第73話 樹海で合同訓練
週末は一日二話ずつ更新します。次の更新は17時30分です。
フェアチャイルド家の騎士団が樹海の中層に慣れてきたところで、カーディフ伯爵家の騎士たちと合同訓練をすることになった。
工房とドワーフたちで街道を舗装したので、以前よりさらにカーディフ伯領との行き来が簡単になったことも、合同訓練を行うことになった背景にある。
ノーザンフォードはフェアチャイルド辺境伯領の中では北寄りにあり、カーディフ伯爵領の領都であるレクサムは伯爵領の南寄りに位置している。
だから二つの都市は近く、もともと馬車だと片道3時間もあれば着いていた。
道路が舗装されたことで、それが1時間半くらいに短縮し、気軽に日帰りで行き来できるようになっている。
合同訓練にカーディフ家からは騎士10人とレティがやってきた。
レティは剣の訓練に打ち込んでいて、かなりの腕前になっていると聞いている。
フェアチャイルド家からは騎士団長リアム以下15人の騎士と僕とテオ、それにソフィも参加する。
僕も最近は樹海の中でも自分の身くらい守れるし、収納魔法などで騎士たちをサポートできる。テオと一緒に素材を採取するためにも参加する。
妹のソフィは十分な実力があるという古老さんの推薦があって、実戦経験を積むために同行する。
古老さんによると、すでに並の魔法師よりも強力な魔法を撃てるらしい。
ちなみにエルフたちは来ない。
あまり人前に出たがらない種族だし、フェアチャイルド家騎士団の戦いぶりを見て、中層なら僕に大きな危険はないとルーセリナと古老さんが考えたようだ。
エルフたちは僕を大切にしてくれる。
いつも心配してもらって本当に恐縮だ。
樹海の浅層は問題なく通過して、中層に入った。
「ここからは中層なのね。どんな魔物が出るのかしら?」
「魔猪と魔狼が多いね。魔猪は大きくてパワーがある。魔狼は一体一体はそんなに強くないけれど群れで出るのが厄介かな」
「うう、緊張します。皆さんの足を引っ張らないようにしないと」
「大丈夫だよ、ソフィ。騎士たちはだいぶ中層に慣れてきているし」
まず魔狼の一群が現れた。
フェアチャイルド家の騎士たちは慣れていて、狼に囲まれないように一対一の状況をつくって倒していく。
カーディフ家の騎士たちも強い。レティによると精鋭がきているらしい。
装備もドワーフが打った剣や槍を持ち、防具も良いものを身に着けている。
次に現れた魔物は魔猪だ。
「いかがしましょう。私がお相手しましょうか?」
「リアムさん、私に任せてくれるかしら」
「分かりました。スカーレット様のお手並みを拝見いたします」
剣術スキルを鍛えると、一人一人特色のある技が使えるようになる。
レティの技は強力だと聞いている。
「いくわよ、フレイムソード!」
レティの両手剣は赤い炎に包まれた。
「おお、魔法剣ですか。強力な技ですな」
突進してくる魔猪に対し、身体強化魔法を発動したレティは素早い身のこなしで躱し、すれ違いざまに剣を一閃する。
炎の剣は魔猪の片脚を見事に切り裂いた。
魔猪はバランスを崩し、どおっと音を立てて倒れ込む。
突進しない魔猪は脅威ではなく、あとは止めを刺すだけだった。
「レティ、凄いな」
「レティ姉さま、格好良いです」
「うふふ、ありがとう。まだまだ未熟だけれど、私なりに鍛錬しているのよ」
その後も順調に合同訓練は進み、僕とテオは見慣れない植物を採取したりした。
しかし少し中層の奥に進んだところで地面が揺れ始め、お腹に響くような地響きが聞こえて来た。
「リアム、これは?」
「いささかまずいですな。おそらく魔猪の群れでしょう」
魔猪は中層ではたいてい一頭か二頭で現れる。
古老さんからは、深層になると群れで出現するので危険度が上がると聞いていたけれど、まさか中層で魔猪の群れに出くわすとは。
「囲まれると厄介です。壁のあるところに移動しましょう」
リアムが先導して、小高くなっている壁のあるところに急いで移動した。
壁を背にすれば後ろから攻撃されない。
でも、もう一工夫したいな。
「テオ、壁の反対側に土の壁を作れるかい?できれば入り口を広めにする感じで」
「はい、やってみます」
テオが土魔法を発動すると、テオの背後に魔法陣が浮かぶ。
みるみるうちに土の壁が出来た。そして前方は少し開いた感じになっている。
さすがテオだ。注文どおりに作ってくれた。
ドワーフは土魔法が得意な種族だし、エルダードワーフであるテオは非常に優れた土魔法の才能を持っている。
次は僕の番だな。
テオが隆起させてくれた土の壁と、もともとあった反対側の小山の表面を石でコーティングする。
材料は、最近石橋を作った残りの石材だ。収納したままだったのが役に立った。
魔猪が激突しても壊れない頑丈な石壁をイメージして、集中して生産スキルを発動する。
温かい光が消えると、もともとあった壁とテオの作った土壁の両方が石で覆われていた。
「おお、これなら前方だけを警戒すれば良いですな」
ほどなくして、魔猪の群れが近づいてきた。
地面の揺れが強くなり、大きな音を立てながらやってくる。迫力はあるな。
三十頭くらいいそうな感じだ。
両側を石壁に挟まれた場所に差し掛かり、何頭かが壁にぶつかる。
石壁は少し凹んだけれど、壊れてはいない。
魔猪の群れの勢いは止まった。
よし、これで体当たりの威力が小さくなる。
魔猪たちは再び動き始め、石壁の間を窮屈そうにぶつかりながら向かってきた。人の背丈の倍くらいある大きな魔物だから、二頭並ぶのがやっとだ。
「今だ、撃て!」
リアムの合図を受けて、騎士団の魔法使いたちが魔法を放つ。
「ファイアランス!」
「ウォーターカッター!」
先頭の二頭の魔猪に火魔法や水魔法が炸裂する。
たまらず二頭は倒れ、黒い煙を残して消えるが、すぐに次の二頭が現れる。
「ウインドカッター!」
「ロックバレット!」
今度は風魔法や土魔法が唱えられ、再び二頭の魔猪が倒れた。
だが、すぐに新手が来る。
古老さんから聞いたとおり、魔猪が群れで現れると厄介だ。
このまま騎士たちと肉弾戦になると、被害が出るかもしれない。
そう心配すると、僕の隣で魔力が急速に高まった。
これは、ソフィーか?
横を向くと、妹が真剣な表情で魔力を練り上げていた。
「行きます、テンペスト!!」
テンペストは風の上級魔法だ。もうこんな魔法まで覚えているのか。
猛烈な虞風が吹き荒れ、魔法の発動地点の後ろでも立っているのが大変なほどだ。
見ると、巨大な魔猪たちが横倒しになったり、ひっくり返ったりしている。
両側の石壁にもヒビが入った。
凄い威力だ。




