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【書籍化】生産スキルで内政無双~辺境からモノづくりで幸せをお届けします~  作者: スタジオぞうさん


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第65話 雨の日

 今日は朝から雨が降っている。

 気温も低くて肌寒い気がして、外に出かける気分になれない。

 傘も無いし。


 現代の日本人の感覚だと雨傘はあるのが当たり前だけれど、元の世界も中世には傘は無かった。

 ヨーロッパで傘が普及するのは16世紀以降だったらしい。


 この世界の文明水準はヨーロッパの中世に近くて、やはり傘は存在しない。

 日本ほどたくさん雨が降らないし、降ってもざあざあとは降らず、ぼそぼそ降ることが多いのもあるだろうけど。


 僕の部屋は日当たりの良いところにあるけれど、今日は薄暗い。

 蝋燭を灯して、本でも読もうかな。ちなみに電灯もまだこの世界には無い。

 レバント商会に取り寄せてもらった地誌の本を取り出した。


 自分で作ったソファに座り、ページをめくる。

 メイドさんが持ってきてくれた陶製のポットに入れた紅茶をカップに注ぎ、ゆっくりと飲む。


 雨の音を聞きながら読書するのは、気持ちが落ち着く感じもする。

 本には外国の風物が書いてある。

 今日はヴァンドル帝国のところを読もう。


 アルビオン王国の北の公爵領のさらに北に帝国はある。

 この世界には正確な地図はないけれど、おおまかな位置は分かっている。


 広大な魔境である樹海は南ではアルビオン王国に面し、北ではヴァンドル帝国に面している。

 王国と同じように魔物が出るので、帝国でも剣と魔法が重視されていたようだ。


 ただし最近になって商業も重視されるなど、内政に力を入れて国力が増しているらしい。

 本によると、帝国では寒いから小麦と並んでライ麦が主食みたいだ。


 そしてアルビオン王国への主な輸出品は砂糖と書いてある。意外だけれど、たぶん元の世界のテンサイのような植物がこの世界にもあるんだろうな。

 

 今年は初夏になっても気温があまり上がらない。

 過ごしやすくて良い面もあるけれど、ルーカス公子は冷害を心配していたな。

 さらに北の帝国は大変なのかな。


 お昼になったから、食堂に向かって歩いていく。

 広い廊下には銀の燭台が置いてあって蝋燭が灯されている。その影があちこちに伸びて、普段と違う雰囲気になっている。


 小さい頃、こんな日には影から魔物が出そうな気がして怖かったことを思い出した。

 魔物か……僕に救世主はちゃんと務まるのかな?


 食堂には先に妹が来ていた。

 いつも元気なソフィーも雨のせいか、もの思いに耽っているようだった。

 初夏なのに気温も低くて、なんだか肌寒い気がする。


 料理長はそんな気分を察してくれたのか、季節外れの暖かいシチューを出してくれた。

 湯気の立ったお皿の中に、柔らかく煮えた肉と野菜が入っている。

 シチューを食べているうちに、身体も心も落ち着いてくる気がした。


 午後も雨は降り続いている。

 窓から外を見上げると、文字通りの曇天だった。今日は一日中どんよりした天気なのかな。


 朝は静かに本を読むのも悪くないと思ったけれど、ずっとじっとしていると、気分も落ち込んでくる気がする。

 少し気分を変えようと思って音楽室に行った。


 部屋のドアを開け、中央に置いてあるピアノに歩いていく。

 楽譜を広げると、椅子に腰かけて鍵盤に向かい合う。

 周りに誰もいないから、元の世界の曲を弾いてみようかな。


 雨の日にあわせて、静かな落ち着いたメロディのものにしよう。「教授」と呼ばれた日本の作曲家のピアノ曲を弾く。

 弾き終わると、驚いたことに後ろからパチパチと拍手が聞こえた。


 演奏に集中していて、誰か来たことに気づかなかった。

 「お兄様、素晴らしい曲ですわ。繊細で、どこかもの悲しくて。初めて聞いた曲ですけれど、なんという名前の曲なのですか?」


 うわ、しまった。ソフィに聞かれていた。

 どうしよう?エルフに教えてもらったことにしようかな?

 いやエルフは弦楽器を持っているけれど、ピアノは持っていないな。


「思いついたメロディを即興で弾いていたんだよ」

 とっさに言い訳をする。

「まあそうでしたの。お兄様は作曲家の才能もあるのではないかしら。」


 うう、良心が痛む。心の中で平謝りした。

 もう一度弾いてほしいというソフィに、即興だったので同じように弾けないと言い訳をして、それより一緒に弾こうと誘う。


 ソフィのために椅子を持ってくると、素直な妹は隣に座ってくれて、二人で連弾を始めた。

 不思議なもので、一人で弾くよりも元気が出てきた。


 しばらく二人で弾いていると、ピアノの旋律に合わせて豊かなバイオリンの音色が聞こえてきた。

 振り返ると、母上がにっこり笑ってバイオリンを抱えていた。


「二人とも上手になったわね。一緒に演奏しましょう。さあ、テオちゃんもいらっしゃい」

 母上の後ろには竪琴を持ったテオがいた。


 それから四人でしばらく合奏した。

 いつの間にか気持ちは明るくなっていた。


 翌日の朝食でその話をしたら、「どうして私を呼んでくれなかったんだ」と父上がむくれた。

 いや、父上はいつも忙しそうだから声をかけることは思いつかなかった。


 領主の仕事は大変そうだ。

 そう思うと、あまり早く領主になりたくないな。

 でも世界樹のことを考えると、早く南の未開地の領主になったほうが良い。


 世界のために努力してきたエルフたちのことを思うと、僕も頑張らなきゃいけないと思う。

 それでも正直に言えば、ときどき重荷に感じて、逃げ出したくなることもある。


 いけないな、昨日の憂鬱な気分を引き摺っているのかな。気持ちが後ろ向きだ。

「お兄様、何を考えていらっしゃるの?」

 見ると、ソフィーは心配そうな顔をしている。


 妹を心配させるようじゃいけないな。

 それに、僕は一人じゃない。

 家族はいつも味方でいてくれるし、テオもオリヴァーも支えてくれる。


「たいしたことは考えていないよ」

 ソフィーに向かって微笑む。


 それから、今度日にちを決めて家族で合奏しようと提案したら、みんな賛成してくれた。




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