第67話 鉄に付与しよう、ドワーフと飲もう
新しい工房のカフェでテオとのんびり話していたとき、ふと思いついた
「ねえテオ、革に耐性を付与できるなら鉄にも付与できるんじゃないかな?」
「ん……ぐ。そうですね、可能じゃないでしょうか」
テオは食べかけていたホットドッグを急いで飲み込んで答えた。
「ああ、ごめんね、急いで食べさせちゃって。食べ終わるまで待ってから話せば良かったよ」
工房のカフェは日替わりで軽食を出してくれる。
今日の軽食はホットドッグだ。
僕がベイカーさんにお願いして作ってもらったものだけれど、もともとソーセージはアルビオン王国にもあった。
元の世界でも12~13世紀にドイツで保存食として定着し、ヨーロッパ各地に広まったとされるから、ソーセージは古くから食べられている。
ただしホットドッグは元の世界では1800年代半ばにドイツ系移民が米国で広めたといわれていて歴史が新しく、王国にもなかった。
工房のカフェで提供するのは、焼いたソーセージをバンズに挟んでケチャップとマスタードをかけただけのシンプルなものだ。
でもソーセージのパリッと弾ける感じとジューシーな肉汁、それにソースの甘辛な味がいい。
トマトは南米原産だけど、アルビオン王国では食べられている。
ホットドッグは片手で簡単に食べられるのも便利だ。
そのうちランチも食べられるようになる予定で、ベイカーさんの料理は美味しいから楽しみだ。
今度はテオが食べ終わるのをゆっくり待ってから、地下室に行って付与を試すことにした。
金属の加工はあまり得意じゃないから手を出さないできたけれど、ものづくりの幅を広げるには必要だ。
それに、エルフの探索隊にもっと良い武器を準備するために、その素材をつくりたいと思っているんだ。
ドワーフから買ってきた鉄の塊を目の前に置いてイメージする。
エルフたちが樹海の魔物に襲われたとき、魔物の厚い皮を貫けるような、魔物の固い脚を切れるような特性を付けたい。
危険な探索に行くエルフたちを本当なら僕自身が護りたい。
でも僕は勇者でも賢者でもないから自分が戦って護ることができない。
だから、せめてエルフたちの武器の素材となる鉄を作りたい。
そう願いながら生産スキルを発動した。
身体の奥から魔力が湧きだして右手の先に集まっていく。
魔法陣が浮かび、素材の鉄は温かい光に包まれた。
光が消えた後、現れた鉄は見た目は変わっていない。
上手く作れただろうか。
光の消えた後、鉄を鑑定してみると……
『ドワーフの鉄:刺突強化(付与)、切断強化(付与)』になっていた。
良かった。ちゃんと二つの付与が付いていた。
そこからは、いつものようにテオが複製で増やしてくれる。
そして特性の付いた鉄の塊を僕が生産スキルでインゴットに加工する。
武器への加工はドワーフの職人たちに依頼しよう。
ドワーフの村にインゴットを持っていくと、族長さんは「おお、これは凄い素材じゃのう」と喜んでくれた。
熟練の鍛冶師である族長さんは鑑定魔法も使える。
「二つの特性の付与とはまた、レアなもんを作ったのう。これを使わせてもろうてええんか」
「もちろんです。ドワーフの鍛冶師さんたちにこれで剣を打ってほしいと思って持ってきました」
「そうか、そりゃあ皆張り切るじゃろう」
よろしくお願いしますと言って、ドワーフの村を後にした。
それから数日後、新しい工房の自分の部屋でのんびりしていたら、テオがやって来た。
「師匠、今ちょっとよろしいでしょうか」
「ああテオ、大丈夫だよ」
「叔父上から、二つの特性付きの鉄で剣を打った祝いをするので良かったら一緒にと」
「もう剣が出来たんだね、さすがドワーフだ。じゃあ行こうか」
「いいのですか? みんな酔っぱらって騒ぐので、師匠をお招きするのは申し訳ないような気もするんですが」
テオは生真面目だね。
「楽しそうじゃないか。僕らはまだお酒は飲まないけれど、それは構わないよね」
「もちろんです。ドワーフは酒好きですけど、無理に飲ませることはありません」
テオと一緒にドワーフの村を訪ねると、木製の大きな樽が広場に並んでいる。
どうやらエールの樽のようだ。
「おお、ウィリアム殿にテオ、よう来たのう。これを見てくれ」
族長さんは出来上がった剣を見せてくれた。
剣身で陽光が反射して煌めく。
うん、いい剣だ。
「どうじゃ、なかなかの出来じゃろう」
「ええ、素晴らしいですね。鍛冶師の魂がこめられている気がします」
「おお、ウィリアム殿は分かっとるのう。これを打った鍛冶師は不眠不休で炉の前におったから、今は倒れて寝とる。これは奴が精魂込めて打った剣よ」
「よし、宴を始めよう」
「叔父さん、まだ日も高いよ」
「何を言うか、テオ。祝い事があれば昼間からでも飲むのがドワーフじゃ。剣を打った奴は寝とるが、起きてきたら参加するじゃろう」
木のテーブルに陶製のジョッキが並ぶ。
なんでも最近はレバント商会が持ってくる北部公爵領産の黒ビールがドワーフたちの間ではブームらしい。
「金色のビールは基本じゃが、黒いのもコクがあって旨い」
「北の人間はいいビールを作るようじゃ」
お金は大丈夫かと聞いたら、辺境伯家が良い値で剣を買うし、レバント商会も鉄製品や金属細工を高値で買ってくれるから大丈夫だと笑っていた。
稼いだお金が全部ビール樽になっていないか少し心配だけど、後でオリヴァーに聞いたら、酒を売りすぎないように上手くコントロールしているらしい。
うん? もしかして道路工事の報酬をちゃんと受け取るようになったのはビールを買うためかもしれないな。
まあ、それでもいいか。
つまみは焼いた肉やソーセージが大皿に盛られている。
塩が多めに振られていてビールに合うような味付けだ。
あとは大きなパンが籐製の篭にいれられている。
野菜はどこにいったと思うけれど、肉の好きなドワーフらしいかな。
族長が乾杯の音頭をとる。
「「「乾杯!!!」」」
「ぷはー、この一杯のために生きとる」
「全身に染みわたるのう」
みんないい笑顔だ。自分が飲めなくても、同じ席にいるだけで楽しいな。




