第76話 陛下からの手紙
小麦の収穫が本格化し、もうじき夏至祭が行われる。
そこに驚くべき知らせが飛び込んできた。
「実は昨日、陛下からの手紙が届いた」
朝食の席で父上は話を切り出した
「今年の夏至祭には王家からの使者としてフローラ殿下が臨席される。旱魃による凶作を防いだ当家の功績を讃えて、一緒に豊作を祝うためだそうだ」
「まあ、王女殿下が西部にいらっしゃるなんて」
「凄いですわ! これもお兄様の新しい麦のおかげですね」
母上とソフィーは盛り上がった。
王女来訪のニュースにノーザンフォードの街も沸き返った。
西部に王族が来るのはどうやら久しぶりらしい。
オリヴァーは早速殿下に工房のグッズを贈ったようだ。
「これは絶好の機会です。もし殿下がウィローズのグッズを身に着けてくださったら凄くいい宣伝になります」と意気込んでいる。
殿下からは僕にも手紙が来た。
「ウィリアムさんの功績は大きいと父も褒めていますわ。これでようやくウィリアムさんにお会いできます」と書いてあった。
しばらく殿下にお会いする機会はないと思っていた。
いろいろあったから随分前のような気もするけれど、初めて殿下とお会いしたのは今年の3月だから、まだ3カ月くらいしか経っていない。
みんなが殿下の来訪で喜んでいる中、母上は考え込み始めた。
「フローラ殿下の来訪は嬉しいのですけれど、それだけでいいのかしら」
しばらくして、母上はすっくと立ちあがると宣言した。
「今年の夏至祭にはレティちゃんも招きましょう! 殿下だけじゃなくレティちゃんもいたほうが盛り上がると思うの」
「夏至祭はメアリーの思うとおりに進めてくれればいいよ」
父上は苦笑しながら答えた。
こうして、なぜかレティも夏至祭に来ることになった。
それはさておき、僕は自分にできることをしよう。
工房では、このところミスリル素材への付与をいろいろ試している。
ミスリルはレバント商会を通じて売却をして、家の財政に大きく寄与した。
それに加えて、フェアチャイルド家騎士団の装備も作ってほしいと父上から頼まれているんだ。
幸い、ミスリルは豊富にある。
僕の手元にはフェアチャイルド辺境伯家の採掘したミスリルだけではなく、エルフの皆さんから託されたミスリルもあるから。
実は特性を二つ付与した鉄素材で作った装備をエルフの皆さんに渡したところ、訓練も兼ねて樹海の中層の探索を進めていたようだ。
そして僕らが見つけたものとは別のミスリル鉱脈を見つけたと聞いた。
樹海は誰の領土でもないので、素材も資源も発見者のものになる。
ミスリルは四つの特性を付与できる。
武具の素材には刺突強化、斬撃強化に加えてレティの剣のときと同じように耐久性強化を付与した。
もう一つ付与できるから、打撃強化を付けた。
斧だけじゃなく槍も剣も防具の上からたたくように使われることがある。
次にミスリルに防具の素材としての付与をする。
これまでに付与したことのある斬撃耐性、刺突耐性、打撃耐性に加えて、新たに魔法耐性も付けた。
魔力を通しやすいミスリルに魔法耐性を付けるのはそれなりに苦労したけれど、レティの剣に魔法剣強化を付けた経験も活きて、どうにか付与できた。
上位の魔物には魔法を使うものもいると古老さんから聞いた。
そんな魔物に出会ってから開発しようとしても間に合わないかもしれない。
転ばぬ先の杖だと思って頑張った。
四つの特性を付けたミスリル素材を使えば、良い武器や防具になるだろう。
レティの剣は特殊な魔法剣だから僕とテオで打ったけれど、通常の剣や槍はドワーフの鍛冶師たちに頼む。
工房は他の人ができない生産をするのが基本だ。
それにフェアチャイルド家をドワーフの友と言ってくれた以上、ドワーフたちに機密情報を知られても何の心配もない。
僕の秘密を知ったうえで支えてくれるエルフたちにも隠し事をする必要などないから、四つの特性を付与したミスリル装備を渡すことにした。
未開地のクロスポイントを探索する予定のエルフたちには僕にできる限りの良い装備を渡したい。
ただし、王国の中ではフェアチャイルド家騎士団以外にはどこまでの装備を渡していいのだろう。
革に二つの特性を付与したときにも問題になったことを思えば、四つの特性を付与したミスリルは外に出さない方が良いのかな。
父上とも相談した結果、陛下に相談することになった。
「陛下には隠し事はあまりしないほうが良いから報告するが、きっと外には出さないようにと言われるだろう」
そして父上の読みどおり、陛下からは辺境伯領の外に売ったり贈ったりしないようにという返事が来た。
「はっはっは、ウィルが急速にいろんなものを作るので陛下も頭を抱えておられるようだ。いや、もちろん気にすることはないぞ。ウィルは良いことをしているのは間違いないからな。おや、他のことも書いてあるようだ」
笑っていた父上の表情が引き締まった。
「今の王国には四つの特性を付与できる魔法師はいないそうだ。今回の功績はしばらく秘匿するが、いずれ公表するときには男爵から子爵に陞爵させると書いてある」
ええ?
まだ成人もしていないのに、もらえる予定の爵位がどんどん上がるとは。
僕は辺境でのんびりものづくりをしたいんだけど。




