第77話 フローラ殿下の来訪
※今回はフローラ殿下の視点です
初めて王国の西部に来ました。
街道の小高いところに差し掛かると、前方にノーザンフォードの街が見えてきました。
王都を馬車で出てから四日目になります。
以前は一週間かかっていたと聞きますが、ここまでずっと石畳の道路が整備されているので、ずっと早く着きます。
道路が舗装されているおかげで馬車はあまり揺れません。でこぼこ道をひどく揺られることを覚悟していましたのに。
これもウィリアムさんの功績です。
生産スキルと土魔法を組み合わせて石畳の道路を作る方法を考えたことは、地味なようですが王国を大きく変えています。
以前よりも早く人も物も行き来できることで交易は盛んになり、何かあったときに騎士が早く駆け付けられることは治安も良くしています。
ウィリアムさんに手紙でそのことを書くと、ドワーフたちのおかげだと返信に書いてありました。
確かに土魔法が得意なドワーフ族が活躍していますが、ここまでドワーフ族が全面的に人に協力するのは前例がないようです。
お父様はドワーフの信頼を得たウィリアムさんとフェアチャイルド家の功績だと考えています。
私もそう思います。ウィリアムさんは謙虚ですね。
今回ノーザンフォードを訪問する理由は、第一には乾燥に強い小麦を開発して旱魃による凶作を食い止めたウィリアムさんの功績を讃えるためです。
でも、それだけではありません。
実は、お父様からはウィリアムさんの人となりを見てくるように言われているのです。
王都を発つ前にお父様が教えてくださったのは、アルビオン王国は剣と魔法に偏り過ぎたせいで軍事力はそこそこあっても内政が充実せず、経済が発展していないので国力は伸びていないということでした。
それに比べて北のヴァンダル帝国は、今の皇帝が即位してから内政を重視して農業や工業に力を入れて国を富ませ、国力をどんどん伸ばしているそうです。
そんなところに現れたのがウィリアムさんです。
破格の生産スキルの能力を発揮して、この国を変えつつあります。
お父様はウィリアムさんを象徴として引き立てることで、内政を充実して国を富ませることに貴族の目を向けさせたいと考えているようです。
国王であるお父様が剣と魔法に偏りすぎだと考えていることは、商業スキルを持つ私にも嬉しいことでした。
これまで剣も魔法も使えないことで塞ぎ込み、お父様ともきちんと話してこなかったことを反省しました。
ウィリアムさんは一度お会いしただけですが、手紙を通じても、その謙虚な人柄と優しさは伝わっていましたから、国として引き立てることに私も賛成です。
ノーザンフォードに行ってウィリアムさんにお会いするのは嬉しいのですが、私は商業スキルの良さを教えてもらって感謝もしていますし、客観的にウィリアムさんの人となりを見る自信はありません。
そうお父様にお話ししたら、
「いや、フローラが適任なのだ。別にウィリアム君のあら探しをしようというわけではない」と笑顔を浮かべられました。
「むしろウィリアム君の良さを見つけてきてほしいのだ。ウィリアム君を大きく引き立てると反発する貴族もいるだろうから、彼らを説得する材料は多いほうがいいのだ」とのことでした。
そういうことなら確かに私は適任かもしれません。
それに第三者としての視点から評価するのは、私に同行する近衛騎士団のオーギュスト副団長が担うようです。
オーギュストはお父様から信頼されている騎士です。
アルビオン王国では王国騎士団を近衛騎士が指揮するのですが、オーギュストは王国各地で功績をあげています。
そんなことを考えているうちに、ノーザンフォードに着きました。
フェアチャイルド家の皆さんが迎えてくれます。
「フローラ王女殿下、ノーザンフォードにお越し頂き、誠にありがとうございます」
「歓迎致しますわ」
真面目で誠実そうな辺境伯と、優しく包容力のありそうな夫人。
「フローラ・アルビオンです。この度はお邪魔致しますわ」
この両親のもとで育つことでウィリアムさんの人柄は形作られていったのでしょう。
「お久しぶりです、フローラ殿下」
「ええ、お久しぶりですね、ウィリアムさん」
ウィリアムさんに久しぶりに会えました。王都で会ったときと変わらず優しく穏やかな雰囲気です。
「はじめまして、フローラ殿下。ソフィア・フェアチャイルドと申します」
妹のソフィアさんは可愛いですね。
その晩は西部の貴族が集まって歓迎パーティーが行われました。
何人かの貴族と社交的な会話をして、ウィリアムさんと話そうと思ったら、その隣で楽しそうに話している女の子の顔が見えました。
そして私は衝撃を受けました。
何と表現したらいいのでしょう?
神様のいたずらと思うほどに整った容貌。まさに絶世の美少女です。
驚いていると、一人の少女が声をかけてきました。
「殿下、あの者は気にしてはいけませんわ」
その少女はカーディフ伯爵家令嬢のスカーレットさんでした。
スカーレットさんは秀でた剣術スキルを持ち、容姿も優れていることで王都でも名を知られています。
実は以前の屈折していた頃の私は、天が二物を与えたスカーレットさんに複雑な感情を持っていました。
「殿下、実はあの綺麗な人は男性なんです」
「えっ? 今なんとおっしゃいましたの?」
聞き間違いかと思いましたわ。
「彼の名はオリヴァー・レバント。レバント商会のアレックス会頭の息子です。殿下はご存知なのでは」
もちろん知っています。といいますか私の商業スキルの先生ですが、あの美少女がオリヴァー先生?
混乱しているとスカーレットさんは苦笑いを浮かべました。
「ウィルの周りには変わり者が多いのですが、美しい者も多いのです。オリヴァーの美少女ぶりには私も驚きましたし、エルフの女性たちもとても綺麗なんですよ」
「まあ、そうでしたの」
「ええ、私のことを美少女という者もいますが、私などたいしたことはありません。殿下ほど容姿に恵まれていれば話は別でしょうけれど」
天が二物を与えたスカーレットさんがそんなふうに思っていたなんて。
その瞬間、私は理解しました。スカーレットさんも私と同じで、自分に自信をもてなくて悩むことのある女の子だと。
そして気が付くと、スカーレットさんの手を握っていました。
「スカーレットさん、私は剣も魔法もできず、自分のことをちょっと顔が良いだけの人形だと思っていましたわ」
「実は貴女のことは剣も得意で美少女で、天は二物を与えたと羨ましく思っていたのです」
スカーレットさんは目を丸くしました。
「でも、ウィリアムさんのおかげで商業スキルの良さを知り、ようやく前向きになれました。久しぶりに会ってお話ができると思ったら、隣にもの凄い美少女がいて」
「ウィリアムさんは優しく穏やかな外見と違って恐ろしいまでの能力がありますし、予想を超えて回りを驚かせる困った人みたいですわね」
「そうなんですよ、殿下。ウィルには驚かされてばかりで。でも気になるし、困り者なんですよ」
ああ、やはり。私たちは同じなのですね。良い友人になれそうです。
スカーレットさんと私は微笑みあい、今度はスカーレットさんから私の手を握ってくれました。




