第71話 久しぶりに三人で外出
「ロゴマークを付けたら次は宣伝ですね」
工房をブランド化しようと意気込むオリヴァーは、今度は工房の宣伝を考えているようだ。
「周囲から憧れられている人に工房の製品を持ってもらい、私もあんなふうになりたいと多くの人に思わせましょう。幸い人気のある人はウィリアム様の周囲に多いですしね」
そうしてオリヴァーに集められたのは、幼馴染のレティと妹のソフィーと、なぜか僕だった。
レティは美少女だし、ソフィーも可愛いから分かる。
「どうして僕も集められたのかな?」
「おや、意外ですか? ウィリアム様に憧れる男の子は増えていますし、女の子たちからの人気もありますよ」
自分ではとてもそう思えない。
最近までぽっちゃりしていたし。
僕が商品を持ってみせても宣伝にならないんじゃないかな。
でもオリヴァーは自信があるみたいだ。
そんなわけで、レティとソフィーと一緒にノーザンフォードの広場を歩いている。
今日は日曜日。ちなみにこの世界の暦は元の世界と一緒だ。
この世界では江戸時代の日本みたいに休日がない仕事も多いけれど、日曜は休んでいる人もいるから、人通りは多い。
町の中心にある広場には野菜や果物を売る露店も出ている。
レティもソフィーも、工房で作った服や鞄で身を固めている。
最近は工房の職人さんたちがお洒落な服も作り始めているんだ。
鞄は工房が始またったときから作っているから、多くの人に知ってもらっている。
レティは白い生地に刺繍の飾りのついたワンピースにつばの広い帽子というお嬢さんらしいファッションだ。
肩には焦げ茶色のショルダーバッグをかけている。
そしてW&Fのロゴが悪趣味にならない程度に入っている。
これまで訓練用の騎士服か貴族のパーティで着る華やかなドレスしか見ていなかったから新鮮だ。
カジュアルだけどお洒落な今日の服はよく似合っている。
ぼうっと見ていたら、レティがニヤっと笑った。
「どうしたの、ウィル。もしかして見惚れてたの?」
「うん、もともとレティは綺麗だし、今日みたいなカジュアルな服だと可憐さもあって、よく似合うなと思って」
レティは一瞬驚いた表情を見せると、すぐに真っ赤な顔になった。
「そういうことを深く考えずに言うのは止めなさい」
素直に答えたのに、どうして怒られるのかな。
妹のソフィアは淡いレモン色のワンピースに茶色の皮のベルトを締めている。
若草色のベレー帽が可愛さを引き立てている。
肩にかけているのは水色のショルダーバッグだ。
「ソフィー、とても似合っているよ」
「本当ですか?」
うん、照れているソフィーは今日も可愛いね。
僕らの後ろを付いてきているオリヴァーは化粧せず、地味なシャツとズボンという服装をしている。
それでも中性的な美少年なのだけれど、帽子を深くかぶって黒縁の伊達眼鏡をかけている。
「今日の僕は黒子ですから」
「オリヴァーは綺麗だから、工房の服を着たらいい宣伝になるのでは」
「僕は常識の埒外にいますから、憧れる人なんていませんよ」
そうなのかなあ。
レティとソフィーと三人で石畳の広場を歩く。
「レティ姉さまと街を歩くのは久しぶりです」
ソフィーは満面の笑みを浮かべる。
妹はレティのことを姉さまと呼ぶ。家族には姉がいないこともあって、少し年上で家族ぐるみの付き合いのレティを姉のように慕っているんだ。
「そうね。小さい頃はよく三人で一緒に遊んだものだけれど、最近はみんな忙しくなったわね」
「そういえば一緒に出かけるのは久しぶりかな」
レティは剣の稽古に打ち込んでいるみたいだし、ソフィーは勉強を頑張っている。
僕も工房の仕事があるし、三人で過ごす機会は減っているな。
のんびり歩いていると、急に一陣の風が吹いた。
「あっ!」
レティの帽子が飛ばされる。つばが広いから風を受けやすいようだ。
とっさに走ってジャンプしたら、うまく掴むことができた。
「はい、どうぞ」
帽子を渡すと、レティは驚いていた。
「ありがとう。でも何だか調子が狂うわ。昔はぽっちゃりして運動は苦手だったのに」
「ふふ、昔の僕とは違うんだよ」
「本当にそうね。今では凄い生産スキルで有名になって、大きな工房を率いて。おまけに痩せて格好良くなっちゃって」
あれ、褒めてくれているはずなのに、なぜかレティは拗ねたような口調だ。
「弟みたいに思ってたのに、なんだか複雑な気分よ」
ぼそっと言ったレティの言葉は聞き逃せない。
「あっ、その弟っていうの、母上から聞いたぞ。僕のほうが誕生日は早いのにおかしくない?」
「うふふ。だって昔は自信なさそうだったから、私が励まさなくちゃって思ってたのよ」
「なんだかウィル兄様とレティ姉様は仲良くていい雰囲気です」
「そうですね、僕もお似合いだと思いますよ」
ソフィーとオリヴァーの話が聞こえてきた。凄く照れ臭い。
「まあ貴族の場合は政略とかいろいろあるのでしょうけど。ウィリアム様は最近は第四王女殿下と仲が良いようですし」
「うーん、うちは普通の貴族と違って政略結婚とか考えないみたいです。お母様は『貴族だから結婚相手は一人じゃなきゃいけないわけじゃないわ。たくさんいるのは良くないけれど』と言ってました」
母上はそんなことを言っていたのか。
オリヴァーは周囲を見渡して満足そうだ。
「いやあ、帽子が飛んだときから周りの視線を独占していますね。素晴らしい宣伝になりました」




