第81話 エルフの探索隊と騎士団の有志
夏至祭も終わり、いよいよ地脈のクロスポイントを探すエルフの探索隊が出発することになった。
世界樹が成長できる太い地脈が交差するポイントは、フェアチャイルド辺境伯家の南の未開地にあるらしい。
未開地は誰も統治していない土地だ。
魔物のほかに野盗もいるだろうし、補給もできない危険な土地だ。
四つの特性を付与したミスリル装備を探索隊のエルフたちに渡せたのは良かったけれど、心配がないわけじゃない。
樹海から逃げて来たエルフたちは最初70名だったけれど、王国の各地でひっそり暮らしていたエルフが次第に集まってきて、今では120名になっている。
それでも探索隊に参加する15名は全体の一割強になる。
精鋭揃いだけれど、彼らにもしものことがあればエルフの一族への影響は大きい。
地脈を感知できるのはエルフだけだから仕方ないのは分かっているけれど、本当は僕も付いていきたいし、父上に頼んで騎士たちに同行するよう頼みたい。
けれど、領地の外に騎士を派遣できるのは公爵家だけだ。
そう思っていたら、フェアチャイルド家の騎士たちが驚くようなことを申し出てくれた。
「休暇を取って個人的にエルフの探索に同行してくれるのかい?」
フェアチャイルド辺境伯家の騎士として領地の外で活動することはできない。
だから、休暇を取って個人としてエルフたちに同行すると申し出てくれたんだ。
それも1人、2人じゃなく10人も。
「樹海の中層の探索じゃあ随分エルフたちに世話になりやしたから、少しは恩を返さなきゃいけねえやと思いまして」
「何をしに行くのか聞いちゃあいませんが、彼らの顔は真剣だ。何か大事な用が南の未開地にあるんでしょう」
10名のとりまとめ役となった古参騎士ジェームスはそう言った。
フェアチャイルド家騎士団が樹海の中層の探索を始めた頃はエルフたちが同行してくれていた。
騎士団が慣れて来たのでいったん同行しなくなったけれど、カーディフ家との合同探索では想定外の魔猪の群れが出た。
そのことで、樹海の探索にはまた探知魔法の得意なエルフが同行してくれるようになった。うちの騎士たちは恩義を感じていたようだ。
10人の中には普段は僕の護衛をしているギルバードも入っている。
「ウィリアム様の護衛を休んですみません。ただエルフたちの顔を見れば分かりますが、彼らはみんなウィリアム様に忠誠を誓ってます」
「つまり俺の仲間ですよ。仲間に危険があるなら放っちゃおけません。これはオフィーリアさんも同じ考えです」
そんなふうに思っていてくれたんだ。
オフィーリアとギルバートは今では僕の専属護衛になっていて、父上と団長のリアムから僕個人に仕えるように言われているらしい。
エルフたちといい、僕は彼らの忠誠に応えられるだろうか。
休暇を取って危険な旅に出るのは覚悟が必要なことだ。
騎士としての仕事で病気や怪我をしたら名誉なことだと考えられているし、治療は辺境伯家の責任で行い、万一のときは家族に補償をする。
でも休暇中の病気や怪我では名誉はなく、治療費も自腹だ。そもそも未開地だとちゃんとした治療が受けられない。
それでも騎士たちが同行してくれるのは心強い。
エルフたちも強いけれど、戦闘を専門にしているわけじゃない。
その点、戦う訓練をずっと積んでいる騎士は専門家だ。
重量級の魔物と戦うのは、体重の軽いエルフより騎士のほうが得意だ。
それに野盗と戦うことになれば、騎士たちは対人戦の経験も豊富で強い。
「本当にありがとう。領地の外だから辺境伯家としては動けないし、済まないけれど詳しいことは言えない」
「けれど、エルフたちは世界のために危険をおかして探索に行くんだ。その護衛をしてくれるのはとてもありがたい」
僕は騎士たちに頭を下げた。
「僕からの餞別を渡すから工房に来てくれるかな」
やってきた騎士たちに、工房で保管していたミスリルの武器と防具を渡す。どれも四つの特性を付与してある。
「いやいや、こんな貴重なものは受け取れませんぜ」
「いやジェームス、どうしても受け取ってほしいんだ」
ここは僕も譲れない。
「みんなの気持ちは嬉しいけれど、もし怪我をしたら未開地だと治療もできない。未開地では何があるか分からないから、可能な限り良い装備で行くべきだ」
エルフたちも心配だけれど、騎士たちも無事に帰ってきてほしい。
危険な探索に個人として行ってくれる騎士たちのためにも、父上に世界樹や救世主のことなど、すべてを話そう。
その結果、僕は辺境伯家にいられなくなるかもしれないけれど。
なんとか父上にエルフの探索隊に騎士たちが同行する必要性を理解してほしい。
そうすれば、もし騎士たちが未開地で怪我をしたり病気になったりしたとき、休暇中じゃなく仕事中のこととして扱ってもらえるだろう。




