっていて、自分が探索に行けたんじゃないか?
僕が生産者を選んだせいで、エルフや騎士たちを危険な目に遭わせることになったんじゃないか?
ぐるぐると考えていると、生産スキルもうまく発動しない。
「師匠、今日は調子が悪いようですね」
いけないな。テオに心配させてしまったようだ。
「ウィリアム様、一息入れましょうか?」
オリヴァーが声をかけてくれたから、作業を中断することにした。
テオとオリヴァーと一緒にカフェで紅茶を飲んだ。
「ウィリアム様が悩んでおられるのは探索隊のことですか?」
オリヴァーはお見通しのようだ。
使徒である二人には詳しい事情も伝えてある。
「うん。僕がもっと強ければ、探索隊に同行して守れたんじゃないかと思って」
「実は二人にも話してなかったけれど、僕は転生するときに勇者か賢者に転生する選択肢があったんだ。でも僕は、のんびりものづくりをしたくて生産者を選んだ」
「そうだったのですか……でも師匠が生産者を選んでいなければ、僕は弟子入りできませんでしたし、メアリー様を救う薬を作れませんでした」
「僕は病気で死んでいたでしょう。ウィリアム様の薬で救われた者は多くいます。病気だけではなく、飢饉でも多くの者が命を落としたでしょう」
「あまりご自身を責めず、ウィリアム様が生産者を選んだことで救われた者が多くいることをどうか忘れないでください」
オリヴァーは優しく微笑んでくれた。
「そうだね……二人とも、ありがとう。きっと生産者が僕にはあっているし、みんなの役にも立てているんだと思う」
「ただ、それはそれとして、仲間が危険な場所に行くのに、自分は安全な場所にいるのは落ち着かないんだ」
「そこは適材適所ですよ。エルフは地脈を知覚できて、騎士は戦闘の専門家です。何でも一人で背負い込まれなくても良いと思います」
「ありがとう、オリヴァー」
「師匠はやはりフェアチャイルド家の人ですね。辺境伯閣下は高貴なる義務の権化のような方ですが、師匠が自分も危険な場所に行きたいと思うのは、お父上と同じなんだと思います」
「そうなのかな?僕にもフェアチャイルド家の血が流れていると思ってもらえるのはとても嬉しいよ」
「もし師匠が探索隊と一緒に行ったほうが良いのなら、スキルで行けるようになる気がします」
そうなのかな?
その次の日、樹海に鉄鉱石を取りに行くことを頼まれた。
僕とテオは収納魔法の収納量が大きいから、ときどき依頼を受けている。
それは構わないけれど、樹海の鉱床までの往復には時間がかかるから、もっと早く移動できるといいのに。
そう思いながら、テオと一緒に工房の僕の部屋を出ようとしたところで、突然、素材を取りにいくために一瞬で移動できることが分かった。
「師匠、お身体が光っています!」
テオが慌てて部屋のドアを閉めて、他の人に見られないようにしてくれた。
「ありがとうテオ。もしかすると素材を採取するために一瞬で移動できるようになったかもしれない」
「それはまた、凄い魔法ですね」
「ちょっと樹海の鉱床まで行けるか試してみるよ」
今日の目的地である樹海の鉄の鉱床を思い浮かべる。
うん、いけそうだ。
僕は生産スキルを発動した。
次の瞬間、立ち眩みがしてうずくまる。
何だか乗り物酔いをしたときみたいだ。
ゆっくりと立ち上がると、そこは工房ではなかった。周りを木に囲まれたところに鉄の鉱床が露出している。
どうやら本当に樹海に一瞬で移動できたようだ。
いや、これは転移したというべきかな。
嬉しいけれど、あまり長居をすると魔物が出てきてしまう。
急いで鉄鉱石を収納すると、今度は工房の自分の部屋を思い浮かべる。
スキルを発動すると、また立ち眩みがした。
「師匠、大丈夫ですか?」
「ありがとうテオ、大丈夫だ」
「それより、本当に樹海に移動できたよ! どうやら素材を採取するために転移できるようになったみたいだ」
「それは凄いですね! 転移魔法を覚えるとは。お身体が光ったのは覚醒の印だったのですね」
そういえば、テオが覚醒した後に付与魔法を使えるように覚醒したけれど、オリヴァーが覚醒した後には僕は覚醒していなかった。
また覚醒して転移魔法が使えるようになったのかな。
「昨日、スキルで何とかなるんじゃないかと言いましたけど、本当に南の未開地に行けるかもしれませんね」
「どういうことだい?」
「生産スキルはいろんな素材を使いますから、たいていの場所なら何かの素材を得られます。まして未開地のような場所ならなおさらですよ」
「そうか! 探索隊のいる場所で採取すれば、そこまで転移できそうだね」
「ええ、そして危なくなったら転移で脱出できるのですから、師匠が探索に参加することに辺境伯閣下も反対なさらないでしょう」
おお、道が開けてきたようだ。
「まずは他の場所にも転移できるか試してみるよ」
どこに行こうかな?
そうだ、転移魔法のことを知っているかもしれないエルフの古老さんのところに行ってみよう。
「じゃあ僕は鉄鉱石を納めてきますね」
「ありがとう、テオ。それじゃあ鉄鉱石を出すね」
僕が収納していた鉄鉱石を出すと、それをテオは収納してくれた。
「僕はエルフの森に転移してみるよ」
エルフの隠れ里を思い浮かべてスキルを発動する。
周囲の景色が変わり、立ち眩みがする。
ゆっくり立ち上がると、驚いたエルフたちが寄って来た。
「ウィリアム様、いつの間にいらしたんですか?」
「『迷いの森』の魔法に反応がなかったんですが?」
「ああ、急に来てしまってすみません。実は転移魔法を習得したみたいなんです」
「「転移魔法ですか?」」
エルフたちは驚いた。
そこに古老さんがやって来た。
「ウィリアム様、素晴らしいです。転移魔法はとても稀な時空魔法ですから、今のエルフには使える者はおりません」
そうなんだ。攻撃的な魔法じゃないところは生産者らしいけれど、これで少しは救世主らしくなるかな。
翌日、転移魔法でどんなことができるかを検証した。
いろいろ試した結果、一度行ったことのある場所には転移できることが分かった。
どこまで遠くに行けるか試すために、王都のフェアチャイルド家の屋敷をイメージしたら、驚いたことに転移できた。
屋敷の管理人を驚かせないようにすぐに工房の自分の部屋に戻る。
遠距離でも魔法で跳べることが分かったのは大きな収穫だ。
でもごっそりと魔力が減った。たぶん三往復か四往復は行けるけれど、五往復は無理な気がする。
王都のような遠くまで転移するときは、残っている魔力量を気にしないといけないようだ。
それでも、とても便利な魔法を習得できた。




