第75話 レティの剣
「父上、樹海の中層でミスリルを発見しました」
「本当かい、ウィル! ミスリルはとても高価なんだよ」
父上は椅子から飛び上がる勢いで喜んでくれた。
オリヴァーに聞いたら、ミスリルは金の10倍以上もするらしかった。
「そんなに高いのかい? 今回もかなりの量を採掘したけれど、まだ相当量がありそうなんだけど」
「それは凄いですね。これでフェアチャイルド家の財力は国内屈指になりますよ」
ある意味で恐ろしいな、ミスリルは。
カーディフ伯爵家との合同訓練で見つかったものだから、父上と相談して、一部はカーディフ伯にお渡しすることにした。
そのことに関連して、父上に相談したいことがある。
「カーディフ伯にお渡しするミスリルの一部を使って作りたいものがあります」
「ほう、何を作りたいんだい?」
「レティの剣です。レティの剣術スキルは魔法剣ですから、魔力を通しやすいミスリルを使えば、きっと威力が高まると思うんです」
「なるほど、いいんじゃないかな。きっとトミーも賛成するだろう」
カーディフ伯に父上から手紙で打診すると、すぐに「ぜひよろしくお願いする」という返事が来た。
貴重なミスリルを迷いなく娘のために使うのだから、カーディフ伯も子煩悩のようだ。
まずテオと一緒にミスリルを精練してインゴットを作る。
生産スキルは抽出や精練も魔法で出来るのが便利だ。
元の世界だと金属の精練をすると川の汚染物質が流れ出したり、環境汚染が厄介だった。
ミスリルのインゴットができたら、付与をする。
まずは鉄と同じように刺突強化、斬撃強化を付与してみた。
二つの特性を付与したミスリルをみると、まだ付与できそうな感じがする。
やはりミスリルは鉄より多くの特性を付与できるみたいだ。
そこで、僕はレティのための特別な付与に取り組んだ。
魔力を通しやすいミスリルなら、魔法剣の威力を強化する特性を付けられないかと思ったんだ。
レティが強力な魔物と対峙したときにも負けないよう、魔法剣が魔物を切り裂くことをイメージする。
大切な幼馴染を守ってくれる剣を打てるように願う。
そして付与魔法を発動すると、魔力が右手の先に集まり、魔法陣が浮かんだ。
良かった、うまく付与できそうだ。
温かい光が消えた後、インゴットを鑑定すると、魔法剣強化の特性が付いていた。
「師匠、どんな特性を付けたんですか?」
テオに説明すると、「それはまた凄いですね」と感心してくれた。
満足しながらミスリルのインゴットを見ていると、もう一つ特性を追加っできる感じがする。
剣は刃こぼれするのが大変だとうちの騎士たちから聞いているから、耐久性を強化できないかな。
やってみると上手くいった。
どうやらミスリルは4つまで特性を付与できるようだ。
インゴットが出来ると、いつもならドワーフの鍛冶師に剣を打つように頼む。
生産スキルでつくるよりも良い剣を打ってくれるから。
でも、オリヴァーがアカシックレコードから読み取ってくれたこの世界の古い情報によると、ミスリルは大量の魔力を注ぎながら鍛冶をしたほうが品質が上がるらしい。
だからテオとミスリルの剣を打ってみようと思うんだ。
僕らの魔力量は桁外れに多いし、今なら二人とも身体強化魔法を使って重い槌も振るえる。
あまり人目につかないように新工房の裏庭で作業を始めた。
炉の温度を上げると、ミスリルのインゴットを入れる。
溶けたミスリルの品質を鑑定すると『ミスリル:品質(低)』と出た。
これは予想どおりだ。
次に僕とテオが魔力を注ぐ。
すると溶けたミスリルが銀白色の光を放ち始めた。
鑑定してみると『ミスリル:品質(高)』になっている。
オリヴァーの情報どおり、ミスリルの品質が上がった。
ここで生産スキルを発動して、いきなり完成品の剣にすることもできる。
でもテオと二人で槌を振るう。そのほうがいい気がしたんだ。
「師匠、僕もそのほうがいいと思います」
テオも賛成してくれた。
本来は不純物を叩き出すために槌を振るうから、生産スキルで不純物は分離しているから不要なプロセルのはずだ。
でも鉄剣のときも生産スキルで作るよりドワーフの鍛冶師に打ってもらったほうが良い剣になっていた。
どこか理屈を超えた何かがある気がするんだ。
熱く熱されたミスリルを槌で打つと、テオが相槌を入れてくれる。
たちまち汗が噴き出してくる。
二人で汗を拭いながら作業を進める。
そしてついにミスリルの剣が完成した。
鑑定してみると『ミスリルの剣:品質(最高)』と出た。
「テオ、最高品質の剣ができたよ!」
「本当ですか? 僕にも良い剣が打てたんですね。すごく嬉しいです」
二人でハイタッチをすると、パチパチと拍手が聞こえた。
えっ、拍手?
慌てて振り向くと、レティとソフィア、メイベルにカーペンターとエイルまでいる。
「みんな見てたの? というかレティも来てたんだ」
「ええ、私の剣を打ってもらうのだから、見届けたいと思うのは当然でしょう」
レティは僕らがミスリルの剣を打つと聞いてすぐにとんで来たらしい。
「二人が一心不乱に槌を打つのはとても美しかったわ」
「お兄様もテオも恰好良かったです」
「さすがウィリアム様とテオさん。つい惹きこまれちゃいました」
「ものづくりの神髄を見た思いです。俺らも頑張らないと」
「そうですね、私たちも精進しないといけません」
みんな褒めすぎだよ。僕とテオは二人で照れた。
そこにレティが歩みよって来る。
「剣を見せてもらっていいかしら?」
「ああ、もちろんだよ」
レティは剣を見ると、感嘆した様子でふぅっと息を吐いた。
「素晴らしい剣だわ。この剣にふさわしくなれるよう精進するわね。本当に二人ともありがとう」




