第66話 カフェで打ち合わせ
今日は月に一度の工房のミーティングの日だ。
主要スタッフが集まって情報を共有して、この先の予定を話し合う。
参加するのは、ちょっと前にピクニックに行ったメンバーとオリヴァーだ。
朝から天気が良いから、新しい工房の一階のカフェには大きなガラス窓から光が溢れている。
そこに一人、また一人と集まってきた。
早く着いたメンバーはソファに座って、本を読んだり紅茶を飲んだりしながらゆっくり過ごす。
そのうち人が増えてきたら雑談になる。
「ねえ、筋肉痛はどうだった?」
「俺は若くないから治るのに三日かかったよ」
うーん、エイルとカーペンターは付き合わせて悪かったかな。
「でも凄い景色だったよね」
「ああ、それにノーザンフォードの建物が新しくなって道路も整備されているのが分かった。自分の仕事を誇りに思えるのは嬉しいもんだな」
ふう、誘って良かったみたいだ。
工房の方針を話し合うミーティングということになっているけれど、特に議題がなかったら近況を話したり、のんびり雑談したりするだけのこともある。
休みは週に一日だけだから、普段忙しいみんなの息抜きの場にもなればよいと僕は思っている。
まあ雑談からアイデアが生まれることもあるしね。
今日は新作のスイーツをベイカーさんが提供してくれる予定だから、それも楽しみだな。
ポムテのレシピの開発を手伝ってくれたベイカーさんは料理もできるし、紅茶を淹れるのも上手い。
でも本職はお菓子職人だ。
「さあ、召し上がれ」
テーブルの上に焼き立てのアップルパイが並べられる。
シナモンとナツメグの香りが辺りにふわっと広がった。
表面のパイ生地は斜めの格子状になっている、アメリカンスタイルのアップルパイだ。
この世界には中世のイギリスのような、ただ果物を入れて焼いたパイしかなかったから、僕がレシピを提供した。
といってもうろ覚えだったけど、ベイカーさんは足りないところを推測して仕上げてくれるから凄い。
元いた世界で、僕は某有名ハンバーガーショップのハンバーガー自体はあまり好きじゃなかったけど、アップルパイは好きだったんだ。
高いものじゃないからパイ生地はそんなにサクサクしていない。でも程よいバランスの甘酸っぱさが良かった。
「おお、外側はパリッとしていて、中のリンゴは柔らかいね」
「甘くて酸っぱくて暖かい。なんか幸せな気分」
「香り高いですね。これはシナモンとナツメグですか。良いバランスです」
みんな甘い物を食べると笑顔になるよね。
僕も一切れをお皿にとって食べてみる。
ああ、懐かしい。こんな味だったよ。
パイ生地はベイカーさんが作ってくれたもののほうが遥かに美味しいけれど。
ハンバーガーショップで友達とくだらない話をしていたのを思い出すな。
「ありがとう、ベイカーさん。素晴らしい出来だよ」
「ふふふ、ウィリアムさんのお口にあったようで何よりです。まあ砂糖にシナモン、ナツメグと高価な材料をたくさん使っていますからね」
「いや、材料のおかげじゃなくて、ベイカーさんの腕がいいんだ。初めて作ったのにこのバランスの良さと完成度はすごいね」
みんなが食べ終わったところで、工房の話をする。
普段は各部門の状況を報告しあったり、いろんなアイデアを出したり、雑談したりするのだけれど。
「みんな、今日はオリヴァーから、工房のこれからの方針について提案があるんだ」
「今日、僕が提案したいのは工房の製品の価値をさらに高める戦略です。今でもこの工房で作った物は品質が高いという評判があります」
「でも、パッと見てこの工房製だとは分かりませんよね。そこで工房のマークを付けておけば、すぐにわかるようになります」
なるほど、ロゴマークだね。
「ゆくゆくは、この工房で作った物を持っていること自体に価値があるようにしたいと思っています。そのためにまず工房の名前とマークを決めましょう。そのことは辺境伯閣下の了解も得ています」
さすがオリヴァー、根回しを終えているようだ。それにブランドという言葉を使わないでブランド化を説明しているのは凄い。
「工房の名前はウィリアム工房でいいのではないでしょうか?」
「ふふ、師匠をレスペクとするテオさんらしい提案ですね。でももう一ひねりほしいですね。短くて呼びやすいほうが良いです。」
いや、恥ずかしいから止めてほしい。
「じゃあウィル&テオ工房はどうですか?」
「おお、メイベルさんの提案はいい感じですね」
「いや、恐れ多いからダメですよ」
いろいろ話した結果、ウィル&フェローズ工房に決まった。ウィルと仲間たちみたいな意味だ。
僕の名前は外してほしいと言ったのだけれど、みんなに押し切られた。
そしてロゴマークはWとFを飾り文字にして一部重ねたものになった。
デザインしたのはオリヴァーだ。やはりセンスがいい。
オリヴァーは満足そうな表情を浮かべると宣言した。
「さあ、ウィル&フェローズ工房とロゴマークを有名にしていきますよ!」




