第78話 フローラ殿下と工房スタッフ
夏至祭までの間、僕はフローラ殿下にフェアチャイルド辺境伯領を案内することになった。
なぜか殿下はレティといきなり仲良くなったみたいだから、レティも同行している。
「あまり見どころもないのですが、まずはノーザンフォードの街をご案内します」
うちの騎士と近衛騎士に警備されながら、殿下と街を散策する。
「王都に比べると店の種類も少なくて退屈かと思いますが」
「ご謙遜ですわ。ノーザンフォードの街は活気があって、お店にはたくさんの品物がありますね。領内が栄えていることが分かります」
おお、街を少し見ただけでそこまで判断されるとは、殿下は聡明だ。
「どうもありがとうございます。領主の息子として嬉しく思います」
「街を見ただけでそこまで分かるのですね。殿下のご慧眼に驚きましたわ」
殿下は苦笑された。
「スカーレットさん、あまりお褒めにならないで。実はオリヴァー先生から教えられたことの受け売りなのです」
「いや、オリヴァーの教えをすぐに実践できるのは殿下の非凡さを示していますよ」
「ウィルの言うとおりだわ」
ノーザンフォードの街から辺境伯の館に戻る途中で工房に寄った。
「まあ、これがウィリアムさんの工房なのですね。二つとも個性的な建物ですわ。特に貝が重なったような形は初めてみました」
「新しいものづくりに挑む工房ですので、変わった形にしてみたんです。中をご案内しますね」
殿下を新工房のカフェにお連れした。
「あら、太陽の光が差し込んで明るいのですね。椅子は座り心地が良いですし、素敵な場所ですね」
「ありがとうございます」
「ウィルたちはここで工房の運営を相談しているのよね」
「そうだね。みんなが寛ぎながら話せる場所にしたいと思って作ったんだよ」
「殿下、工房の主なスタッフをご紹介させて頂いて良いでしょうか?」
「ぜひお願いいたしますわ」
僕はテオ、メイベル、カーペンター、エイルとオリヴァーを殿下にご紹介した。
「テオドールと申します。私はドワーフです。樹海の奥から一族と一緒に逃れてきて、フェアチャイルド辺境伯に保護して頂きました。今はウィリアム様に弟子入りして生産スキルを学んでおります」
「いや、テオは弟子というより、私のものづくりの相棒です」
「テオドールさんはドワーフなのですね。樹海の奥では魔物の脅威が増しているとのこと、父も心配しておりますわ」
そうか、陛下も気にしておられるんだな。
「ドワーフの方々は今では落ち着いて暮らしているのですか?」
「ええ、辺境伯閣下は私たちに食料と住居を援助してくださり、税もしばらく免除してくださって、一族はみな安心して暮らしています」
「ちなみに家を作ってくれたのは師匠のウィリアム様です」
「まあ、そうでしたの。さすがウィリアムさんですね」
メイベルは貴族の娘らしく落ち着いて殿下に挨拶をした。
フローラ殿下が透明石鹸を気に入って使っているという話をされるとすごく喜んでいた。
カーペンターとエイルはがちがちに緊張していたのは無理もない。でも、殿下が優しく応対されるので少しずつ落ち着いたようだ。
最後にオリヴァーをご紹介する。ちなみに今日は女装していない。
「お初にお目にかかあります、フローラ殿下。オリヴァー・レバントと申します」
「レバント商会のノーザンフォード支店長をしておりますが、ウィリアム様の工房のお手伝いもしております」
「はじめましてオリヴァー先生、ようやくお会いできましたわ。商業スキルのことを教えて頂いて感謝しています」
「殿下に先生と呼んでいただくのは恐れ多いです」
「そんなことはありませんわ。私は王族なのに剣も魔法も使えないことをただ悔やんで生きていました」
「ウィリアムさんとオリヴァー先生のおかげで商業スキルの良さを知ったことを本当に感謝しておりますの」
「殿下の言はすべての商人が喜びとするでしょう」
「大袈裟ですわ。それからパーティーのときは本当に驚きました。男性なのにあんなに綺麗な少女に変身できるなんてずるいですわ。ねえ、スカーレットさん」
「殿下のおっしゃるとおり、オリヴァーの美少女ぶりは反則だわ」
「あはは、わが国の誇る美少女二人にそんなにお褒め頂けるとは。私の女装趣味に呆れていた両親にも自慢させて頂きます」
オリヴァーは嬉しそうだった。
「ただ、私は美しいものが好きで、自分に似合う恰好を模索するうちに女装するようになりましたが、本物の美少女であるお二人とは比べられるものではありません」
そうなのかな。オリヴァーはいつも明るいけれど、常識からはみ出た大変さもあるんだろう。
ともかく、殿下とレティとオリヴァーで洋服やアクセサリーの話で楽しそうに盛り上がっているから、三人が仲良く話せているのは良かったかな。




