第68話 樹海の中層へ
そろそろ新しい素材を手に入れたいな。
まだ作ったことのないものをつくるには、やはり素材が重要だ。
魔力量はまた増えている感覚がある。
ドワーフの族長さんによると、樹海のもう少し深いところには鉱床があるらしい。
鉄や銅のほかにミスリルもあるというのだから夢が広がるな。
ミスリルは軽量で柔らかいのに簡単に切れない不思議な金属として知られている。
ドワーフの鍛冶師たちは耐火装備を贈ったら炉の温度を上げているみたいで、鉄の剣や鎧の品質はさらに向上した。
けれど、彼らもそれで満足しているわけではない。
樹海ではミスリルも使っていたみたいだ。
ミスリルを入手するには、樹海のもっと奥を探索する必要がある。
族長さんによると、樹海には浅層、中層、深層があって、出てくる魔物は奥に行くほど強くなるから危険はある。
ただし、僕が二つの耐性を付与した革鎧の上にドワーフの鍛えた鉄で編んだチェインメイルを着こめば、中層の魔物なら大丈夫だろうというのが族長さんの見立てだ。
そこで、父上とリアムにドワーフの族長さんから聞いた話を伝えて相談した。
「樹海は三層に分かれているのか。そうすると私たちが知っているのは浅層だけということになる」
「我らは樹海のことを分かっていないのですな」
二人とも知らないことの多さに嘆息した。
「樹海では何かが起きている。もっと樹海のことを知る必要があるだろう」
父上もドワーフやエルフが逃げ出すことになった樹海の状況は気になっていたようだ。
「そうですな。それにこれだけ良い装備が揃ったのですから、それにふさわしい強い騎士であらねばなりません。若い者を鍛えるには実戦が重要ですから、樹海の中層を探索するのは良い考えです」
リアムは樹海の中層を騎士の鍛錬の場として考えたようだ。
こうして樹海の中層を探索することになった。
僕は素材探しのために同行する。リアムも来るから、久しぶりに一緒に樹海に出かけることになるな。
そして、古老さんとルーセリナに話をしたら、エルフの一隊も同行してくれることになった。
実は、二つ耐性を付与した革の防具はテオと少しずつ増やして、エルフたちに渡している。
そのこともあってエルフたちは最近、樹海の中層にも足を踏み入れているようだ。
もともと樹海の奥に住んでいて、フェアチャイルド領近辺の樹海の中層を知っている経験者という意味でも、同行してくれるのはありがたい。
探索をする当日、樹海の近くでエルフたちと合流した。
「ウィリアム様、よろしくお願いいたします」
「ルーセリナさん、こちらこそよろしくお願いいたします」
エルフたちを率いてきたは族長のルーセリナだ。
そういえば、テオの友人ということでとルーセリナと呼んでいたけれど、エルフの族長になってからは、人前ではルーセリナさんと呼んでいる。
ただテオなど親しい人だけのときは前と同じようにルーセリナと呼んでほしいと言われている。
ルーセリナはトリマギアで複合魔法も使える強力な魔法師だと聞いた。
でも族長が来てくるのは大げさだと言ったのだけれど、救世主様にもしものことがあってはいけませんと、温厚なルーセリナが珍しく譲らなかった。
やはり樹海は怖い場所なのかな。
それでも危険をおかさないと得られないものもある。
僕らは樹海に入っていった。
索敵魔法の得意なエルフのおかげで、なるべく魔物を避けながら先に進むことができる。
奥に進んでいくと、やがて明るかった森が少しずつ暗くなってきた。
雰囲気も変わった気がする。
「このあたりから中層です」
ルーセリナさん教えてくれた。やはり中層に入ったんだ。
「聞いたな、皆の者。気を引き締めていくぞ」
リアムが騎士たちに気合を入れる。
もしも苦戦するようなら浅層にすぐ戻れるように、今回は中層の浅いところで魔物と戦うことにしている。
騎士たちの顔には緊張の色が浮かぶ。何しろ未体験の場所だ。
「魔猪が来ます!」
探索魔法が使えるエルフが教えてくれた。
魔猪は浅層には滅多に出てこない巨大な魔物だ。猪といっても牛のようなサイズだと聞いている。
まもなく巨大な魔猪が正面から走ってきて地面が揺れる。凄い迫力だ。
「ここは私にお任せください」
リアムは正面から迎え撃つようだ。
巨大な魔物に臆する様子もない。
すれ違いざまにリアムが剣を一振りすると、猪は真っ二つになり、黒い煙をあげて消えた。
強いとは聞いてはいたけれど、一刀両断とは驚いた。
「さすがウィリアム様が付与した鉄をドワーフの鍛えた剣です。切れ味が素晴らしいですな」
いや、剣の問題じゃないと思う。
間もなく魔猪がもう一頭現れた。
今度は騎士団のもう一人の小隊長が相手をする。
一刀両断とはいかないけれど、まず猪の足を切りつけてから、危なげなく倒した。
どうやらうちの騎士たちは思った以上に強いようだ。
ルーセリナも感心した様子で近寄ってきた。
「素晴らしい剣技ですね。このような強い騎士たちがいるなら、心配は無用だったかもしれません」
僕のことを心配してくれるのはありがたいけれど、古老さんは両親を亡くしたルーセリナを心配している。
ルーセリナはもっと自分の安全を重視してほしい。
次に現れたのは魔狼たちだった。
魔猪より弱いが、群れで襲ってくるところが厄介な魔物だ。
今回はリアムと小隊長はバックアップに回り、若い騎士たちが戦う。
「まず魔法で足を止めるぞ」
リアムの指示で魔法を使える騎士たちがスキルを発動する。
「ファイアランス!」
「ウインドカッター!」
騎士たちの頭上に魔法陣が浮かび、魔法陣から赤や青の色とりどりの魔法が撃ち出される。
炎や風の魔法が魔狼の群れに着弾した。
何頭かの魔狼が倒れ、魔物たちの足は止まった。
そこに抜刀した騎士たちが突っ込んでいく。
白刃が煌めき、黒い煙を残して魔物たちは倒れる。
ときどき魔狼に噛まれる騎士もいるけれど、防具が牙を通さない。
良かった、防具は予定どおりの性能を発揮している。
「こら、防具の性能に甘えるな。狼ごときに噛まれる隙を見せるな」
あはは、リアムは厳しいな。
でも、騎士たちが中層でやっていける見通しが立ったことは大きいと思う。




